上 下
109 / 143
6緩甘ネジ

好き、だから side翔⑤

しおりを挟む
 
「どうしようか? 俺は千幸が好きすぎるんだが?」
「そんなことを言われても……」
「今さら?」
「……そういうわけではないんですが、急に甘さが増してちょっと」
「ちょっと何?」

 吹き込むように訊ねる。
 触れる感触を楽しみながら、そっと千幸の頭を撫でた。

「…………恥かしい」

 すると、そう言って顔を両手で覆ってしまう千幸の姿に思わず頭上にキスをする。

 ──何それ。すっごく可愛い。

 可愛い過ぎる。愛おし過ぎる。
 普段が普段だからか、余計に溢れる思いが止められない。

 どこまでも丁寧に拾い上げて、翔の不安を取り除こうと、もどかしさを詰めようとするその行動にずくりと衝動が湧き上がる。
 そっとその両手を外させて、さらに顔を近づけた。

「へえ」

 そう相槌を打ちながらも、どう千幸を絡め取るかに思考が持っていかれる。
 もっと触れたい。その思いとともにキスをしようと千幸の顎に手をかけると、そこでキッと睨まれた。

「翔さん。話は終わってないと思いますが?」
「千幸の想いは伝わった。伝えてもらった。……キスしたい」
「ちょっとタンマです」
「ええ~。無理。千幸を好きになって、自覚して、やっと付き合えて、そして今とっても満たされてる。この気持ちのままキスしたい」

 覗き込むように告げると、手に伝わる体温がわずかに上がった。
 
「ちょっ、伝わっていることはいいんですけど、やっぱりストップです。この際だから話せるとこまで話しておかないとと思いまして」
「まだあるの? 俺は千幸に触れたくて仕方がないんだけど」
「今、触れてますよね?」
「足りない。嫌?」

 そっけなくても耳が赤い。
 そして、伝わってよかったと優しい眼差しは逸らされないままで、彼女のそんな反応に愛しさが募るばかりだ。

「ああ~、その聞き方ずるいです。誤解しないでください。私だって触れてほしくないわけではないんですけど、もうちょっと話をつけておきたいと思って」
「何を?」
「茶碗の話です」
「あれ? もう終わったと思うけど」

 もう、少しでも早く千幸に触れたい。
 奥底まで刻み付けたい。

「いえ、終わってないと思います。二人の方向性? の話は多分これで今はいいと思います。言いたいこと伝わったようですし、翔さんがすごく楽しそうなので私も満足というか」
「そうだな。千幸の愛おしさが増した」
「ああ~。そのいつもいつも口説くのなんとかなりませんか?」
「無理だ」

 無理に決まっている。
 会うたびに千幸に触れるたびに好きが増すのだから、言葉に出して吐き出さないと自分でもどうなるかわからない。
 そう思いじっと見つめると、千幸はふっと諦めの吐息を吐き出した。

「……わかりました。もう、今はいいです。茶碗の話に戻します。さっきの状況と普段の行動を思うとこのまま流されるのはダメだって私のセンサーが言ってます」
「センサーって?」

 なんか可愛いこと言っている。

「勘みたいなものです。元凶の話はあやふやというのはまずい気がして。そもそもなぜそこからこんな話になったっていう感じはしますけど、結果オーライ? なのかな。とにかく、またよくわからない理由で茶碗と睨めっこされても困るし」
「もうしない。……多分」

 あれだけ俺を褒めてくれたのだからしないと思うが、言い切れない。
 やっぱり、自分よりも茶碗のほうがここにあると思うと何だか嫌だ。

「多分ってなんですか?」

 じとっと呆れたような眼差しを向けられたが、それも彼女らしくて嬉しくなる。
 仕方がないとばかりのその態度に、この会話に、自分のことを結構理解してくれているようだとにこっと笑うと、千幸の眉間にしわが寄った。

「千幸が気に入った茶碗のほうがここにいる時間が長いって、やっぱり悔しいだろ?」

 詰まるところ、 ほかの誰でもなく物でもなく、『自分』 が少しでも千幸のそばにいたい。
 流さず突き詰めてくれるのは、こんな気持ちさえも晒していいのだと言われているよう。

 千幸はきっとそんなつもりはなかっただろうが、小さなことも拾われて顔が緩む。
 嬉しすぎてにこにこと告げると、心のそこから長い息を吐き出した千幸がちらりと上目遣いで翔を見てまた溜め息をついた。

 まだ、ずっと顎を固定しているから必然的にそうなるのだが、離せと言われていないのでまたにこにこと彼女を間近で見つめる。
 少し頭を下げるだけで吐息がかかるほどの距離。それらを許されている。
 その事実にまたほかほかして、今夜はもう離れられないのだろうと彼女の柔らかな唇をじっと見た。

 ──ああ、触りたい。食べたい。

 そんな煩悩に染まりかけているのに、わかっているようでわかっていない千幸が伝われとばかりに言葉のシャワーを降らせてくれる。

「はぁぁ~。本当、翔さん斜め過ぎます。さっきも言いましたけど、翔さんの瞳の色からその茶碗を気に入ったのであって、ほら、見てください。翔さんの瞳と同じで見る角度で違って見えるし、それを見ると翔さんいない時でも翔さんが浮かぶと思います」
「へえ」

 今日の千幸は言葉を惜しまない。そうさせたのはきっと自分。
 多少呆れも含むそれは、千幸の翔への想いがあっての言葉。だから、どんな言葉もましてやこんなに嬉しい言葉を向けられて、求める心を止められない。

「だから、茶碗なんかに嫉妬してないで、私を見ててくださいね」

 ぷいっと照れを隠すように口早に告げられる。
 耳はさっきより赤くなり、まるで食べてと言わんばかり。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...