上 下
49 / 143
4変甘ネジ

私情上等 side翔①

しおりを挟む
 
 小野寺翔は疲れた表情が少しでも隠れるように、早く終わらせたい気持ちを抑え込み、持っていたコーヒーカップに口をつけた。
 かれこれ一時間以上、目の前の兼光令嬢が次々に話題を繰り出し、少しでも接点を持とうと時間を延ばそうと必死に話すのを聞いていた。

 ──時間が経つのが遅い! 話が長すぎるっ!

 内心の愚痴など知らない相手は、話が弾んでいると思ってか滑らかな口が止まることはない。

「それで先日友人と行ったお店がとてもよかったんです。今時なのに懐かしさもあって、綺麗なのに自然な温もりを感じられて。すごくインスピレーションを受けました」
「感性が豊かなんですね」
「いえ、そんなものではなくただいいなぁっと。もし、小野寺さんにご興味があればご一緒にと思いまして」
「お誘いは嬉しいのですが、現在立て込んでおりまして。せっかく教えていただいたので、部下と仕事の合間にそちらの方面に行くことがあればぜひとも寄ってみようかと思います」
「そう、ですか」
「素敵な情報をありがとうございます」

 そこで内心の苛立ちを隠すようににっこりと微笑み、じっと見つめる。

「……お役に立てて良かったです」

 兼光令嬢は遠回しに断られたことに気づき落胆するように視線を下げかけたが、見つめられて頬を染める。
 そのまま髪をそっと触り耳にかけ、じっと見つめ返された。

 うるっとした瞳でザ・上目使い。
 翔は息を吐き出したいのを我慢して、にこっと笑って視線を逸らした。

 手馴れてるなぁ、そんな感想とともに内心舌を打つ。
 彼女の話などどうでもよく、なぜ聞かないといけないのかと思うような話に付き合わされ、ずっと性的にアプローチされ続け翔は疲弊していた。

 ただでさえ千幸が会社の送別会という名の飲み会、つまり元彼と酒の席に一緒にいることが気にかかっている。
 千幸の気持ちがふらふらと元彼に戻っていく可能性が全くないとは言い切れず、何があるかわからないのが男女だ。

 ──ここまできて元サヤとかありえない。千幸は俺のものだ。

 話に適度に相槌を打ちながら、思考は千幸のことばかり。
 翔は今まで恋愛をしてきたつもりだった。正確にいうと、男女という付き合いをわかっているつもりであった。

 だけど、千幸のことだけはわからない。
 こうしたらと思うようなことが通じない。自分の気持ちもうまくコントロールできない。
 ぐつぐつ、ぐつぐつ、それは翔の中で煮立ってよくわからない状態になっていた。

 そんななかでの元彼との酒席に対して気掛かりを抱えたなか、無意味な時間を延ばされている。
 そろそろ千幸との約束の時間が近い。できれば彼女が帰ってくるまでに自分も帰宅していたい。

 一分でも一秒でも千幸と過ごせる時間を増やしたい。

 何より今日はもう少し先に、この手のそばに、もっと隣に千幸を引き寄せると決めている。
 逃げ道は残さない。あるなら潰していく。千幸には甘い道しか残さない。

 そう決めた翔はぶれない。
 一度、手に入れたいと思ったら手に入れるまで諦めない。

 そうなるように努力してきた。
 迷走していた時期もあったが、今は明確に千幸をこの腕に捉えるためだとわかって行動している。

 たとえ轟や桜田が引いていたとしても、大事に大事に真綿で包むように千幸を捕まえると決めている。どれだけ周囲がドン引きしようと知ったことではない。
 翔からすれば長いこと待った。待ちすぎるくらい待った。

 そしてここ最近、千幸も気にしてくれている気がする。前より、少し自分を意識していると思う瞬間がある。
 この機を逃すつもりもなく、仕事の区切りも見え始めこの辺で余計なものはしっかりシャットアウトするつもりだ。

 仕事以外は、千幸だけに集中したい。それくらい彼女が欲しい。
 ほかの女では満たされない。もう彼女でないと、千幸でないとダメだ。それに理屈なんてない。

 隣に住むようになって、それをますます実感している翔に迷いはない。
 千幸を手に入れるためにこまねいていられない。

 ホテルのレストラン。
 日頃から隅々まで目端を効かせていると感じさせる給仕が皿を下げるのを確認すると、翔は目の前の女性に向けて整った顔立ちに笑みを刻んだ。

「料理も美味しかったですし、素敵なホテルで食事ができてよかったです」

 その表情に兼光令嬢は一瞬見惚れるような表情を浮かべたあと、目を瞬いて小さく会釈をする。

「ありがとうございます」

 長い髪は綺麗なカールを描き、手入れされた爪、ボディーラインを強調した服。
 先ほどから、谷間を強調するよう少し見せるように動いているが、そのあざとさが鼻につき何もそそられない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

処理中です...