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7激甘ネジ
抑えきれない想い side翔④
しおりを挟む「その、みんな見過ぎだから」
千幸がむっと視線を周囲に向ける。
多田が笑いだしたあたりから、全員の視線がこちらに向けられていたのに千幸も気づいていたようで、不機嫌そうに顔をしかめた。
すると、千幸の姉がなぜかうっすらと顔を上気させ、ぱたぱたと手で頬を扇ぐように動かしながら叫んだ。
「あぁぁぁ~、ダメだ。すっごく甘いんですけど。それがちーちゃんたちから出てるってこと自体がもううわぁぁ~ってなってるのだけど」
こっちまで照れるっ! とそこで長兄の嫁に同意を求めるように視線を送ると、彼女もうんうんと頷いた。
「嫉妬する王子とかもいいですよね。千幸さん、愛されてるんですね」
「ね。ちーちゃんがこんなに美形で甘い彼氏連れてくるなんて思いもしなかったから、今日は驚きっぱなしよ」
そう言いながら、によっと千幸を見て笑う姉の瞳は穏やかだ。
それも気に食わないとばかりに、千幸はむむっと眉を寄せた。
「さっちゃん、もう黙ってくれる? ちょっと自分でもどうかと思ってるから」
「へえ。でも、いつものちーちゃんもいいけど、小野寺さんの前で照れるちーちゃんもいいよ。大切にされてるってわかるからかな。私は二人お似合いだと思うよ~」
「………………ありがとう」
そこでちらりと翔に視線をやり、結局視線を戻した千幸は礼を口にした。
それに満足そうに笑う姉。二人の良い姉妹関係が見え、翔も自然と口元に笑みを浮かべた。
それでこの話も終わったかと思いきや、引き継ぐように今度は千幸の母が喋り出す。
「もう、お父さん。千幸がすっごく愛されてるし、二人が結婚したいって言ったら反対しないわよね? 女は愛されて幸せ掴むのがいいのよ」
「気が早いな」
「でも、さっきの聞いたでしょう?」
「……またその時に考える」
父親はぽそりと呟き、酒をぐびっと飲む。
「もう。私は小野寺さんを推すわ。美形が周りに増えると目の保養だし。何より娘を大事にしてくれる人とのお付き合いは親として安心だもの」
「……そうか」
「そうよ。ああ~、なんかいいわね」
こちらに軽くウインクしてくる千幸母。さっきの話を今から御膳立てしようとばかりのそれに、翔は苦笑しながら会釈を返した。
千幸をずっと隣に置くために味方が増えるのは好ましいことだ。これ以上の味方はないと思われる。
「嫉妬も格好悪くみえるどころか、高感度上がるってすごいね」
「それは美形なのと、小野寺さんの持っているモノよ。やっぱり愛があるっていいわ」
「ちょ、周りが騒ぎすぎたら千幸ちゃん照れすぎて動いてないけど」
「いいのいいの。小野寺さんがいるからなんとかなるわよ。こんな千幸ちゃん見れるなんて思ってもいなかったから、新鮮だわ」
と、多田家の方々。
ずいぶんいろいろ言われているが、先ほど曝け出したことも好意的なようだ。
自分の横に座る多田を見ると、少し寂しげだが穏やかな眼差しで千幸を見ていて、ここでどれだけ千幸は愛されているのかを知る。
そして、その周囲の人たちの温かさに触れ、なおさら幸せにしたいと思った。
「みなさん、ありがとうございます。先々のことはまだわかりませんが、千幸さんと話し合って仲良くしていければと思ってますので、これからもよろしくお願いいたします」
「小野寺さんもお忙しいでしょうが、時間が合えばまた一緒に帰ってきてくださいね」
「はい」
「だから、もうみんな私たちの話はおしまい!」
神妙に頷くと、ここでどうしても我慢できなくなった千幸が声を上げた。
「「「「ええ~!?」」」」
千幸を除く女性たちが抗議の声を上げる。
「え~じゃありません! もう。いつも何かあると突こうとして」
ぷんと怒る千幸に、代表して姉が言い繕う。
「仕方がないでしょ。この中で一番ちーちゃんが年下だし、昔からツンってして可愛いからついついかまいたくなるのよ。めったに寄ってきてくれないから、かまえる時にかまおうってなるの。もう諦めなさい」
「諦めてるよ。でも、もういいでしょ? それにさっちゃんたちがメインなのに、いつまでもこっちの話ばかりしてないで。それに郁人くんも帰ってきたばかりだし、もっといろいろ話題あるでしょうが」
あくまで姉がメインで久しぶりの帰国の幼馴染みを気にする千幸。やっぱりそういうところも好きだ。
「だってぇ」
「だってじゃないからね」
「もう、仕方がないなあ」
「仕方がないとかじゃないから」
「わかったってば。ほんと、ちーちゃんは」
ぶつぶつ言う姉を千幸は無視して、翔を見てからその横に座る多田へと視線を移す。
「郁人くんも、なんかごめん」
「こっちも少し煽ったから」
「ううん。郁人くんのせいじゃないから」
首を振る千幸に多田は寂しそうに笑う。
「そうか。千幸、今幸せ?」
千幸はその言葉に翔を見て絡み合う眼差しにゆるゆると笑みを浮かべ、多田へとまた視線を戻しゆったりと頷いた。
「うん。そうだね。満たされてる」
「ならよかった。ずっと気にしていたのは本当だし、千幸が幸せなのは本当に嬉しいよ。小野寺さんも、さっきはすみません」
もう一度謝られ、翔は軽く首を振った。
嫉妬のフィルターが外れると、ただただ好青年だった。ここの人たちは表現の仕方は違うけれど、みんなまっすぐだ。
「いえ。ここで千幸がどれだけ大事に思われているのかわかって、さらに愛しさが増しました。素敵なところですね」
「そうですね。ここから離れていても、ここでのことがあるから頑張れます。安心して帰ってこれる場所というのはいいです」
「そうですね。今日だけでも魅力をいっぱい感じました」
「ほんと、千幸のことが好きなんですね」
そこで多田はずいぶんと和らいだ表情で笑うと、翔のグラスにビールを注いだ。
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