コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその9

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「じゃあ、聞きたいことがあります」
 挙手した僕を馬込が指名する。僕は慎重に言葉を選んだ。対戦相手の味澤にとってヒントになるようなことは言いたくない。
「先程の札をオープンするルールの説明で、よく分からなかったんですが、開く札は、誰が決めるんでしょう?」
「権利を行使する者が決めます。誰それのカードの向かって右から二枚目、という風に」
「拒否はできない?」
「もちろんですとも」
「なるほど。ゲームをしている人物のカードを指定すれば、どんなことがあってもそれは開かれると」
「さようで」
「逆に、言い間違えた場合は、やり直しが利きますか? 例えば二枚をオープンさせるときに、右から二枚目と左から四枚目なんていう風に同じ箇所を指定しまったとか」
「やり直しはできません。カードの指定は慎重にしてください」
「よく理解できました。ありがとう、馬込さん」
 味澤を見やる。彼も何か質問すべき点はないか、考えている様子だ。と、彼の片手が小さく挙げられた。
「では、俺、いや私からも質問を。チップ枚数で劣る側が全額勝負に出たとき、相手もオールイン、つまり全額を賭けて応じなければならないのかな?」
「いえ。相手が賭けたチップ枚数と同じ数でかまいません」
「それはよかった。理不尽なルールがないのは助かる。それからもう一つ。故意に時間稼ぎをするような行為は許されるのかな?」
「文章で明確に規定したものはございません。しかし私、馬込が私個人の責任として、遅延行為は厳しく判定させていただきます。注意から警告、果ては失格負けもあり得ますので、ご注意ください」
「うーん、結構結構。理想的なルールだ」
 味澤が満足げに身体を揺すったところで、質問タイムは終わり、いよいよギャンブル開始と相成った。馬込が言う。
「最初に、カード交換の順番を決めるとしましょう。交換の順番は勝負ごとに入れ替わるとします。決め方は、コイントスかじゃんけんか、何でもよろしいのですが」
「じゃんけんでいいだろ」
 即座に言った味澤。
「コインだと、表か裏かを決めるのはいいが、二人の内のどちらが先に決めるんだ?っていう話になりかねない。じゃんけんなら、そういう煩わしさから解放される」
「いいですよ、味澤さん。早くしましょう。じゃん、けん、ぽん」
 僕が早口で捲し立て、じゃんけんの動作をすると、味澤は慌てたようにパーを出した。
 人は虚を突かれると、じゃんけんでパーを出す確率が高い。どの手を出すのか検討する余裕がなくなるためだという。そのことを雑学として知っていた僕はチョキを出して、幸先よく勝てた。
 先手と後手、どちらにするか? 検討するまでもない。先手番を取りに行く。
「では僕は先手にします」
 追加ルールによりオリジナル色を帯びたこのポーカーゲームだけれども、惑わされてはいけない。ストップを掛けた相手の手札の内、最大で四枚を見ることができたとしたって、その時点で敵も自分も手札は確定しているのだ。
 敵の手札の強さがほぼ分かったとしても、降りるか勝負するか、掛けるチップを増やしてレイズするかの参考になるだけだ。それまでに大量のチップを積んでいたら、仮に降りても損害は甚大である。
 こだわるべきは、速攻のための環境を整えること。
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