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5甘重ネジ
一歩③
しおりを挟む「なら、これからいろいろ知っていきたいです」
「ああ。ずっと一緒にいれば誰よりも知ることになる」
すごく真面目に返され、視線を合わせていられなくなった。
永遠を誓うそれは、学生ではなく大人であるがゆえ先を具体的に意識させるものだ。
「そうですね」
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
口説き文句はたくさん聞いたが、今はなんだかよくわからないふわふわに侵されていた。
逸らすなと頤を持ち上げられ、赤くなった頬を撫でられる。
隙間を埋めるかのようにまたキスをされ、優しい手の動きに心がとろとろ溶かされる。
絡み合う口づけのあと、小野寺は濡れた唇をぺろりと色っぽく舐めると、榛色の瞳も濡れたような眼差しで千幸を見た。
そして、ふ、と柔らかく笑う。
「千幸がいる」
「ずっといるじゃないですか?」
今さらな言葉とあまりにも無垢に笑う姿に、千幸の胸はきゅんとした。
──ああ、ダメだ。今日はなんだか彼に逆らえる気がしない。
無駄にきゅんきゅんするそれについていけない。
衝撃的な出来事からの振り幅で、千幸のいつものペースが崩れてしまっているようだ。
「ああ。だけど、手を伸ばしたらいる感じが堪らない。ね、千幸のいう一歩はどの辺りまで?」
「どの辺りって。具体的にあるわけではないですが」
「なら、俺が決めていい? 嫌なら嫌でいいから」
それは身体の関係のことを訊いているのだろうか?
これだけ好きだと満たされて、今まで小野寺なりにゆっくり進めてくれていたことも含めもう十分で拒む理由はない。
だが、キスだけでこれだけとろとろにされており、その先を思うとすごく緊張する。
この緊張は、期待からか不安からかわからないが、胸が苦しくなるくらいすごくドキドキしていた。
わずかに肩の力が入った千幸を見た小野寺はふっと笑うと、おでこに軽くキスを落とす。
そのままするすると下にずれていきながら、目元へ軽く触れて、色っぽいのに優しい眼差しで千幸を覗き込んできた。
熱を孕んだそれに、こきゅんと唾を飲み込むと小野寺はにっと口の端を上げた。
そっとそっと大事なことを告げるように、耳を食みながら言われる。
「手を繋いで外を歩きたい」
「手、ですか?」
まさかの手繋ぎ要望。
付き合いの初手の行動ではあるが、小野寺が忙しいのもあって外出する回数も少ないせいか数えるくらいしか機会はなかった。
返す言葉がうわずり甘くなる。
なんだか、大人の関係を進めるよりも秘め事をしようと言われているようで全身が熱くなった。
「だって、千幸が恥ずかしがるから」
その姿も見てみたいなんて低く告げられ、鼓動が落ち着かなくなる。
「それは恥ずかしいです」
下手をしたらマンション内でも手を繋ごうとするのだ。
知っている人の目があるのは嫌とかではなくて、恥ずかしい以外の何ものでもない。
「あと、あ~んもしたい」
「それって、枝豆飛ばしも含まれます?」
「当然っ!」
──当然なんだ……
にんまりと声高々に告げるその姿。
甘い雰囲気なのに、一気に大型わんこの空気感になった。それが残念なような、ほっとするような気持ちに千幸は淡く苦笑した。
それを見た小野寺がまた、ふ、と柔らかに笑い、ぽんぽんと千幸の頭を優しく叩くように撫でた。
「今は朝だからね」
……朝だから、何?
凝視すると、にこにこと笑顔を浮かべられ席を立った。
「とりあえず、この前行けなかったレストランへこれから出かけようか。その後は手を繋いでショッピング。そして夜は千幸のご飯が食べたいな」
「……いいですけど」
「枝豆は絶対買おう」
「引っぱりますね」
「俺はしたいってずっと言ってる」
「まあ、そうですが」
──…どれだけ楽しみなんですかっ!?
千幸が少しいたずら心でしたことが、こんなにも引きずられるなんて考えもしなかった。
こだわりのない千幸と、ずっとこだわる小野寺とでは熱量が違いすぎる。仕方がないと溜め息混じりに了承する。
「……わかりました」
すると、ぱっと弾けるような笑顔を浮かべ、むぎゅぅぅっと抱きしめられた。
「うぇぇ、苦しいですっ」
変な声が出て苦しいとギブギブだと背を叩くと、「あ、ごめん」と言いながら力は緩めてくれたが、そのまま立たされた。
今にも千幸とともにクルクル回り出しそう勢いに、どうどうと背を叩く。実際、千幸の足は宙に浮いており、小野寺の浮かれ具合がわかる。
「嬉しい。楽しみだな」
──それほど????
にこにこと上機嫌の小野寺に同意を求められ、たったそれだけのことにこんなに喜ばれて悪い気はしない。
千幸は眦を緩めて小さく頷いた。
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