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4変甘ネジ

大学時代 side翔①

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 小野寺翔が藤宮千幸の存在を知ったのは、大学四年の夏前のことだった。
 それはちょっとしたハプニングで、他愛もない日常の出来事の一つ。それから翔は千幸をずっと視線で追いかけるようになった。

 千幸が文学部の一回生でサークルに所属していないことなど、少しずつ情報を集める。
 気にかける翔に対して、千幸とは全く視線が合わず認識されているのかも怪しいレベルであった。

「千幸」

 勝手に見つめて、観察して、そして彼女の友人たちが呼ぶように勝手に千幸と呼んでいた。
 だけど、この時に恋心を自覚していたわけではない。

 ただ、気になって気になって仕方がなかった。
 こちらが気になっているのに、相手は眼中外というのがまた翔を気にかけさせた要因かもしれない。

 だから、千幸を知ってから在学中は千幸の周りを遠巻きに観察した。あわよくば視界に入れと近くまで行ったこともある。
 ランチも少し離れた場所に座ってみたりしたが、千幸の周囲が盛り上がるだけで当の本人は無関心。

 あまりこちらを見ようとしないし、見たとしても視線は通りすぎ翔に止まることはなかった。
 それがすごく新鮮であり、視界に入りたと思いながらも、いざ入ることを考えるとどうしようもなくそわそわした。

 またそれがいい・・と高揚もしたし、同時に悔しくもなった。
 翔にとって藤宮千幸はどうしても気になる存在で、初めて自分から関心を持った女性と言ってもよい。

 自分はとても恵まれているのだと、翔は幼い頃から自覚していた。
 恵まれた家系、体躯、頭脳、身体能力、そして好まれる顔立ちは非常に目立った。

 どこにいても注目を浴び、人が群がる。その過程で、理想像が作られていくがそれなりにこなせてしまうので幻滅されることはあまりない。
 家柄で作法はみっちり教え込まれるため、人当たりはよく映るらしい。大人には礼儀正しい子、同年代には格好いいとよく言われた。

『翔くんはしっかりしてるわね』
『翔くんがいたら大丈夫』

 誰もが羨み、大した努力もせずに人の平均の上をいく。
 だから、何をするにもこんなものだと思い、可愛げもなく達観していた。している気になっていた。

 新しいことはなんでも最初は楽しい。だが、本当に最初だけだった。
 努力は努力にならず、そのうち周囲が勝手に動き出し何も言わずして物事がさらにスムーズになっていく。

 中学の時に綺麗なお姉さんに童貞を奪われてから、ずっと周囲に女性がいた。
 そういう欲求が高ぶる前に必ず相手がいたので、自慰もろくにせずにそっち方面は困ったことはない。
 
 ただ、何となく乾いたものがあったが、そういうものだと思っていた。
 それなりに気持ちよいが、心から満たされることもなく、相手が寄ってくるから求められるから付き合い溜まっているものを出すというだけで、付き合うことすることに特別なものを感じていなかった。
 去る者追わず、気が向けば来る者拒まず。

 それなりに翔も好みはあるが、大抵女性同士で牽制し合い、自分に自信がある女しか寄ってこない。
 なので、特に否もなく面倒そうでなければオーケーしていた。

 それでも、浮気や二股をしたことはない。
 そういったことで揉めるのが面倒だったからもあるが、マナーだと思っていた。だが、すぐに相手は怒るか勝手に劣等感を抱いて去っていくので長く続いたことはない。

 付き合おうと言ったことも、別れようと言ったこともない。
 相手を知る前に別れがくる。それらを公言したこともないのに、別れたらすぐに新たな女性が寄ってくる。

 一度、それらの繰り返しがわずらわしくて告白を断っていたら、断っても断っても次から次へとやってくるので、彼女がいるほうが楽なのだと気づいてからもっと受け身になった。
 その状況に対して恵まれていると言う者もいれば、大変だなと言う者もいる。当の翔は現状が変わらないのならどうでもよかった。
 とにかく翔は自分のことなのに女性に対してはどこか希薄だった。友人とつるむほうが気楽で楽しいとさえ思っていた。

 だから、女の数は? と聞かれると両手では足りず、自分でも覚えていないのでわからない。
 それらすべてに身体の関係があったわけでもない。

 大学四年の夏前、一応彼女という立場の女性に頬を叩かれた翔は、毎度のことだが今までよりずっと冷えた気持ちを感じていた。
 パシン、と響く乾いた音。

「私のことなんてどうでもいいんでしょ!」
「………」

 大抵がこのように怒るか、釣り合わなかったと言って去っていくので、またかと思うほど心底どうでもよくなっていた。
 ただ、ここまで気の強い女は初めてであったし、叩かれたのも初めてだ。

 女性に叩かれたところで怒るようなことではないし、学年的に先の進路などいろいろ考える時期で過敏にもなっていたのだろう。
 そう考える余裕はあった。

 だが、叩かれた弾みにつけていたカラーコンタクトが片方外れ、翔を不機嫌させた。
 キスを迫ってきた彼女をそれとなく避けたら、相手がすごく怒りだした。

 彼女いわく、付き合ってからずっと待っていたらしいが、それに気づいていても気分が乗らなかったら仕方がない。
 一応、彼女を気遣ってさりげなく会話を振ったり、翔なりに時間は割いてきたのだが、ここにきて不満が爆発したようだ。

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