67 / 143
4変甘ネジ
やっぱり隣人は④
しおりを挟むここまで堂々と宣言するのはどうかと思うが、どれだけ思われてるんだと慄きとともに甘やかされたい欲求も生まれてくる。
甘え下手を自覚しているけれど、大事にするからこっちにおいでとこんなに猛アピールされて、さすがにいつまでもツンとばかりしていられない。
「千幸」
熱のこもった吐息とともに名を呼ばれ、視線を絡ませた千幸は笑みを深めた。
ここまで執着されるのが不思議だが、向けられる思いは心地よく、ビックリ箱のようなこの人のいろんなことを知りたい。
──ほんと、どうしよう。
たくさんの質問が浮かびは消えて、くすぐる気持ちがふわっとしていた。
ただ甘いだけではない空気に、どこから何から質問をしたいのか自分でも本当にわからなくて小野寺を見つめた。
すると、小野寺はにっと口端を引き上げて色気だだ漏れで笑う。
「あと知ってもらわないと先の話も進まないと思って」
――先?
一瞬、何の先かと思ったがこの先の二人の関係だと思って深く考えるのをやめた。
正直にと思ってくれていることはありがたいと思って、話を進めるほうがいいだろう。
ひとまず、自分に関わることで気になることは聞いておきたい。
話し合うためにこのホテルということは、仕事の話からしたほうが良さそうだ。
「聞きたいことがいっぱいあるのですが、まず、ここのホテルの内装は我が社と同じS.RICグループである会社が内装を手がけたと聞いたのですが?」
まだまだヒヨッコなので会社がどういう仕組みになっているか全貌は見えておらず、関連会社が多数あるのだけは知っていた。そのグループの名前が『S.RIC』である。
「ああ、そうだね。それであってるよ」
「つまりS.RICグループを立ち上げ、gezeも翔さんが?」
「そのうちの一つだな」
「でも、gezeは赤城社長ですが」
一応、自分の勤める会社gezeの社長は赤城である。
規約などをこと細かく読んだわけではないが、今まで働いてきて小野寺の名前は見たことがない。
「ああ、立ち上げに関わっているが、起動に乗ったら自分より詳しい者に任せてある。gezeに関しては株の保有数が一番多いのが俺で、他もろもろというところだな。不動産をベースとしてそれに関わるものを繋ぎ合わせたほうが効率がよいから、千幸が内装やインテリアの仕事に関わりたいと知って立ち上げ、その時に引き抜いたのが赤城だ」
「引き抜きだったんですね」
「赤城はそれまで大手で活躍していたから口説き落とした。着眼点が面白いから、今までの実績と手腕で会社が伸びると思った。現に数字は上向きだ」
こういう話をされると経営者なのだと実感する。
しかも、赤城社長と顔を合わせたのも数回なのに、ボスのそのまたボス的な人だと思うと緊張する。それと同時に不安も湧き上がってくる。
千幸は経営者の顔をした小野寺を前に、背筋を正して聞いた。
「その、どう言っていいのか……。失礼になるかも知れませんが聞かせてもらいたいことが」
「千幸の心配していることわかってるつもりだ。気になることは何でも聞いてくれるほうがありがたい。嘘は言わない」
真摯な顔で告げられ、千幸は思っていることを吐露した。
「わかりました。ずっと私を知ってくれていた上で仕事上も繋がりがあるとわかったのですが、翔さんが関わることでどこまで仕事に影響しているのか気になります。新人で大きなプロジェクトにはまだ関わっていませんし、何か思い当たることがあるというわけでもないのだけど……。あと、なぜ直属の部署にしなかったのかとかいろいろ気になるのですが」
「俺はgezeにくるようには仕向けたが、千幸の仕事に関しては報告は受けていても贔屓も関与もしてない」
「報告……」
「そう。報告」
──報告は受けてたんだ……。まあ、そうだよね。入るようにしといて、放置はおかしいだろうし。
この時、千幸は自分の仕事が正当かどうかが気になり小野寺の言葉を見逃してしまっていた。
千幸のということは、誰かのは関与している可能性があるということ。
小野寺は正直に話してはいるが、あえてこのタイミングで言い放つ巧妙さに気づくには情報が多すぎた。
小野寺自身も突っ込まれたら話す気ではいたが、突っ込まれなかったら話さないままでいいというスタンスだ。
いつかは話すことがあるかもしれないが、まだ今ではないと計算した上での布石。
正直であろうとするが、恋する男の千幸を手に入れたいという欲望の表れである。
それに気づかず仕事で自分なりに感じる成果が妥当だとういうことを知り、千幸はほっとした。
仕事のことは今の生活の根本的な問題に関わるから、明確にしておかないことには先を考えられない。
嘘はつかないと断言し、さっきの経営者としての顔を見ると信じられた。
「それを聞いて安心しました」
「それならよかった。あと、直属という話だけど、千幸にも会社としても下積みは必要だと思ったから、gezeから流れを学ぶようにもっていった。そこでしっかり学んで揉まれて、千幸がやりたいの気持ちが本当だったらそのうち上がってくるだろうと思ってる。仕事に関してはそう考えていた」
「……はっ、あぁぁぁ。そうですね、びっくりして言葉が詰まってしまいましたが、仕事のことはこれまで通り頑張っていきます」
「ああ、期待している」
「はい」
千幸はしっかりと頷くと、それを見た小野寺は愛でるように千幸を見つめた。
誘導は初めの頃だけのようだし、何より千幸は誰かに言われてgezeに入社したわけではない。
会社のコンセプトを知って入りたいと自分が希望したのだ。そこに小野寺の何かしらの思惑はあったと知ったところで、やりたいことは変わらない。
入ったからには頑張っていきたい。話を聞いてもそう思えた。
小野寺の思惑がなんであろうと、仕事に関しては小野寺にとっての事実と千幸の事実は違う。それを混同してはいけない。
後で知って相手を不信に思う時間がくるより、確かに先に話しを聞いて納得できたのは本当によかった。
千幸の気持ちが伝わったのか、満足したようにふくふくと笑う小野寺が千幸の腰を引き寄せ首筋に顔を埋めた。
25
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる