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第2章 聖女編
影響力①
しおりを挟む何度も言うが、現在、膝詰めて間近でのやり取りに足が痺れている。この状況って、地下騒動の時と同じように巻き込まれているだけのような気がした。少なくとも発端は俺じゃない。
ミコトに関わると、いろいろ物事が大きくなるのだなとしみじみ思う。
「レオラム様。巻き込まれているとかそういう問題ではないですよ?」
「なんで考えていることがわかったんですか?」
びっくりして訊ねると、エバンズは小さく肩を竦めた。
「ミコト様もおっしゃっていたように、レオラム様は自己評価が低いことと影響力を計算に入れないことが多いと理解しました。だから、私の出番なのです」
「宰相であるエバンズ様が出張るほどのことだと言いたいのですか?」
「ええ、そうです。現在、レオラム様はカシュエル殿下の秘宝であると周知されているとともに、聖女であるミコト様の友人でいらっしゃる。お二人のこの国における価値はわかっていらっしゃいますよね?」
「はい。この国の未来のために欠けてはならない方です」
魔王討伐を控えた今、勇者パーティ含む彼らの活躍で国の未来が大きく変わってくるのは重々承知している。
「それはよくわかってらっしゃるのに、どうしてそんな方々と深く交流のあるご自身の価値を低く見積もれるのか。いいですか。そんな方々と親交があるということは、レオラム様にその気がなくてもその背後に存在が色濃く見えるものですし、レオラム様を通しての影響力を周囲は気にもするものです」
そういう意味での影響力か。
人付き合いに関して互いに多少なりとも干渉するのは当然として、言われて初めて俺は気づいた。今まで、一人で完結していたから盲点である。
「おっしゃりたいことは少しわかった気がします。ですが、国が滅ぶとか大げさではありませんか?」
「決して誇張ではないですよ」
エバンズの言葉に、周囲が一斉にうんうんと頷く。
理解した上で言ってはみたが、周囲の反応に俺は顔を引き攣らせた。
横で聞いていたミコトが、うーんと声を上げる。
「私が言うのもなんだけど、カシュエル殿下ってこの国に非常に影響力ある方よね? 周囲もそういったことを気にせずにはいられないだろうし、身近な人なら尚更心労もあるんじゃない?」
「自覚してるんだ?」
「してるわよ。した上で、自分の気持ちに反することはしたくないって行動してる」
自信満々ににっこりと笑みを浮かべるミコトに、俺は嘆息する。
「それもどうかと思うけど」
「今は私のことじゃなくてレオラムのことね!」
「はい」
びしりと指をさされ、これ以上伸びないはずの背筋を伸ばした。
妙な熱意に押される。
「私が言いたいのは、レオラムが一番理解しないといけないことは、レオラムが思っている以上にカシュエル殿下がレオラムにご執心ってことよ。非常に優秀でできた聖君殿下は、レオラム限定で静かに粘着してそうなタイプだから、何かあればどう動くのか未知数ってことじゃない? 能力がある分影響力が計り知れないし、常人では太刀打ちできそうにないし」
「太刀打ちって……」
ミコトの言葉に、周囲が控えめに頭を縦に振る。
エバンズはそうだとがっつり頷いており、すごく不安になる。
「付き合いの期間が短い私でも、レオラムが理不尽な目に遭ったら絶対怒るからね!」
「……えっと、ありがと」
そして、当たり前のように味方でいてくれようとするミコトの友人としての言葉に、殿下の執着やら粘着やらの言葉は複雑であるが、思わず俺は顔を綻ばせた。
それに対してミコトもにこりと微笑んだが、推理は続く。
「私でさえそうなのだから、むしろ私の場合はわかりやすいけど、殿下の場合は地雷がわかりにくいし、多々ありそうなのが周囲も心配なんじゃないかな」
「地雷……」
「なるほどねー。今回の騒動の余波がいまだに引かないのは、そういう不安があるからなのね」
なんでミコトが納得しているのか。
ものすごく不安な言葉に眉尻を下げる。
「なのね、じゃないよ」
「でも、これくらい言わないとレオラムもわからないでしょ? ちょっとはわかったんじゃない?」
「……まあ」
わかるような、わからないような。
でもここは頷いておこう。
「レオラムは話せばわかるからね。いい子なんだよね」
「ちょっ、子供扱いしないで。ミコトより年上だからね」
「まあ。まあ。一つしか変わらないし」
「まあ。まあ。じゃないからね」
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