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コイカケその26
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どんなゲームを提案するのかは、開始直前まで明かされないスタイルが取られる。
前もって明かすと、第一のゲームをしている間にも、第二のゲームの対策を講じる余地が生じうるからだという。
「それでは先に、帆里南の提案するゲームで対決してもらうとします」
馬込は帆里にアイコンタクトしたようだ。帆里は背中に両手を回したかと思うと、それぞれの手に何やら持っていた。
「文庫本と……果物ナイフ?」
どこに入れてたんだろうと驚いた。文庫本は結構厚さがあるし、ナイフは鞘付きとは言え刃物で危ない。
「まず一人が、このナイフの切っ先を文庫本の天、地、小口いずれかから適当なところに差し込む。次に対戦相手はその状態で本を受け取り、ナイフが差し込まれたのが何ページなのかを予想する。ぴたりと当てたら、そこでゲーム終了。そうでなければ、攻守交代して同じことを行った上で、近似値を言った者の勝利。簡単でしょう?」
「簡単ですが、ちょっと気になることが。先に回答する側がぴたりと言い当てたら、後番の者は答える権利なしのまま、終了なんですか」
「その通り」
「じゃ、先行の方が有利だ」
「そう思うのなら、先にやらせてあげる」
「……そうします」
少しだけ考え、先行をもらうことにした。短時間で勝負しなければいけないという暗黙の了解がプレッシャーになってもいたが、短慮ではないと思う。絶対に先行が有利だ。たとえ言い当てられなくても、相手が提案したゲームで相手に先行を取らせるのだけは避けねば。
それに――僕はこのゲームを知ってる。いや、このマジックを知っている。先行を取れるのなら、僕の勝ちだ。
「では、帆里南が文庫本にナイフを。ああ、ちなみにその文庫本の総ページ数は?」
「数字が振ってあるのは、ローマ数字で五百二十までね。書いてないところに差し込んだ場合は、ノーカウントで」
言いながら、ナイフを鞘から抜く帆里。よく磨かれているのか銀色の金属部分が、室内のライトを反射している。
「ここにするわ」
割と簡単に差し入れた。中程だ。
「さあ、どうぞ」
ナイフを挟んだままの文庫本が、帆里の手から僕の手へと移動する。
「ナイフに触れてもかまいませんよね? もちろん、ページがめくれ上がって数字を見るようなことはしません」
「ええ」
「――馬込ディーラーにも質問が」
「何なりと」
「言い当てるページはどちらでもいいのかな? つまり、このナイフを差し込んだところを開けば、左右に二ページ分がある訳で」
「なるほど。でも、どちらでもかまわないでしょう。ぴたりと言い当てられなかった場合は、絶対値を取ることになりますから、そのときはより小さな値になる方のページを採用としましょう」
「分かりました。それでは」
僕はナイフを文庫本の天の方に移動させた。この辺りにページ数が書いてあるはずと当たりを付ける。次に、ナイフから上のページを、ほんの一瞬だけ持ち上げた。
ページとナイフの間にスペースを作ることで、ナイフの表面が見て取れる。そして、このナイフの刃先は、よく磨かれた鏡のようになっている。
266
鏡文字になって写っていた数字を素早く読み取った。
前もって明かすと、第一のゲームをしている間にも、第二のゲームの対策を講じる余地が生じうるからだという。
「それでは先に、帆里南の提案するゲームで対決してもらうとします」
馬込は帆里にアイコンタクトしたようだ。帆里は背中に両手を回したかと思うと、それぞれの手に何やら持っていた。
「文庫本と……果物ナイフ?」
どこに入れてたんだろうと驚いた。文庫本は結構厚さがあるし、ナイフは鞘付きとは言え刃物で危ない。
「まず一人が、このナイフの切っ先を文庫本の天、地、小口いずれかから適当なところに差し込む。次に対戦相手はその状態で本を受け取り、ナイフが差し込まれたのが何ページなのかを予想する。ぴたりと当てたら、そこでゲーム終了。そうでなければ、攻守交代して同じことを行った上で、近似値を言った者の勝利。簡単でしょう?」
「簡単ですが、ちょっと気になることが。先に回答する側がぴたりと言い当てたら、後番の者は答える権利なしのまま、終了なんですか」
「その通り」
「じゃ、先行の方が有利だ」
「そう思うのなら、先にやらせてあげる」
「……そうします」
少しだけ考え、先行をもらうことにした。短時間で勝負しなければいけないという暗黙の了解がプレッシャーになってもいたが、短慮ではないと思う。絶対に先行が有利だ。たとえ言い当てられなくても、相手が提案したゲームで相手に先行を取らせるのだけは避けねば。
それに――僕はこのゲームを知ってる。いや、このマジックを知っている。先行を取れるのなら、僕の勝ちだ。
「では、帆里南が文庫本にナイフを。ああ、ちなみにその文庫本の総ページ数は?」
「数字が振ってあるのは、ローマ数字で五百二十までね。書いてないところに差し込んだ場合は、ノーカウントで」
言いながら、ナイフを鞘から抜く帆里。よく磨かれているのか銀色の金属部分が、室内のライトを反射している。
「ここにするわ」
割と簡単に差し入れた。中程だ。
「さあ、どうぞ」
ナイフを挟んだままの文庫本が、帆里の手から僕の手へと移動する。
「ナイフに触れてもかまいませんよね? もちろん、ページがめくれ上がって数字を見るようなことはしません」
「ええ」
「――馬込ディーラーにも質問が」
「何なりと」
「言い当てるページはどちらでもいいのかな? つまり、このナイフを差し込んだところを開けば、左右に二ページ分がある訳で」
「なるほど。でも、どちらでもかまわないでしょう。ぴたりと言い当てられなかった場合は、絶対値を取ることになりますから、そのときはより小さな値になる方のページを採用としましょう」
「分かりました。それでは」
僕はナイフを文庫本の天の方に移動させた。この辺りにページ数が書いてあるはずと当たりを付ける。次に、ナイフから上のページを、ほんの一瞬だけ持ち上げた。
ページとナイフの間にスペースを作ることで、ナイフの表面が見て取れる。そして、このナイフの刃先は、よく磨かれた鏡のようになっている。
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鏡文字になって写っていた数字を素早く読み取った。
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