125 / 143
7激甘ネジ
帰郷②
しおりを挟む「うん。今日、一泊する予定」
「へえ~。家族公認なんだね。って、えっ? 手繋いでる!?」
いやぁ~んとばかりににやにや笑う友人をじろりと睨む。
「黙って」
「えっ、ラブラブ~。ちーちゃんがラブラブ~」
「だから、もううるさいよ」
恥ずかしくて手を離そうとするけど、それを小野寺が許してくれなくてもだもだ甘い空気が流れる。
余計に友人の視線が痛い。
「千幸。恥ずかしがらないで」
小野寺は小野寺で、耳元に顔を寄せてささやいてくる。
甘い恋人だということは知っているが、地元でこんなに甘くなるなんて想定していなかった千幸は、首からじわじわ熱が溜まるのを感じた。
なんかこう甘い雰囲気出されまくって、好きなんだとばかりにアピールされて、嬉しいけど恥ずかしいが勝ちすぎる。
しかも、昔馴染みの前というのは何かの罰ゲームみたいだ。
ちらりと睨むと、んっと惚けたように首を傾げ口角を上げ小野寺は笑顔を作る。
それを見ていた友人が、きゃあ~っとまた嬉しそうににやけるのを見て、そう言えば中学の時、アイドルの追っかけをしたり、校内の美形ランキング作ったりと彼女はミーハーだったなとどうでもいいことを思い出した。
鑑賞、鑑賞と緩みきった顔は楽しくて仕方がないとばかりだ。
今は昔の自分と比べたり、小野寺とセットで鑑賞されていると思うとこの場から走り去りたくなる。
「ちーちゃん、愛されてるね」
「照れ屋なところも可愛いからね」
うふふっと嬉しそうに告げる彼女に、なぜか小野寺が応答する。
さらににやにやからによによと笑みを濃くした友人。黙っていてほしかった。
「うわぁ。溺愛。こそばいけど羨ましいわぁ。しかもこんなイケメンって。なるほど、ちーちゃんはここまでしないとデレないのか」
──デレってなに?
今は極力反応したくない。つい最近もそのワードを聞いた気がする。
若かりし頃、そんなにツンツンしたつもりはなかったが、周囲から冷静で通常モードが低すぎると言われていた。
大人びていたつもりはないが、恥ずかしいという気持ちと表現の仕方がわからなくて、付き合っている時も外では甘やかな空気を出すことは少なかったと思う。
だから、そんな姿を知っている友人が、この場所で手を繋いでいるという事実にうふふってなるのもわからないでもないのだが。
やはり、小野寺は話さないでほしかった。なぜ、応答した?
ちらりと睨むがこそばゆいほどのきらきら笑顔が返ってくる。
友人の視線が、眼差しが、成長を見守る親のようで、反応するのも苦痛なくらい居心地が悪い。
ぐぅっといろいろ我慢している間、今も二人は会話をしながら(主に千幸の中学時代の話を)、小野寺は小野寺で絡める指の力を緩めないしで、こんなことなら最短距離で旅館に向かったらよかったと軽く後悔。
なんとか耐えきり「元気な赤ちゃんを産んでね」と話を切り上げて、やっと実家の旅館の前。ふぅ、長かった。
車から降りて辿り着くまで二十分程度のことであるが、すっかり疲れてしまったがここからが本番。
「翔さん。ここが私の実家です」
「ここで千幸は育ったんだね」
小野寺が優しく目を細めて建物を眺め、そして千幸を見る。その双眸は、相変わらず慈しむかのように甘く柔らかい。
「はい。あとでいろいろ案内します。それで、そろそろ手、離して?」
「何で? 別にこのままでもいいんじゃない? 付き合っているんだし。それにここまでそうやって歩いてきたし」
今さらだろうとばかりに、きゅっとまた手に力を込められた。
確かに、さっきのことはいずれ家族の耳にも入るだろう。
それくらい地元では知った中であり、そういうのもわかっていながら小野寺の手を振りほどかなかった。
自ら積極的にしたいとは思わないが、嫌ではなかった。
「……家族の前はちょっと。さっきもだけど、そもそもそういうキャラじゃないっていうか」
「キャラ?」
「人前で手を繋ぐとか」
そういうのはしてこなかったので周囲の反応に困る。
「ああ。さっきの友だちもそんなこと言ってたな。でも、今さらじゃない? ここの感じだったら千幸の家族にもいつか話回りそうだけど。まあ、今は初めての挨拶だし離そうか」
「……そうしてくれると助かります。その」
「ああ、恥ずかしいから、だろ? ふっ。嫌ではなくて恥ずかしいからだとちゃんとわかってる」
そこで明確に言葉で語る小野寺。
今日の小野寺は普段なら気づかぬふりをしてくれるところを、あえて攻めてくる。こんなんで無事乗り切れるだろうか。
「……もう、それでいいです」
「事実だからな」
「はいはい。では、行きますっていうか、あっ、もう姉がそこにいて待ち構えてる……」
──時すでに遅し?
「やっぱりお姉さんだったんだな」
小野寺は約束通り手を離してくれたが、しっかり姉には見られてそうだ。
視線が合うと、姉が楽しげに小さく口元を引いたのを見てしまった。
──あぁぁぁ。もう、いい。深く考えないでおこう。
千幸は暑さでしっとりと肌にまとわりつく髪を耳にかけ直し、もうここまできたらなるようにしかならないと溜め息を吐き出し諦めた。
「はい。姉ですね。改めて、今日はよろしくお願いします」
「なんだ。かしこまって」
「う~ん。気分。家の前で、姉を見てちょっと緊張と諦めが。気恥ずかしいけど、翔さんがいることは嬉しいので」
「そうか」
「はい」
今日は家族と、そして姉の旦那の家族との交流。そして、小野寺の紹介。
気構えてしまうが、紹介したいと思ったから誘ったのであって、幼馴染みで元彼とも気まずくならないための場だと思っている。
言葉にする前に今を見せる。家族に、今好きな人はこの人ですというアピール。
余計なことはもう言わないでと、心配しないでねという気持ち。
それらを見せるために恋人を連れてやってきた。
千幸は軽く息を吐き出すと、小野寺の瞳を真っ向から見つめた。
優しい眼差しで見下ろす恋人の姿に、口元は緩み胸が温かくなる。
小野寺がいれば何も問題ない。
問題ないどころか、今日という日を、何より彼氏として家族に紹介できるのを楽しみにしていることに気づき、千幸はふわっと笑みを浮かべた。
14
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる