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4変甘ネジ

ただ、ただ甘い……?⑥

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「まあ、仕方がないか。とりあえず大学での噂の話をすると、女性関係というのは遊んでいたという認識はないけれど、あまり途切れることなく相手はいたのは本当」

 やっぱり、とすとんとその答えに納得した。

 まあ、この容姿だしなと思う。ここで嘘をつかずごまかさないでくれたことが、千幸も話を聞く気になるしこれから話すことを信じようと思えた。
 それに対してかける言葉はないが、そんなものかとも思った。

 だが、続く言葉にやはり小野寺なのだと痛感する。
 そこで終わっておけばいいのにやっぱり変だ。美形なのに残念だ。

 そして、それを向けられているのは自分。
 ひと時も休まることのない攻防だ。

「でも、千幸と出会って会社を立ち上げてからは女っ気ないし。いうなれば右手が恋…ぶっ」

 何を言い出すんだと千幸は小野寺の口を両手で押さえた。

 ──えっ? なんか、めっちゃくちゃ変なことを言いかけたよこの人。

 小野寺が大学を卒業してから四年経っていて、その間女っ気なしって嘘っぽい。
 あれだけモテるのに、その間、誰とも付き合っていないってありえない。

 それにそれだけ思ってくれていたとしたら、それまでにアプローチがあってもいいだろう。
 現にこれだけ迷惑だと思うほど急接近の猛烈アピールされていて、なぜ四年間放っておかれたのか不思議だ。

「本当なのに」

 しゅんと項垂れた相手に、千幸は嘆息した。
 まあ、大学在学中の時にアプローチを受けたとしても、それを受け入れていたかは疑問ではあるし、その間、千幸は彼氏がいたりいなかったりしたので、四年の間を言及するのは野暮だろう。

 そして、少なくとも隣に住むようになってから、小野寺が変なアプローチをし始めてからはそうだっただろうと思う。
 というか、四年間そうだったらだったで考えるものがあるというか。

 今日のことも、先日のことも、本当に仕事が忙しいだろうことは小野寺や轟を見ていたらわかることだ。
 千幸にはわからないあれやこれやがあるだろうと、その延長上で食事をすることも必要だと言われれば納得するしかない。

 『ずっと思っていた』ということらしいが、小野寺と千幸との間で認識が違うのかもしれない。
 だけど、『今』思われているのは嘘ではなく、その思いに認識の違いはないとはわかるわけで。

「だから」

 そう言葉を続けようとした相手に、千幸は小さく笑った。

「わかりました。信じます」

 これだけ必死に説明されて、出会ってからずっとまっすぐに向けられる眼差しを疑うほど千幸もひねてはいない。

「本当? よかった」

 心底、安堵した表情を見せられ、千幸もほっと気持ちがほぐれていく。
 やっぱり向けらる気持ちを疑いたくなくて、何より千幸が信じたい。

 ちょっと小野寺が女性といる姿を見るのはおもしろくないと、独占欲を抱くということはやっぱりそういうことなのだろう、とは思う。
 なら少しだけ、少しだけ、気持ちを認めて見せてもいいだろうか。

「翔さんは謎が多くて変だなと思うこともある人ですが、まっすぐなのだなとも思います」
「千幸限定のね」

 そこで誇らしげに告げる意味がわからないが千幸は続けた。

「それもよくわからないですが、その変だなと思うところも翔さんだからもういいかと思えてくるというか」
「ほお」

 ほおって何? と思いながらも、言い出した手前また続ける。

「だから、もっと知りたいというか。その、お付き合い、よろしくお願いします!」

 それを告げた途端、ぱぁぁぁっと眩いばかりに笑う相手に、よろしくはちょっとまずかったかなと思う間もなくさらに抱き込まれる。
 ぎゅうぎゅうと喜びを隠さず抱きしめられ、少し身体が離れたかと思えば好きだ好きだと告げてくる眼差しから目を離せない。

「嬉しい」

 ふわりと頬を緩ませ、感極まったようにまた千幸の背中を抱きしめる。
 見つめ合う眼差しが近づく。

 ――あっ、キスされる。

 そう思ったと同時に千幸は目を閉じていた。

 小野寺の唇がふわりと重なる。
 意識しろよと何度も角度を変えながら愛おしいのだと労るように触れられ、下唇、上唇と交互に吸われる。

 じれったく、優しいのに息がつまり、少し息を吸おうと開きかけた口に小野寺の舌がすかさず入ってきた。
 粘膜と粘膜が絡み、くちゅりと唾液が混ざり合う。

 途中、名前を何度も呼ばれ、熱を奪いながらも上げられていく。
 大きな手が千幸の頭と腰を優しく支え、安心感とともにドキドキとする気持ちを与えられた。

 柔らかで時に激しいキスに翻弄されてトロトロにされる。
 完全に体の力が抜けた千幸をぐいっと引き寄せながら、最後にちゅっというリップ音とともに顔を離した小野寺が笑う。

「この家に初めて入れてくれた」
「バカ、ですね」

 今、それを言うことだろうか。
 しかも、まだ玄関なのに……。
 そう詰る自分の声がどこか甘くなったような気がして、千幸はそっぽを向いた。


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