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7.夢から醒めて【R18含む】
16.東京へ
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私は早速上垣さんに相談してみた。
上垣さんは大阪に留まって欲しいという正直な気持ちを伝えてきたが、最終的には快諾してくれた。
話も終わろうかとする頃に、上垣さんが口を開いた。
「いや、実は……社長から打診があったんですよね。会田さんを東京に移させてほしいっていう……」
「え? いつ頃ですか?」
もし振る前だったらもしかしたら時効かもしれない。
「昨日なんですよ。だからタイムリーというか」
振った後だ、と私は目を見開いた。
どういうつもりで賢太くんは私を東京に呼び寄せようとしているのか。
「社長に聞いてみます」
「是非そうしてください」
私は早速賢太くんに連絡を入れておいたが、すぐに返事が来た。
ちょうどこちらに来ているようだったので、夜に会うことになった。
------------------------
「お待たせ」
賢太くんが車を寄せて、私を助手席に座らせる。
どこへ行くかは分からない。
「東京行き、前向きに検討してくれるんだ? 嬉しいな」
「ええ……実は彼氏が東京に暮らしていて……」
「ふうん」
ちょっぴり棘のある返答だ。
「ま、オレは宣子が傍にいてくれればいいって思ってるから」
「賢太くん……」
「そんな顔すんなって」
賢太くんの手が伸びてきて、私の頬に触れた。
優しい、愛しそうに触れてくる賢太くんの手が温かかった。
「少なくともさ」
「ん?」
「今の時間は、宣子はオレだけのものだろ?」
「何なの、それ」
私が笑って誤魔化そうとしても、賢太くんは笑っていない。
「宣子に振られてから色々考えたけど、やっぱりオレは傍にいてほしいって思ってる。傍にいるだけだったら、恋人じゃなくても出来るだろ?」
「まあ、それは」
「せめて会社にいる間だけでも、オレの傍にいてほしい」
「賢太くん……」
ゆっくりとハンドルを切りながら、賢太くんは言葉を続ける。
「振られて、このまま距離を置いて全く逢わなくなるって考えたらすっげえ苦しいって気付いた。宣子の顔を毎日見られるだけで幸せって思えるから」
「うん……私も、賢太くんに全く会えなくなるのは悲しいし、心配だよ」
「じゃあ、異存はないよな?」
「うん、ない。賢太くんとずっと友達でいられるのはすごく嬉しいし、心強いよ」
私の言葉を聞いて、フッと笑う賢太くんの笑みは、どこか意味ありげで怪しげだった。
賢太くんにしたら、ただの友達関係でいるつもりはないのだろう。
友達以上恋人未満――そんな関係を求めているのかもしれない。
キス未満のスキンシップを求められるかもしれない――。
でも私は賢太くんを失いたくない。
だけど、熊野先生を裏切りたくもない。
キスされそうになったら、拒めばいいだけのこと。
私はそう決めて、賢太くんと友情を続けることにしたのだった。
-----------------------
ところが、賢太くんの言う傍にいてほしいという真意が分かったのは東京に転勤してからのことだった。
熊野先生の家に引っ越してから、初日に案内されたのが社長室だった。
「賢太くん、私、てっきりマーケティング部に配属されるかと思ったんだけど……」
「そんなこと一言も言ってないよ? ただオレの傍にいてって言ったよ」
「それで秘書……?」
「うん、新設したんだ」
そう答えてにっこりと笑う賢太くんを見て、私は油断した、と少し後悔する。
これから四六時中賢太くんとずっと共にすることになるようだ。
――なんだか賢太くんの女として見られてしまいそうだ。
「やっぱりやめたとは言わせないよ」
「それはないけど……」
「彼氏のことが気になる? 大丈夫だよ、それ以上の関係は求めないし」
「うん……」
なんだかちょっと信じられないけれど、と言いたげな顔をしていると、賢太くんがクスッと笑って「信じてよ」と私の肩を軽く叩いた。
言葉通り、賢太くんは仕事している間は私を秘書として扱っていた。
秘書という仕事は初めてなので、仕事しながら秘書の勉強を始める。
家の中でも秘書に関するハウツー本を読んでいると、「熱心だね」と熊野先生に乳房を揉まれながら言われた。
その後読ませてもらえず、そのままセックスしてしまうのがオチだった。
「別に仕事続けなくてもいいのに」
すっきりした表情をした熊野先生がそう言った。
「うーん、なんか社会と接点が欲しくて」
「なんか言うよね、専業主婦が社会と全く繋がってない感があるって。買い物一つでも社会に貢献して繋がってるのに繋がってない感じがあるのは」
「やっぱり……必要とされてるって感じがないからじゃない?」
「僕は宣子が必要だよー。傍にいるだけで、ほんと安心する……」
それとはまた違う必要とされている感じなんだけどね、と私が言っても、熊野先生はもうすでに私の乳房に夢中になっている。
「二回目、しよ?」
「……もうっ……」
結局二回目も激しく愛し合い、一緒にお風呂に入って疲れた身体を休めるために眠った。
上垣さんは大阪に留まって欲しいという正直な気持ちを伝えてきたが、最終的には快諾してくれた。
話も終わろうかとする頃に、上垣さんが口を開いた。
「いや、実は……社長から打診があったんですよね。会田さんを東京に移させてほしいっていう……」
「え? いつ頃ですか?」
もし振る前だったらもしかしたら時効かもしれない。
「昨日なんですよ。だからタイムリーというか」
振った後だ、と私は目を見開いた。
どういうつもりで賢太くんは私を東京に呼び寄せようとしているのか。
「社長に聞いてみます」
「是非そうしてください」
私は早速賢太くんに連絡を入れておいたが、すぐに返事が来た。
ちょうどこちらに来ているようだったので、夜に会うことになった。
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「お待たせ」
賢太くんが車を寄せて、私を助手席に座らせる。
どこへ行くかは分からない。
「東京行き、前向きに検討してくれるんだ? 嬉しいな」
「ええ……実は彼氏が東京に暮らしていて……」
「ふうん」
ちょっぴり棘のある返答だ。
「ま、オレは宣子が傍にいてくれればいいって思ってるから」
「賢太くん……」
「そんな顔すんなって」
賢太くんの手が伸びてきて、私の頬に触れた。
優しい、愛しそうに触れてくる賢太くんの手が温かかった。
「少なくともさ」
「ん?」
「今の時間は、宣子はオレだけのものだろ?」
「何なの、それ」
私が笑って誤魔化そうとしても、賢太くんは笑っていない。
「宣子に振られてから色々考えたけど、やっぱりオレは傍にいてほしいって思ってる。傍にいるだけだったら、恋人じゃなくても出来るだろ?」
「まあ、それは」
「せめて会社にいる間だけでも、オレの傍にいてほしい」
「賢太くん……」
ゆっくりとハンドルを切りながら、賢太くんは言葉を続ける。
「振られて、このまま距離を置いて全く逢わなくなるって考えたらすっげえ苦しいって気付いた。宣子の顔を毎日見られるだけで幸せって思えるから」
「うん……私も、賢太くんに全く会えなくなるのは悲しいし、心配だよ」
「じゃあ、異存はないよな?」
「うん、ない。賢太くんとずっと友達でいられるのはすごく嬉しいし、心強いよ」
私の言葉を聞いて、フッと笑う賢太くんの笑みは、どこか意味ありげで怪しげだった。
賢太くんにしたら、ただの友達関係でいるつもりはないのだろう。
友達以上恋人未満――そんな関係を求めているのかもしれない。
キス未満のスキンシップを求められるかもしれない――。
でも私は賢太くんを失いたくない。
だけど、熊野先生を裏切りたくもない。
キスされそうになったら、拒めばいいだけのこと。
私はそう決めて、賢太くんと友情を続けることにしたのだった。
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ところが、賢太くんの言う傍にいてほしいという真意が分かったのは東京に転勤してからのことだった。
熊野先生の家に引っ越してから、初日に案内されたのが社長室だった。
「賢太くん、私、てっきりマーケティング部に配属されるかと思ったんだけど……」
「そんなこと一言も言ってないよ? ただオレの傍にいてって言ったよ」
「それで秘書……?」
「うん、新設したんだ」
そう答えてにっこりと笑う賢太くんを見て、私は油断した、と少し後悔する。
これから四六時中賢太くんとずっと共にすることになるようだ。
――なんだか賢太くんの女として見られてしまいそうだ。
「やっぱりやめたとは言わせないよ」
「それはないけど……」
「彼氏のことが気になる? 大丈夫だよ、それ以上の関係は求めないし」
「うん……」
なんだかちょっと信じられないけれど、と言いたげな顔をしていると、賢太くんがクスッと笑って「信じてよ」と私の肩を軽く叩いた。
言葉通り、賢太くんは仕事している間は私を秘書として扱っていた。
秘書という仕事は初めてなので、仕事しながら秘書の勉強を始める。
家の中でも秘書に関するハウツー本を読んでいると、「熱心だね」と熊野先生に乳房を揉まれながら言われた。
その後読ませてもらえず、そのままセックスしてしまうのがオチだった。
「別に仕事続けなくてもいいのに」
すっきりした表情をした熊野先生がそう言った。
「うーん、なんか社会と接点が欲しくて」
「なんか言うよね、専業主婦が社会と全く繋がってない感があるって。買い物一つでも社会に貢献して繋がってるのに繋がってない感じがあるのは」
「やっぱり……必要とされてるって感じがないからじゃない?」
「僕は宣子が必要だよー。傍にいるだけで、ほんと安心する……」
それとはまた違う必要とされている感じなんだけどね、と私が言っても、熊野先生はもうすでに私の乳房に夢中になっている。
「二回目、しよ?」
「……もうっ……」
結局二回目も激しく愛し合い、一緒にお風呂に入って疲れた身体を休めるために眠った。
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