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────1・可視交線────
38公開告白⑤
しおりを挟む「一番はその瞳かもね。見ればみるほど気になるっていうか」
「そうだな。眼鏡があってよかったかもな。でも、伊達だしそろそろ外すって言ってたっけ?」
「それっていいのかな?」
「まあ、いいんじゃない? 隠されてる方が気になるヤツもいるだろうし。アオイのは成り行きだろ? 普段から徹底して隠してるわけでもないし、見てるヤツは見てるからな。なら好きなようにしたらいい。守護者どのもいるし、俺たちもいるから」
「まあ、そうか」
蒼依のことなのに、蒼依が口を挟むまでもなく話が終わる。
好意的なのはわかるけれど、こういう扱いはちょっと納得できない。
同じ年だし、年頃だしっ!!
とは思うものの、ぽやっとして大雑把な蒼依はどうしても可愛がられる立ち位置になってしまうのは昔からのこと。
そして、まあいいかっと本人もすぐ気にしなくなるのもいつものこと。
放り込まれて、姫抱っこ騒動もあり不安なスタートであったが、結果としてはなかなか好調なのではと思える縁に感謝だ。
蒼依は、思いのままの言葉を口にした。
「二人と知り合えて本当に良かったよ」
この特殊な学園でやっていけそうだと自信を持てたのも、寮もクラスも一緒の彼らのおかげだ。そう思い、感謝の眼差しで夏葉と律樹を見つめる。
すると、それに反応したのは二人ではなく隣前の席の人物。
「くっはぁぁ。美味しいシチュをありがとう~」
彼は普段大人しいのに、ときおり興奮したように話し出す。今も何がツボったのかわからないが、楽しげに声をあげていた。
ちろりと視線をやると、口? いや鼻を押さえてひらひらと手を振られる。
彼も同じ朱雀寮で、名は斎藤という。夏葉と律樹の話だと、中等部のころからこんな感じなのだそう。
悪いやつではないけど意味がわらかないところで叫ぶこともあるので、そのときは大半無視して構わないと言っていた。
本人もそうしてくれるとありがたいと言ってるくらいだし、と説明を受けた。
だが、そう言われていてもやはり気になってしまう。
「斎藤、アオイが戸惑ってるから」
律樹がたしなめるように斉藤を咎めると、肩をふるふると震わせる。そして、ぐっと親指を立てた。
「その戸惑いも新鮮でウマイ」
「8割が意味わからないよ」
心底呆れたと律樹が肩をすくめるが、斎藤はにんまり笑うと招き猫のようにくいくいっと手首を動かした。
「それが5割になったらおいでませー」
「5割ねぇ。5割でいいんだ? それはハードルが高いのか低いのか。ま、そっちに行く気はないけど。アオイも斎藤のことは深く考えるだけで疲れるから、前から言ってるけどああいうものだって気にしないことが大事だ。ただの変態の面白いヤツってだけだし」
「……変態」
「ちょっとー、そこだけピックアップとかやめてくれる? 俺は変態ではない。ただの観察者で傍観者だから。そこのところはくれぐれもよろしく!!」
「ほら。アオイ。もう相手にしてたらきりがないから」
わぁわぁと持論と展開している斎藤を放っておけと、耳に手を当てられる。
こういうやり取りも定番化してきた。
最初の頃は、斎藤が叫ぶたびに気にして何か話かけた方がいいのかとそわそわしたが、周囲に無視されても本当に本人は気にしていないようだった。
いじめとかではなくて、意味不明な叫びに対しては放置するというクラス全体の流れが定番みたいで、そうではない時は普通に話はできる相手だし友人も多そうだ。
なので、そういうものと蒼依も気にしないようにはしているが、大きな独り言と自分たちに向けられたものはどうしても耳に入り気になってしまう。
というか、姫抱っこされた時周囲に喧騒に紛れて、『きたこれ~』って叫んでたの絶対彼だと思う。
あの中でもまた質が違ったというか。やけに耳に残っていた。
何が、『きたこれ~』なのかわからないが、愉快な人であるようなので律樹に耳を押さえられたまま、気にしないから気にしないでとひらっと蒼依は手を振った。
悪い人ではないのもわかっているから、距離感つかめず微妙な対応になって申し訳なく思っているのだ。
こうして律樹たちに任せっきりというのも、同じクラスメイトとして悪いというのと、やっぱり少しは己から歩み寄りも見せておきたい。
すると、おおぅっと声に出し軽く後ろに仰け反り、にんまり笑う男前。
そう。黙っていたら男前なんだ、彼は。
「ぐふっ。やっぱり姫だな。姫」
「斎藤。もうその辺にしとけよ。俺らは行くから」
「はいはーい」
「本当、楽しそうなのはいいけど、時と場所を考えなよ」
「考えてるって。それにしてもこれから楽しみしかないなぁ」
そんな意味深な斎藤の呟きを背に、蒼依たちは教室を出た。
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