コイカケ

崎田毅駿

文字の大きさ
上 下
2 / 59

コイカケその2

しおりを挟む
「あの、質問がまだいくつかあります」
「どうぞ。気の済むまでお付き合いしましょう」
「まず、静流さんに勝てずに終わった場合、どうなるんだろう? 後継候補者も結婚相手も決まらないままだとして、次の機会はあるのかないのか」
「あります。来年の静流さんの誕生日に、また同様のトーナメントを催すことになるでしょう」
「……静流さんが滅茶苦茶強くて、誰も彼女に勝てないまま、長い年月が経ったら? 適当な頃合いを見てわざと負けるとか」
「そのようなことは決してございません!」
 びっくりした。三ツ矢さんのこんなにも迫力ある物腰は初めてだ。圧を感じて、思わず後ずさりしてしまう。
「ギャンブルの勝敗は神聖なものです。たとえいかさまはあったとしても、わざと負けるという行為だけは許されません。ギャンブルそのものを汚す悪行にして愚行です」
「わ、分かりました。じゃあ、静流さんに勝つ人物の登場を待ち続けるということですね」
「はい、さようで」
 いつものほんのりとした微笑をたたえた顔に戻る三ツ矢さん。よかった、安心した。
「トーナメントの参加者八名の選考基準は? 静流さんが好まない男性も含まれるんでしょうか」
「確認をしますが、今の『好まない』とは恋愛感情の観点からの表現ですね? ならば、静流さんのお気持ちの全ては測りかねますが、程度の差はあれど、八人全員、好意をお持ちなのは確かです。それが条件の一つですので」
 ということは、僕も好意を持たれているわけで。いや、前から多少はそうじゃないかと意識はしていたけれども、はっきり言葉にされると嬉しくないわけがない。
「質問は以上で?」
「え、あ、はい。一応、すっきりしました」
「では改めて問います。この度の神田部静流誕生パーティにおけるトーナメントに参加されますか?」
 僕はもちろん肯定の返事をした。
 どんなギャンブルをさせられるのか、知らないままに。

 神田部静流のその年の誕生日パーティは、豪華客船トゥオブトリーを借り切って行われることになった。
 神田部家は毎年九月九日に盛大なパーティを催してきたが、今年は初めて、静流の結婚相手を決める場となるため、また格別だ。
 神田部グループはその傘下に銀行や新聞社、自動車メーカーに医療関連会社などを置き、最近ではITビジネスの成長株を吸収した。長きに渡る企業活動の間には浮き沈みが当然あったが、大きく落ち込むことはなく、今も成長を続けている。
 一方で神田部家はその成長過程で敵を次々に作ってきた。中には暴力的な手段を執ることを厭わぬ輩もいるとされる。事実、二年前の静流十八歳のパーティでは、爆竹騒ぎがあった。会場となったホテルのアルバイト従業員が金で雇われてしでかした悪戯レベルの騒動で、即座に取り押さえられて事なきを得た。
 この一件で警戒を強めた神田部家は、今回の誕生日パーティを安全確実に挙行すべく、会場を船の上としたのだ。乗員乗客の身元チェックを厳しく行った上で大海原に出てしまえば、ほぼ安全は確保できる。まさか海賊さながらにボートで乗り付けたり、バズーカ砲で攻撃してくるような連中はいまい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

それでもミステリと言うナガレ

崎田毅駿
ミステリー
流連也《ながれれんや》は子供の頃に憧れた名探偵を目指し、開業する。だが、たいした実績も知名度もなく、警察に伝がある訳でもない彼の所に依頼はゼロ。二ヶ月ほどしてようやく届いた依頼は家出人捜し。実際には徘徊老人を見付けることだった。憧れ、脳裏に描いた名探偵像とはだいぶ違うけれども、流は真摯に当たり、依頼を解決。それと同時に、あることを知って、ますます名探偵への憧憬を強くする。 他人からすればミステリではないこともあるかもしれない。けれども、“僕”流にとってはそれでもミステリなんだ――本作は、そんなお話の集まり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...