江戸の検屍ばか

崎田毅駿

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4.先は丸い方がよい

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「俺の仕事が大事だと、話の分かるおまえなら、これからいうことも聞いてくれるだろう」
「何の話です? とにかく薬を」
「分かった分かった。押し付けるな、こぼれる」
 堀馬は話を先に進めるため、苦手な薬を一気に服した。むせそうになるが、どうにか堪える。
「――あー、これでよかろう? で、話の続きなんだが、ちょっと表に出て聞いてきてくれないか」
「何をでございましょう」
「うー、最初に断っておくが、これは無理をしようとしているのではなく、晴れて復帰できた時を見据え、素早く仕事に対処できることを目的としたものだぞ」
「お仕事の話なんですね。しょうがありません。とりあえず言ってみて」
 やれやれといった態度になった小糸だったが、まだ聞く耳は持ってくれている。堀目は先ほど外から聞こえてきた話し声について、かいつまんで伝えた。
「――という訳だから、何か起きたんだと思う。どこの誰が亡くなって、事件なのかどうかを知りたい。あ、それにもう一つ、誰が仏さんを視ているのかも」
「お仕事を盗られるかもしれないと、心配ですか」
「いや、それはない」
 即座に否定。喋る時間が長くなってきたせいか、喉がいがらっぽくなり、咳払いを挟む。そして続きを。
「俺の代わりが完全に務まる者は、まだおらぬ。心配なのは、誰が代役を務めているのか、だ。うちには、頭でっかちなだけで先を考えようとしない者もいるのでな」
 そう述べる堀馬の脳裏には、一人の男の取り澄ました横顔が思い浮かんでいた。

             *           *

「着物の下にも目立った傷や痣、腫れの類は見当たらず。肉付きよく、病を患っていたようにも見えない。となると、次にするべきは」
 ここまでの判断を声に出して再確認しながら、高岩は検屍道具を広げさせ、物色に入った。時間をさほど掛けることなく、銀の匙を選び取る。
「毒、であるな。法助よ、仏の口を開けてみせてくれ」
 高岩の検屍ぶりも、どうにか格好は付いてきた。積極的には遺体に触れようとしない辺り、堀馬の旦那とは真逆だなあと感じつつ、法助は求めに応じて遺体の口を開けてみせる。硬直がすでに起きつつあり、必要に応じて力を加えねばならない。
「どれ」
 口中を覗き込み、喉の位置をしかと見定める仕種の高岩。
 繰り返しになるが、銀の匙は、毒死の可能性の有無を探るための道具だ。これを死者の口の奥、喉の付近に当ててしばらく置いてから、引き出す。先端が黒く変色していれば、毒に当たって死んだものと推定されるのだ。
 なお、断るまでもないが、喉にあてがう物は銀製でさえあれば、匙でなくともよい。簪や箸でも充分に用をなす。匙を用いるようになったのは堀馬の発案で、理由がある。つまり、おっちょこちょいな輩が簪や箸のような尖った代物を迂闊に扱うと、死者の口の中に要らぬ傷を付けてしまう恐れがある。先が丸い匙ならば、傷つける危険性を低く抑えられるという次第だ。
「待つ間に二人に尋ねるが」
 高岩が法助と多吉に話し掛けた。何やら言いにくそうな空気をまとっている。
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