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4変甘ネジ
ただ、ただ甘い……?②
しおりを挟む「離してください」
「嫌だっ! 離れたくない」
とりあえず抱きしめられながら考えるものではないと申し出たが、あっさり却下された。しかも、子どもみたいにグリグリと頭を頬ずりされる。
無意識なのか、千幸の背中に回る腕の力も強くなる。
「ちょっ、何してるんですか? それに苦しいです」
ギブですとばかりに腕を叩いてみるが、ちょっと緩められるだけでいっこうに解かれない。
「だって、わかってくれないから」
「何がですか? そう言われてもタイミング的にちょっと」
「タイミング?」
「だって、あの時間に女性と入っていくってことはそういうことじゃ……」
今はここにいる。だけど、二度の遭遇は簡単に記憶から消えてくれない。
「誤解だ。あれは忘れ物をしたと彼女が言ったから一緒に取りに戻っただけ。本当はもっと早く終わらせるつもりだったのだけど、時間を延ばされて遅くなってしまった。彼女は仕事の関係で食事しただけで、これ以上はそういった付き合いはないように手を打ってあるから」
手を打っているというのはよくわからないが、仕事関係というのが本当だったら余計に理解できないことがある。
「翔さんはその仕事関係の方と腕を組むのが普通なんですか?」
今日のことは実際ここにいるのでその説明で納得できるが、前回のはよくわからない。
この際、気になることは聞いておこうと大きく息をついて、めんどうがらないで向き合おうと腹をくくる。
好きだと向けられる熱は、嫌というほど伝わってきている。
だが、その辺をクリアにしないと千幸もどのように小野寺と向き合っていいのかわからない。
本当はこんな会話なんて想像していなかった。だけど、嫉妬を向けられるなら、そちらはどうなのだと聞いておきたい。
今後、何かが変わるとしても、お互いの価値観の違いを知っておきたい。
「ああ、それもだった。焦ってて、情けないな……」
最後は自重気味に呟き大きく息をつくと、小野寺は仕切り直しとばかりにゆっくりと千幸に回っていた手を解いた。
だが、逃げるとでも思っているのか、その手はそのまま千幸の手首をそっと掴んでくる。
千幸を見つめる瞳は不安そうに揺れ、眉間は後悔しているとばかりに苦しそうに寄った。
「見たって聞いたけど、それも思っているようなものではなくて誤解だから。どこから説明すればいい?」
低く真摯な声で問われ、千幸はじっと小野寺を見つめた。
絡み合う視線で揺れる心がせわしなく、喉まできゅぅっと苦しくなってくる。千幸も落ち着こうと深く息をついた。
どこからってそんなに説明が長いのか。
こうなるとさっきは軽くスルーした手を打つというのが気になってくるが、先にこの問題を片付けてしまいたい。
「聞いたって誰にですか?」
「さっき轟に。知っていたらもっと早く誤解だと説明してたのに。それくらい明白なことだから。これから話すことを信じてほしい」
「とりあえず話は聞きます」
信じるか信じないかはそれからだ。
千幸の言葉にわずかに苦笑した小野寺だったが、気を取り直したようにじっと千幸の目を捉えて口を開いた。
「わかった。まず、その時の状況については、食事の後、外に出る時に躓いたと言ってよろけた彼女が腕を掴んできた。その先に階段もあったし、さすがにそこで腕を払うわけにもいかなくて、車まですぐそこだったからそのまま送っただけなんだ……」
早く言っとけば、知っとけばとばかりに悔しそうにしながら説明していたが、その声は段々小さくなりふぅっと息をつく。
熱い吐息が千幸の髪にかすめていく。
「……理由があっても、逆なら俺は嫉妬で焦げる状態だな」
「まあ、そうですね」
妬けるではなくて焦げるかどうかは別として、色恋状態だというならば、そういうことは気にかけなければならないことだと思うので否定はしない。
すぱっと肯定した千幸の言葉に、しゅんしゅんと小野寺は意気消沈していく。ものすごく困ったというように眉尻が下がる。
「だよね……。連絡が取れなかったことと元彼というのも気になってたからいろいろ余裕なくて、さっきはごめん。対応は確実に俺が悪い。でも、こうしてはっきり言ってくれるそんな千幸ちゃんがすごくいい」
「……言いたいことがわかっていただけたのはよかったです」
「そういう誤解があることも考慮すべきだった。若干気の強いタイプの相手だったから、振り払うよりは少しの距離ならエスコートするほうが早いだろうと考えたんだが。そんな可能性は思いもしなかった」
消沈しながらも隙あらば好意を伝え、自分の非も潔く認める。
まるで子供みたいに素直にそれらを伝えてくる相手に、千幸は思わず笑ってしまいそうになったがぐっと堪えた。
それが本当ならば仕方がない部分はある。相手を知った上で小野寺なりに考えて動いたことなら、その時はそれがベストだったのかもしれない。
でも、千幸が見た場面だけではその背景はわからなかったし、すごくもんもんとした出来事ではあった。
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