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第2章 聖女編

だからじゃないよ①

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 そう。どれだけ己で戒めていても、巻き込まれる時は巻き込まれるのである。
 そんな俺の気づきとは別に、ミコトとエバンズの協議は止まらない。

「楽しみというのなら仕方がないでしょう。ですが、足を出してのやり取りだとか、レオラム様は止めていたと聞きましたが、それでも周囲は反応に困りますのでやめていただきたい。あと、殿下密着レポートとかわけのわからないものの提出をレオラム様に求めないでください。プライバシーの侵害ですよ」
「ええー。でも、レオラムと一緒にいることで殿下を拝見する機会は増えたけど、交流は毛が生えた程度だし補給が足りないのよ。だったら、殿下に近いレオラムにいろいろ教えてもらおうと思って。心の癒やしはレオラム、やる気の補給はカシュエル殿下のあの美貌なのよね」
「堂々としすぎでは?」

 エバンズが心底呆れたような声を上げた。

 ──ほんと、堂々しすぎでは?

 俺も心の中で盛大に頷いた。
 一般的にその手の思いはこそっと秘め、慎ましやかに主張(?)するものなのではないのだろうか。
 周囲も二人の会話に微妙な顔をしているので、聖女様相手に強くは言えないが脱走していたことも含め、皆やりすぎだと思っていそうだ。

「いいものをいいって言って何が悪いかわからないし。レオラムがいてくれるおかげで、堂々とできるから本当よかったわ」

 だから、巻き込まないで!
 俺は足の痺れにじんわり涙を溜めながら、ミコトに視線で訴えた。
 ミコトはふふっと笑い頷いて見せると、さらに熱弁する。

「そんな目で見ても、私たちの友情は持ちつ持たれつだから。あと、私は最初から態度は変わってないと思うけど」

 俺からエバンズに視線を向けてミコトは言葉を重ねると、ふむっとエバンズが顎に手を当てた。

「確かに、殿下ラブコールは初っ端からでした」
「そうでしょ? 私は大量の米粒の中にたまにある白い米を探すみたいに、殿下の美貌をもっとがっちりしっかりじっくりと見たいだけなのよ」
「米粒ですか」
「そう。こーんな小さいやつから、目を凝らして探すとあるなってやつ。粉状なんちゃらって名前で、炊くと柔らかくなりやすいらしいのよね。私のは、あれよあれ」
「あれ?」

 ぽん、と手を打ったミコトに、エバンズが眉を上げた。

「ああー、お米食べたくなってきた。きっと私はお米の不足分を、殿下の美貌を拝むことで埋めているのだわ。日本人にとってはこれ大事なことよ。この国の主食であるパンが急に食べられなくなって、これからは豆が主食だって言われているようなものなのよ」
「確かに米というのは文献に載っており、ミコト様の住む国では非常に重要なものだというのは理解しています。ですが、食べ物である米の代わりが殿下というのはあまりにも求めるものが違いすぎるのでは?」

 殿下の美貌が、米という食べ物に例えられている。
 話を聞くからに小さなもので主食ということはわかったが、エバンズもエバンズで普通に会話しすぎじゃないだろうか?

「一緒よ一緒。食べ物もお腹を満たしてくれるのは変わらないじゃない。でも、やっぱりっていうのは必ずあるよね。それに、見るだけなのだから減るもんじゃないでしょう? レオラムとのことは応援しているし、むしろいろいろお得感満載だし? なんなら、今後変な横やりあったら私が撃退しようと思うくらい劇推しよ」
「それは心強いですが。なんでしょう。ミコト様と話しているとどんどん話がずれていく気が……」
「私の主張はずっと変わってないけどね。とにかく、殿下の美貌を拝むことは私の活力なのよ。魔王討伐に出たら見られないのだから、王宮にいる間はいいと思わない?」
「そう言われると、私としても心苦しいのですが。実際に殿下は忙しい方ですのでそう簡単にお姿を拝見できるものではありませんし」
「だから、レオラムなのよ!」

 ──だからじゃないよ。ミコト。

 俺はミコトパワーに押され、げんなりとミコトを見上げた。

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