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コイカケその14
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味澤は相手に五枚のカードをそのまま裏向きにテーブルに置くように求めた。そして二枚、オープンさせるカードの場所を指定する。一枚は適当でいいが、もう一枚は真ん中だ。
(真ん中にあるカードこそが、三回目の交換で引いた一枚だ。あれを見ればおおよその想像が付く)
「俺から見て、右から二枚目と三枚目をオープン」
「承りました。それでは――」
ディーラーが皆まで言わずとも、指定の札が表向きにされた。
味澤は真ん中の札の数字にのみ、意識を向けた。
(エースか!)
快哉を叫びそうになった。最後に交換した一枚がエースということは、ストレートは失敗だ。エースは元の手札にあったのだから。
(つまり奴の役は、エースのワンペア。スリーガードで充分に勝てる)
確信を得た味澤は、チップの山を押しやりながら言った。
「勝負だ」
「ベットするチップはいかほど?」
「レイズされた五十枚にさらに上乗せ……十枚で、六十枚だ。合計すると参加料を含めて七十五だな」
積み重ねる味澤。降ろすつもりでのレイズではない。相手のレイズははったりだと見なした上で、さらに出させようという魂胆だ。
(少額なら降りる決断も簡単だが、この額では引っ込みが付かないんだろう? 同額で応じるだけじゃだめだ。おまえは俺を降ろさせたいのだから、もっと積まねばならない)
「コールしたら、残りのチップは十六枚か。そのくらい残してもさして意味がない。全部突っ込むよ」
手元にあった全てのチップを場に出し、合計で九十一枚が積まれた。
(全額勝負に出れば、こっちが警戒し、降りると思ったか? 残念、俺もここから引ける訳がない。それに、ワンペア相手にスリーカードで降りる理由はない!)
味澤は声を発さずに、淡々とした態度に努めて、レイズに応じた。場のチップは全てで百八十二枚になった。
ディーラーの馬込が静かに告げる。
「念のために確認をしておきます。実質的に、この回を取った方の勝利となります。ご理解なさっていますね?」
両者とも頷いた。
味澤が勝てば相手のチップをゼロにしたのだから勝ち、負けた場合は味澤の手元には十八枚のチップが残るが、残り十二戦を相手に降りられ続けたら、逆転は不可能である。
「それではお二方とも、手札を同時に開いていってください」
カードを手にしていた味澤は、五枚まとめて表向きにし、7のスリーカードを誇示。
相手はカードをテーブルに置いていたので、裏向きの三枚を一枚ずつひっくり返す。少し手間取った。
が、最後までカードが開かれたとい、味澤の確信と余裕は打ち砕かれる。
「な? 馬鹿なっ、ストレートが完成しているだと?」
「ありがとうと言わせてもらいます。そこまで読んでくれて」
相手は白い歯を覗かせ、勝利の笑みを見せた。
* *
僕は対戦相手の味澤にある意味で感謝していた。
ストレートの完成に驚いていたということは、僕がばらまいたエサにいちいち食いついてくれた証拠だ。
相手が僕の手札の位置を目でしっかり追って、観察していることは、初戦に負けたときに把握した。
だからこの回、最初のチェンジでダイヤの2とスペードの3が来て、反射的に舌打ちしまったのを逆に利用することを思い付いた。次のチェンジの際、大きな動作でダイヤの2とスペードの3を捨てたのは、味澤に見えるようにしたかったから。ただ、それを意識するあまり、ちょっと力が入りすぎてしまった。不自然さから逆に見破られるんじゃないかと心配になったが、どうやら大丈夫だったみたいでほっとした。
罠を張ると言っても、運がなければ作戦が発動しなかったのも事実だ。最後にクイーンが来てストレートが完成し、相手の手がツーペア以上、(エース~10の)ストレート未満でなければ、こうは行かなかったろう。
(真ん中にあるカードこそが、三回目の交換で引いた一枚だ。あれを見ればおおよその想像が付く)
「俺から見て、右から二枚目と三枚目をオープン」
「承りました。それでは――」
ディーラーが皆まで言わずとも、指定の札が表向きにされた。
味澤は真ん中の札の数字にのみ、意識を向けた。
(エースか!)
快哉を叫びそうになった。最後に交換した一枚がエースということは、ストレートは失敗だ。エースは元の手札にあったのだから。
(つまり奴の役は、エースのワンペア。スリーガードで充分に勝てる)
確信を得た味澤は、チップの山を押しやりながら言った。
「勝負だ」
「ベットするチップはいかほど?」
「レイズされた五十枚にさらに上乗せ……十枚で、六十枚だ。合計すると参加料を含めて七十五だな」
積み重ねる味澤。降ろすつもりでのレイズではない。相手のレイズははったりだと見なした上で、さらに出させようという魂胆だ。
(少額なら降りる決断も簡単だが、この額では引っ込みが付かないんだろう? 同額で応じるだけじゃだめだ。おまえは俺を降ろさせたいのだから、もっと積まねばならない)
「コールしたら、残りのチップは十六枚か。そのくらい残してもさして意味がない。全部突っ込むよ」
手元にあった全てのチップを場に出し、合計で九十一枚が積まれた。
(全額勝負に出れば、こっちが警戒し、降りると思ったか? 残念、俺もここから引ける訳がない。それに、ワンペア相手にスリーカードで降りる理由はない!)
味澤は声を発さずに、淡々とした態度に努めて、レイズに応じた。場のチップは全てで百八十二枚になった。
ディーラーの馬込が静かに告げる。
「念のために確認をしておきます。実質的に、この回を取った方の勝利となります。ご理解なさっていますね?」
両者とも頷いた。
味澤が勝てば相手のチップをゼロにしたのだから勝ち、負けた場合は味澤の手元には十八枚のチップが残るが、残り十二戦を相手に降りられ続けたら、逆転は不可能である。
「それではお二方とも、手札を同時に開いていってください」
カードを手にしていた味澤は、五枚まとめて表向きにし、7のスリーカードを誇示。
相手はカードをテーブルに置いていたので、裏向きの三枚を一枚ずつひっくり返す。少し手間取った。
が、最後までカードが開かれたとい、味澤の確信と余裕は打ち砕かれる。
「な? 馬鹿なっ、ストレートが完成しているだと?」
「ありがとうと言わせてもらいます。そこまで読んでくれて」
相手は白い歯を覗かせ、勝利の笑みを見せた。
* *
僕は対戦相手の味澤にある意味で感謝していた。
ストレートの完成に驚いていたということは、僕がばらまいたエサにいちいち食いついてくれた証拠だ。
相手が僕の手札の位置を目でしっかり追って、観察していることは、初戦に負けたときに把握した。
だからこの回、最初のチェンジでダイヤの2とスペードの3が来て、反射的に舌打ちしまったのを逆に利用することを思い付いた。次のチェンジの際、大きな動作でダイヤの2とスペードの3を捨てたのは、味澤に見えるようにしたかったから。ただ、それを意識するあまり、ちょっと力が入りすぎてしまった。不自然さから逆に見破られるんじゃないかと心配になったが、どうやら大丈夫だったみたいでほっとした。
罠を張ると言っても、運がなければ作戦が発動しなかったのも事実だ。最後にクイーンが来てストレートが完成し、相手の手がツーペア以上、(エース~10の)ストレート未満でなければ、こうは行かなかったろう。
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