コイカケ

崎田毅駿

文字の大きさ
上 下
26 / 59

コイカケその26

しおりを挟む
 どんなゲームを提案するのかは、開始直前まで明かされないスタイルが取られる。
 前もって明かすと、第一のゲームをしている間にも、第二のゲームの対策を講じる余地が生じうるからだという。
「それでは先に、帆里南の提案するゲームで対決してもらうとします」
 馬込は帆里にアイコンタクトしたようだ。帆里は背中に両手を回したかと思うと、それぞれの手に何やら持っていた。
「文庫本と……果物ナイフ?」
 どこに入れてたんだろうと驚いた。文庫本は結構厚さがあるし、ナイフは鞘付きとは言え刃物で危ない。
「まず一人が、このナイフの切っ先を文庫本の天、地、小口いずれかから適当なところに差し込む。次に対戦相手はその状態で本を受け取り、ナイフが差し込まれたのが何ページなのかを予想する。ぴたりと当てたら、そこでゲーム終了。そうでなければ、攻守交代して同じことを行った上で、近似値を言った者の勝利。簡単でしょう?」
「簡単ですが、ちょっと気になることが。先に回答する側がぴたりと言い当てたら、後番の者は答える権利なしのまま、終了なんですか」
「その通り」
「じゃ、先行の方が有利だ」
「そう思うのなら、先にやらせてあげる」
「……そうします」
 少しだけ考え、先行をもらうことにした。短時間で勝負しなければいけないという暗黙の了解がプレッシャーになってもいたが、短慮ではないと思う。絶対に先行が有利だ。たとえ言い当てられなくても、相手が提案したゲームで相手に先行を取らせるのだけは避けねば。
 それに――僕はこのゲームを知ってる。いや、このマジックを知っている。先行を取れるのなら、僕の勝ちだ。
「では、帆里南が文庫本にナイフを。ああ、ちなみにその文庫本の総ページ数は?」
「数字が振ってあるのは、ローマ数字で五百二十までね。書いてないところに差し込んだ場合は、ノーカウントで」
 言いながら、ナイフを鞘から抜く帆里。よく磨かれているのか銀色の金属部分が、室内のライトを反射している。
「ここにするわ」
 割と簡単に差し入れた。中程だ。
「さあ、どうぞ」
 ナイフを挟んだままの文庫本が、帆里の手から僕の手へと移動する。
「ナイフに触れてもかまいませんよね? もちろん、ページがめくれ上がって数字を見るようなことはしません」
「ええ」
「――馬込ディーラーにも質問が」
「何なりと」
「言い当てるページはどちらでもいいのかな? つまり、このナイフを差し込んだところを開けば、左右に二ページ分がある訳で」
「なるほど。でも、どちらでもかまわないでしょう。ぴたりと言い当てられなかった場合は、絶対値を取ることになりますから、そのときはより小さな値になる方のページを採用としましょう」
「分かりました。それでは」
 僕はナイフを文庫本の天の方に移動させた。この辺りにページ数が書いてあるはずと当たりを付ける。次に、ナイフから上のページを、ほんの一瞬だけ持ち上げた。
 ページとナイフの間にスペースを作ることで、ナイフの表面が見て取れる。そして、このナイフの刃先は、よく磨かれた鏡のようになっている。

 266

 鏡文字になって写っていた数字を素早く読み取った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

それでもミステリと言うナガレ

崎田毅駿
ミステリー
流連也《ながれれんや》は子供の頃に憧れた名探偵を目指し、開業する。だが、たいした実績も知名度もなく、警察に伝がある訳でもない彼の所に依頼はゼロ。二ヶ月ほどしてようやく届いた依頼は家出人捜し。実際には徘徊老人を見付けることだった。憧れ、脳裏に描いた名探偵像とはだいぶ違うけれども、流は真摯に当たり、依頼を解決。それと同時に、あることを知って、ますます名探偵への憧憬を強くする。 他人からすればミステリではないこともあるかもしれない。けれども、“僕”流にとってはそれでもミステリなんだ――本作は、そんなお話の集まり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...