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6.大学時代【R18含む】
14.どうしよう
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夏休みはずっと賢太くんの家にいたが、ほとんど抱き合ったままで過ごしただけだった。
京都観光にも行きたかったのでそれなりには楽しめたが、賢太くんの束縛がすごい。
人目も憚らず私の腰に手を回して抱き締めたり、混雑したエレベーターの中で私の頬に軽いキスをしたりして、私を恥ずかしがらせた。
「いい加減にしてよ」
と私がぶち切れたところで、少しマシになっただろうか。
賢太くんはシュンとしょげて大人しくなった。
そんな姿がちょっと可哀想に見えたので、家の中だけはいいよ、と許したところでこんなにセックスしまくるとは思わなかった。
そんな夏休みももう終わり、私は東京に戻った。
ちょっと大学に寄ろうかと思ったが、やめておいた。
大学が始まってから私は京都のお土産を研究会のみんなに配る。
「京都行ってきたんだ?」
熊野先生が少し意味ありげに言って、私の土産を受け取った。ただの菓子だが。
私を責める口ぶりではないが、目は何となく非難されているような感じがして落ち着かない。
――私の考えすぎかしら。
私がそう見えているだけで、先生は純粋に「楽しかった?」と聞いているだけかもしれないし。
それに熊野先生はモテる。
熊野先生がいかにモテるかを思い知らされる事件が、夏休み明けてから起きたのだ。
しばらくしてから研究会に見知らぬ女性が出入りするようになったのだ。
秋から非正規で入ってきた女性――大学の事務職員だ。
それも、結構若い。大学を出たばかりの23歳の女性。
しかも可愛い。
ガチで熊野先生を見る目がハートになっており、文字通り首ったけのようだ。
熊野先生はいつものようにのらりくらりとかわそうとしているが、それを物怖じとせずにぐいぐいと先生にアタックする。
「熊野先生、今日こそはランチに行ってくれますかぁ?」
「いや、仕事が残ってるから先に行っておいで。あ、そうだ生徒たちと一緒にでもどう? 後から僕が行くよ」
なんて答えて、生徒を巻き込んで自分だけは遁走するのだ。
その女性事務員の名前はたてなかさんという珍しい苗字の子だ。
「参ったなぁ。たてなかさんずっと熊野先生の話ばっかりで嫌になるよ」
「そうそう。小説も大ファンらしくてさー」
菊池先輩も戸口先輩もたてなかさんとのランチに付き合いきれない、と言わんばかりの顔をしている。
「先生も可哀想だよな。何度も断ってるのに」
「これってストーカーの一種じゃね?」
あながち間違いではない。
「しかもさ、奢ってくれと言わんばかりだから……いくら安い学食でも毎日じゃあかさんで大変だよ」
「え、そうなの?」
熊野先生がギョッとして顔を上げた。
「それは申し訳ない……払うからレシートくれ」
「それは助かります。先生の尻ぬぐいしてるんだからそれぐらいはしてもらわないと困りますよ、こちらは」
菊池先輩がぶーぶー言いながらレシートを財布から取り出してきた。
「先生、一度くらいは付き合ってやったらどうですか」
「案外すっきりして来なくなるかもですよ」
――いやいや、それは……逆効果だ。
「むしろ勘違いされるから止めておいた方がいいんじゃねえの」
遠くで資料を読んでいた木内さんがぽつりと呟いた。
「それもそうだね。さて、どうしたら諦めてくれるか……」
「奥さんを連れてきて、ラブラブアピールでもすればいいじゃないですか」
木内さんの言うことはごもっともだった。
「いや……妻は大学に来たがらないからね……」
熊野先生が誤魔化すようにして言葉を濁す。
「そうやって家庭内不仲を匂わせるから、他の女性たちが今ならいけるかもと思っちゃうんですよ、先生」
鋭い。
その中の一人が、まさしく私なのかも、と言葉に詰まった。
「どうしたいんだろうね~僕も」
熊野先生がふう、とため息をついて、髪をくしゃっと掴んだ。
「まあ僕が仮に独身だったとしても……たてなかさんと付き合うつもりは全くないからね」
本当に罪な男である。
少し地味で大人しそうな顔つきをしているのに、妙に色気があるし話し掛けやすい雰囲気だからか、ついつい近づいてしまう。
そこにいるだけで罪な男であるのに、ベストセラー作家であり、ドラマ化もされている有名な人ときたもんだ。
女がほっとくわけがない。
逆に言うと、そういうモテモテ男が私を相手にするわけがない。
リスクが大きいのはもちろん、私ぐらいの女はいくらでもいるからだ、この人口過密の東京に。
だから言ってやったのだ、冗談を。
「先生、私とならランチに行ってくれるんですか? ふふっ」
熊野先生の部屋で二人っきりの時に言ってみたのだ。
彼は私を見て目を丸くしていたが、少し間を置いてからにこっと笑う。
「そうだな。見られると困るから、隠れられるところで会って食べる?」
一瞬意味を掴めなくて固まった。
「……あ、困らせちゃった。ははっ、冗談を冗談で返したつもり……かな」
「あ……じょ、冗談……そうですよね」
何をガチで真に受けてしまったのか、私の顔はきっと真っ赤に違いない。
ばれないように誤魔化したが、きっとばれている。鋭い熊野先生のことだから――。
「変な空気になっちゃったから、おしまい。じゃあここで退散しとかないとヤバいよ~」
熊野先生に無理矢理追い出された形で部屋を出た私は、まだ顔に熱をこもらせていた。
京都観光にも行きたかったのでそれなりには楽しめたが、賢太くんの束縛がすごい。
人目も憚らず私の腰に手を回して抱き締めたり、混雑したエレベーターの中で私の頬に軽いキスをしたりして、私を恥ずかしがらせた。
「いい加減にしてよ」
と私がぶち切れたところで、少しマシになっただろうか。
賢太くんはシュンとしょげて大人しくなった。
そんな姿がちょっと可哀想に見えたので、家の中だけはいいよ、と許したところでこんなにセックスしまくるとは思わなかった。
そんな夏休みももう終わり、私は東京に戻った。
ちょっと大学に寄ろうかと思ったが、やめておいた。
大学が始まってから私は京都のお土産を研究会のみんなに配る。
「京都行ってきたんだ?」
熊野先生が少し意味ありげに言って、私の土産を受け取った。ただの菓子だが。
私を責める口ぶりではないが、目は何となく非難されているような感じがして落ち着かない。
――私の考えすぎかしら。
私がそう見えているだけで、先生は純粋に「楽しかった?」と聞いているだけかもしれないし。
それに熊野先生はモテる。
熊野先生がいかにモテるかを思い知らされる事件が、夏休み明けてから起きたのだ。
しばらくしてから研究会に見知らぬ女性が出入りするようになったのだ。
秋から非正規で入ってきた女性――大学の事務職員だ。
それも、結構若い。大学を出たばかりの23歳の女性。
しかも可愛い。
ガチで熊野先生を見る目がハートになっており、文字通り首ったけのようだ。
熊野先生はいつものようにのらりくらりとかわそうとしているが、それを物怖じとせずにぐいぐいと先生にアタックする。
「熊野先生、今日こそはランチに行ってくれますかぁ?」
「いや、仕事が残ってるから先に行っておいで。あ、そうだ生徒たちと一緒にでもどう? 後から僕が行くよ」
なんて答えて、生徒を巻き込んで自分だけは遁走するのだ。
その女性事務員の名前はたてなかさんという珍しい苗字の子だ。
「参ったなぁ。たてなかさんずっと熊野先生の話ばっかりで嫌になるよ」
「そうそう。小説も大ファンらしくてさー」
菊池先輩も戸口先輩もたてなかさんとのランチに付き合いきれない、と言わんばかりの顔をしている。
「先生も可哀想だよな。何度も断ってるのに」
「これってストーカーの一種じゃね?」
あながち間違いではない。
「しかもさ、奢ってくれと言わんばかりだから……いくら安い学食でも毎日じゃあかさんで大変だよ」
「え、そうなの?」
熊野先生がギョッとして顔を上げた。
「それは申し訳ない……払うからレシートくれ」
「それは助かります。先生の尻ぬぐいしてるんだからそれぐらいはしてもらわないと困りますよ、こちらは」
菊池先輩がぶーぶー言いながらレシートを財布から取り出してきた。
「先生、一度くらいは付き合ってやったらどうですか」
「案外すっきりして来なくなるかもですよ」
――いやいや、それは……逆効果だ。
「むしろ勘違いされるから止めておいた方がいいんじゃねえの」
遠くで資料を読んでいた木内さんがぽつりと呟いた。
「それもそうだね。さて、どうしたら諦めてくれるか……」
「奥さんを連れてきて、ラブラブアピールでもすればいいじゃないですか」
木内さんの言うことはごもっともだった。
「いや……妻は大学に来たがらないからね……」
熊野先生が誤魔化すようにして言葉を濁す。
「そうやって家庭内不仲を匂わせるから、他の女性たちが今ならいけるかもと思っちゃうんですよ、先生」
鋭い。
その中の一人が、まさしく私なのかも、と言葉に詰まった。
「どうしたいんだろうね~僕も」
熊野先生がふう、とため息をついて、髪をくしゃっと掴んだ。
「まあ僕が仮に独身だったとしても……たてなかさんと付き合うつもりは全くないからね」
本当に罪な男である。
少し地味で大人しそうな顔つきをしているのに、妙に色気があるし話し掛けやすい雰囲気だからか、ついつい近づいてしまう。
そこにいるだけで罪な男であるのに、ベストセラー作家であり、ドラマ化もされている有名な人ときたもんだ。
女がほっとくわけがない。
逆に言うと、そういうモテモテ男が私を相手にするわけがない。
リスクが大きいのはもちろん、私ぐらいの女はいくらでもいるからだ、この人口過密の東京に。
だから言ってやったのだ、冗談を。
「先生、私とならランチに行ってくれるんですか? ふふっ」
熊野先生の部屋で二人っきりの時に言ってみたのだ。
彼は私を見て目を丸くしていたが、少し間を置いてからにこっと笑う。
「そうだな。見られると困るから、隠れられるところで会って食べる?」
一瞬意味を掴めなくて固まった。
「……あ、困らせちゃった。ははっ、冗談を冗談で返したつもり……かな」
「あ……じょ、冗談……そうですよね」
何をガチで真に受けてしまったのか、私の顔はきっと真っ赤に違いない。
ばれないように誤魔化したが、きっとばれている。鋭い熊野先生のことだから――。
「変な空気になっちゃったから、おしまい。じゃあここで退散しとかないとヤバいよ~」
熊野先生に無理矢理追い出された形で部屋を出た私は、まだ顔に熱をこもらせていた。
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