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第三話
「友達(自称)と私(他称)が打ち解けた日」(4)
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「うわ、もういるよ……」
私は時刻を確認した。何度見ても八時半で、約束の時間までまだ三十分はある。それなのに指定された駅前の一本松には、昨日の綺麗な女の人が既にスタンバイしていた。私は待ち合わせ場所から少し離れたコンビニにいるけど、もう少しここで時間を潰しておこう。
「とりあえず、今日発売の雑誌でも読むか」
雑誌コーナーでは何人かが立ち読みをしていたが、私は軽く会釈をして適当な漫画を手に取った。最初の数ページを捲ってみたが、特に内容は頭に入ってこなかった。ディスプレイ越しに一本松の方を覗いてみると、女の人は腕を組んだまま周りの様子を窺っている。
「なんか、怖いぞ」
今更になって、どうして私を呼び出したのかが気になり始めた。接点といえば朝に軽く顔を合わせるくらい。それと、ぺるちゃんに襲われた……というより一方的に遊ばれた私を助けてくれということもあるけど。
「とりあえず昼ご飯くらいは奢れるかな」
私の財布には虎の子の諭吉さん一人と、お医者様が八人ほど待機している。もし、今回の呼び出しがこの前の恩を返せということなら、このメンバー内で私なりの誠意を尽くすつもりだ。けど、どうもそれだけじゃない気がするんだよなぁ。
「あそこで働き始めてから面倒ごとばかりが増えているよ……」
ため息をつきつつ、店内の時計を確認した。八時四十五分、丁度いい頃合か。私はガムだけ買ってコンビニから出た。
「どうも、お待たせしました」
「いいわ、私も丁度着いたところだし」
惚れ惚れするような女の人の返答に、私は笑いがこみ上げそうになった。これが学生同士のデートだったら好感度が上がっていた事だろう。もちろん私にそんな経験は無いけどね。
「……ふーん」
「あの、何か?」
相変わらず腕を組んだままの女の人が、私の足元から首先までを嘗め回すように見てきた。値踏みされているようで、あまり気持ちのいいものではない。
「服装、意外とまともなんだと思って」
流石の私もカチンと来た。幾ら私でも外出用のまともな服だって持っている。昨日わざわざ衣装ケースの奥から引っ張り出して来たというのに。
「そちらこそずいぶん可愛らしい服じゃないですか」
お返しとまでは言わないが、私も相手の服装に言及してやった。大き目のパーカーに七分丈のストレートパンツに、頭にはスポーツキャップ。インナーは女性らしさを感じさせない迷彩柄で、ワンポイントのつもりか手首にはパワーストーンの数珠を着けている。足元は動きやすさ重視のスニーカーで、少なくとも可愛いという格好ではない。要するに私なりの嫌味だ。
「別に、褒めても何もでないわよ。それに貴女の着ているものの方が質は高いでしょうし」
まあ、そうでしょうね。私の着ているものはシンプルな色のスキニーとシャツを基本に組み立てたファッションですし。これでも、一応はブランド物ですから……放置しすぎてついた染みはベルトやバッグで誤魔化していますけど。
「予定が狂うじゃない……」
「なにか言いました?」
「いえ、何でもないわ」
予定がどうとか言ったような気がするけど……そうだ、肝心な事を聞き忘れていた。
「あの、今日は何の用があって私を呼び出したんですか?」
よく考えたら私達はお互いの名前もまだ知らないのに、いきなり休日で待ち合わせとかちょっと色々なものをはしょり過ぎているのではないだろうか。私もだけどそっちも社交性が高いようには見えないし。
「ああ、そのことについては追々説明するわ。とりあえず昼ごはんにしない?」
「まだ、九時前後ですけど……」
「え……ああ!!だって、本当はこれから貴女の服を見る予定だったのに無くなっちゃったから……」
大丈夫だろうか、この人。初見の印象と違ってどうもそそっかしいというか、ほんのりとアホの匂いがするというか。
「それに、私達まだお互いの名前も知らないじゃ……」
「わ、私は知ってるから。興四寺まどか、よね。それに携帯も今は持ってないんでしょ。だから昨日わざわざ紙に書いて私の連絡先を渡したんじゃない。携帯復活したらちゃんと登録しておいてよね!!あ、私は朱鷺弖虎。鳥類のトキに、弓の下に棒と虎でテトラよ」
え、どうしてこの人私の個人情報掴んでるの?
「気軽にテトって呼んでもらっていいから。私は……まどね。うん、呼びやすいし。よろしくね、まど」
そう言って、目の前の女の人……テトラさんは勢いで誤魔化しつつ右手を差し伸べてきた。私は、はあ、と間抜けな声を出しながらその手を握るしかなかった。思ったよりも冷たくて小さな手だった……全然心がときめかねぇ。
「ほら、あれがこの市のマスコットキャラクタートーゴンくんよ。こうやって定期的にイベントを開いているの」
「へえ……」
「そして手前に見えるのがオクズワット。十年前から建設が開始されて未だに増設中ということで話題になっているのよ。それからあれが……」
「はあ……」
最初の待ち合わせからかれこれ数時間は経っただろうか、その間テトラさんはこの炎天下の中ずっと観光案内をしてくれている。私の首筋には玉のような汗が吹き出ているんだけど、美人は発汗機能が壊れているのだろうか。テトラさんは額に汗一つかいていない。
「そうだ、この先に車でチリドッグを売っている店があるから行きましょう。激辛で有名なんですって」
聞いただけで口の中が乾きそうになった。けど、そんな私の意志を無視するかのようにテトラさんはグイグイと私の手を引っ張っていく。最早、抵抗する気力さえなかった。
「私そこで席とってますから……」
「あら、そう。じゃあ、待っててね」
適当な木陰を指差して、私はそこへ座り込んだ。今はとにかく休みたい。こんなことならコンビニで飲み物でも買ってくればよかった。気休めに深呼吸をして辺りを見回すと、意外とたくさんの人が集まっている。どうやらここは何かの広場のようで、至る所でパフォーマンスが行われていた。簡単なジャグリングや格闘技の組み手のようなものから、ちょっとしたマジックショーとかも。素人の私から見ても、どれもレベルが高いものだった。もちろんその中には人間ではないのも混ざっているけれど、誰も気にする様子も無いし、逆に拍手や喝采を送っている。
「まがりなりにも怪間地区ってわけか」
この光景が取り決めを作った人達の理想なのかな。だとしたら、何人が理解をしているんだろう。明確な区別を持っているのか、それとも曖昧なままに受け入れているのか……だいぶ、熱でやられているっぽいな。こんなどうでもいいことを考えてしまうなんて。
「せっかくの休日に何してるんだろう」
本当ならマスカレイダーイージーエイトをがっつり鑑賞していたはずなのに。
私は時刻を確認した。何度見ても八時半で、約束の時間までまだ三十分はある。それなのに指定された駅前の一本松には、昨日の綺麗な女の人が既にスタンバイしていた。私は待ち合わせ場所から少し離れたコンビニにいるけど、もう少しここで時間を潰しておこう。
「とりあえず、今日発売の雑誌でも読むか」
雑誌コーナーでは何人かが立ち読みをしていたが、私は軽く会釈をして適当な漫画を手に取った。最初の数ページを捲ってみたが、特に内容は頭に入ってこなかった。ディスプレイ越しに一本松の方を覗いてみると、女の人は腕を組んだまま周りの様子を窺っている。
「なんか、怖いぞ」
今更になって、どうして私を呼び出したのかが気になり始めた。接点といえば朝に軽く顔を合わせるくらい。それと、ぺるちゃんに襲われた……というより一方的に遊ばれた私を助けてくれということもあるけど。
「とりあえず昼ご飯くらいは奢れるかな」
私の財布には虎の子の諭吉さん一人と、お医者様が八人ほど待機している。もし、今回の呼び出しがこの前の恩を返せということなら、このメンバー内で私なりの誠意を尽くすつもりだ。けど、どうもそれだけじゃない気がするんだよなぁ。
「あそこで働き始めてから面倒ごとばかりが増えているよ……」
ため息をつきつつ、店内の時計を確認した。八時四十五分、丁度いい頃合か。私はガムだけ買ってコンビニから出た。
「どうも、お待たせしました」
「いいわ、私も丁度着いたところだし」
惚れ惚れするような女の人の返答に、私は笑いがこみ上げそうになった。これが学生同士のデートだったら好感度が上がっていた事だろう。もちろん私にそんな経験は無いけどね。
「……ふーん」
「あの、何か?」
相変わらず腕を組んだままの女の人が、私の足元から首先までを嘗め回すように見てきた。値踏みされているようで、あまり気持ちのいいものではない。
「服装、意外とまともなんだと思って」
流石の私もカチンと来た。幾ら私でも外出用のまともな服だって持っている。昨日わざわざ衣装ケースの奥から引っ張り出して来たというのに。
「そちらこそずいぶん可愛らしい服じゃないですか」
お返しとまでは言わないが、私も相手の服装に言及してやった。大き目のパーカーに七分丈のストレートパンツに、頭にはスポーツキャップ。インナーは女性らしさを感じさせない迷彩柄で、ワンポイントのつもりか手首にはパワーストーンの数珠を着けている。足元は動きやすさ重視のスニーカーで、少なくとも可愛いという格好ではない。要するに私なりの嫌味だ。
「別に、褒めても何もでないわよ。それに貴女の着ているものの方が質は高いでしょうし」
まあ、そうでしょうね。私の着ているものはシンプルな色のスキニーとシャツを基本に組み立てたファッションですし。これでも、一応はブランド物ですから……放置しすぎてついた染みはベルトやバッグで誤魔化していますけど。
「予定が狂うじゃない……」
「なにか言いました?」
「いえ、何でもないわ」
予定がどうとか言ったような気がするけど……そうだ、肝心な事を聞き忘れていた。
「あの、今日は何の用があって私を呼び出したんですか?」
よく考えたら私達はお互いの名前もまだ知らないのに、いきなり休日で待ち合わせとかちょっと色々なものをはしょり過ぎているのではないだろうか。私もだけどそっちも社交性が高いようには見えないし。
「ああ、そのことについては追々説明するわ。とりあえず昼ごはんにしない?」
「まだ、九時前後ですけど……」
「え……ああ!!だって、本当はこれから貴女の服を見る予定だったのに無くなっちゃったから……」
大丈夫だろうか、この人。初見の印象と違ってどうもそそっかしいというか、ほんのりとアホの匂いがするというか。
「それに、私達まだお互いの名前も知らないじゃ……」
「わ、私は知ってるから。興四寺まどか、よね。それに携帯も今は持ってないんでしょ。だから昨日わざわざ紙に書いて私の連絡先を渡したんじゃない。携帯復活したらちゃんと登録しておいてよね!!あ、私は朱鷺弖虎。鳥類のトキに、弓の下に棒と虎でテトラよ」
え、どうしてこの人私の個人情報掴んでるの?
「気軽にテトって呼んでもらっていいから。私は……まどね。うん、呼びやすいし。よろしくね、まど」
そう言って、目の前の女の人……テトラさんは勢いで誤魔化しつつ右手を差し伸べてきた。私は、はあ、と間抜けな声を出しながらその手を握るしかなかった。思ったよりも冷たくて小さな手だった……全然心がときめかねぇ。
「ほら、あれがこの市のマスコットキャラクタートーゴンくんよ。こうやって定期的にイベントを開いているの」
「へえ……」
「そして手前に見えるのがオクズワット。十年前から建設が開始されて未だに増設中ということで話題になっているのよ。それからあれが……」
「はあ……」
最初の待ち合わせからかれこれ数時間は経っただろうか、その間テトラさんはこの炎天下の中ずっと観光案内をしてくれている。私の首筋には玉のような汗が吹き出ているんだけど、美人は発汗機能が壊れているのだろうか。テトラさんは額に汗一つかいていない。
「そうだ、この先に車でチリドッグを売っている店があるから行きましょう。激辛で有名なんですって」
聞いただけで口の中が乾きそうになった。けど、そんな私の意志を無視するかのようにテトラさんはグイグイと私の手を引っ張っていく。最早、抵抗する気力さえなかった。
「私そこで席とってますから……」
「あら、そう。じゃあ、待っててね」
適当な木陰を指差して、私はそこへ座り込んだ。今はとにかく休みたい。こんなことならコンビニで飲み物でも買ってくればよかった。気休めに深呼吸をして辺りを見回すと、意外とたくさんの人が集まっている。どうやらここは何かの広場のようで、至る所でパフォーマンスが行われていた。簡単なジャグリングや格闘技の組み手のようなものから、ちょっとしたマジックショーとかも。素人の私から見ても、どれもレベルが高いものだった。もちろんその中には人間ではないのも混ざっているけれど、誰も気にする様子も無いし、逆に拍手や喝采を送っている。
「まがりなりにも怪間地区ってわけか」
この光景が取り決めを作った人達の理想なのかな。だとしたら、何人が理解をしているんだろう。明確な区別を持っているのか、それとも曖昧なままに受け入れているのか……だいぶ、熱でやられているっぽいな。こんなどうでもいいことを考えてしまうなんて。
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