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第2章 聖女編
聖女の心
しおりを挟む俺たちはゆっくりと再奥へと進んでいた。
ヒィーッ、ヒッヒッヒッヒッ~~
聖女は横に来てぎゅっと俺の腕を掴み、妙な、本当に気がおかしくなっているのではと思うような笑い声が聞こえるたびにびくつく。
だが、面白いと思ってここにやってきたのは本当のようで、きょろきょろと興味深げに周囲に視線を走らせていた。
非常に行動的で大変だと聞いていたが、聖女は聖女で思うことがあっていろんな騒動を起こしているのではないだろうかと思うと、特に今は自分だけなので守ってやらねばと思った。
そのやり方はほかの者にとって迷惑であることも多く、関係者やカシュエルは大変そうであるが、自分がされたことには少なくとも怒りはない。
それは聖女が勇者パーティのヒーラーの後釜になってくれたおかげで解放されたという後ろめたい気持ちを抱えていること、聖女が熱を上げているカシュエルとの関係のこともあるからかもしれない。
こうして対面した今は、単純に元気すぎる、思慮に欠けるという印象よりは、十七歳で親元から離され一人きりで異世界から来た不安を抱える少女という側面を感じ、大人しくしてくれと以前のようには思えなくなっていた。
──話してみると行動的ではあるけれど、普通というか。
現状はよくわからないことになっているし、やっぱり行動的ではあるし、なぜこんなところにと思う気持ちはある。
だけど、もっと考えなしで行動しているのかと思っていたが、先ほども魔物のことにも触れていたし、聖女がなんでもすんなり受け止めたわけではないというのが垣間見えた。
聖女は聖女として認識していたが、普通の少女でもあるのだ。
そのため、聖女が俺のことを見極めたくてここに連れてきたのなら、少なくとも俺は等身大の彼女を知ろうと思った。
「聖女様は私の何を知りたかったのですか?」
「ミコトって呼んで。レオラムは性格悪いって聞いていたけれど、いろんなことが普通っていうかいい人っぽいよね。最初は逃げるのかと思ったし、無理やり説得しにかかるかと思えば付き合ってくれるし。笑わないって聞いたけど、さっきちょっと笑ったし。本当に性格悪いの?」
直球だ。ここまでストレートだと、逆に清々しささえ感じた。
勇者パーティと行動することもあるから、きっとそこから聞いたのだろう。
特に剣士は女好きだし、俺に本気で腹を立てていたから、むかつくヤツがいたんだと話題に出ていてもおかしくない。
「それは冒険者時代の噂を聞いてってことですよね?」
「そうね。無気力守銭奴ヒーラーと言われてたって聞いたわ」
「性格の良し悪しは他者がどう判断するかなので自分で言及できませんが、態度が悪かった自覚はありますし、守銭奴は合ってますよ」
「ふーん」
聖女は歩きながら、じろじろと俺を観察してくる。
まだ何か言いたげな聖女の視線を感じ、周囲を警戒しながら俺はちらりと聖女を見た。
「なんですか?」
「ほんとわからないわね。でも、なんか悪い人って思えないし嫌いじゃないわ。あと、カシュエル殿下の愛人って本当?」
「はっ?」
レオラムはそこで足を止めた。
本当にものすごく直球な聖女である。行動も言動も思ったらそのまま動き口にしてしまうタイプなのだろう。
王宮の地下。
まだ妙な笑い声は聞こえているなか、自分から話題を振ったとはいえ、聖女と肝試ししながらの会話は数時間前の俺には考えられないことだ。
本当におかしなことになっている。
ヒーッ ヒェッ ヒェッ ヒーヒッヒッ
カンカンカンカン カカン
笑い声も不気味であるし、先ほどよりやけに楽しそうに聞こえるのもいただけない。
鉄でも叩いているのかのような音が響き、そのリズムは不安を煽ってくる。
地下に誰かがいるのだろう。それは人ではあるとは思っているが、人だとしてもそれはそれで問題がある。
何を思って珍妙な笑いを響かせているのかは知らないが、こんな変な笑い方をする人と話が通じるような気がしない。
聖女は探索を続けたいようであるし、それでいて会話はまさに微妙な話題に突入した。
俺は周囲に気を配りながら、聖女に向き合った。
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