上 下
55 / 103
6.大学時代【R18含む】

11.洗いざらい

しおりを挟む
 百合子ちゃんに久々に会ったら、雰囲気が変わった、と指摘された。

「ねえ、なんか妙な雰囲気になってない?」
 百合子ちゃんが怪訝そうに私の顔を凝視する。

「なんかあった? 大きな変化とかそういうの」
「えっ……う、うん……実は……」

 百合子ちゃんには正直に話すのが一番だ。
 賢太くんとようやく結ばれたことを報告すると、百合子ちゃんがかなりひどい顔に歪んでしまった。

「げげっ……ついに……」
「何よ、喜んでくれないの?」
「そりゃ良かったかもだけど……まだ婚約破棄してないんでしょ? それがちょっと引っかかるなあ」
「それは分かってるけど」
「でも、あんたが前に比べてとっても優しい表情になってるから良しとするわ……」
 百合子ちゃんがふう、とため息をついた。

「いつも顔を強張らせていて、何かに怯えるような感じだったもん。なんでそんなに怖がってるの?」
「百合子ちゃん……」
 百合子ちゃんにあまり話していない。母親からの虐待や父親からの無視を。
 でも、百合子ちゃんに話せなかったのは、百合子ちゃんを信じられなかったと言われればそうかもしれない。
 そうじゃない。
 今の私が百合子ちゃんを信じられなかったのではない。
 前の人生の私が百合子ちゃんを信じられないのだ。

 もう違う――今の人生は、今の私のものだ。

「実はね」
 百合子ちゃんに洗いざらい話した。
 百合子ちゃんは私の話を遮ることもなく、静かに聞いていた。
 目を時々潤ませ、ぐっと堪えていることもあった。

「話してくれてありがとう。ただね、一つだけ言わせて」
「うん?」
「私、悔しい。なんでもっと早く話してくれなかったの。賢太ばっかりずるいよ」
「ごめんね……」
「もう……。これからは話してよね。困った事も全部」
「うん、ありがとう。百合子ちゃんがいてくれて本当によかったよ、今までだって」
「当たり前でしょ。どんな宣子でも私は絶対傍にいるって決めてるもん」

 だって、こんな嫌な性格の私をずっと受け容れてくれたでしょ、と百合子ちゃんがチャーミングな笑みを見せる。

「あとね……田中次郎と正式に婚約することになったの」
「えっ? あの田中次郎と?」
「そう。お祝いしてよね」
「えーっ、やっぱり好きになってたんじゃん」
「ふん」

 決め手となったのは、ボンボンの慶応ボーイたちに口説かれ続けていた百合子ちゃんが、ついにストーカーなるものにつきまとわれていて襲われかけていた所に田中次郎がそのストーカーを背負い投げをして撃退したのだそう。
 ヒョロヒョロとしたなりに見えたが、実は黒帯だった、という顛末だった。
 文武両道のお坊ちゃまで、鬱陶しい前髪を切って整えた後の田中次郎はものすごく男前だったというのだから、百合子ちゃんが落ちないわけがない。

 だが、初めから田中次郎がイケメンだったら百合子ちゃんはそっぽ向いていただろうと思う。

「でも田中次郎はおしゃれするのが嫌いみたいでね、普段は前髪を下ろして顔を隠してるんだって」
「へえ~」
「……でね、あっちの方もすっごかったの……」
「ほお。そりゃ何よりだ!」

 絶倫だなんて、見かけによらないんだな、と私は口笛を吹いた。
「早く結婚して子供欲しいっ!」
「そんなに?」
「うん、理想の人って感じ」

 ふふふ、と百合子ちゃんが首をかしげて笑っているところを見て、百合子ちゃんもガッツリ女なんだなあと実感させられる。
 当初はさばさばした女の子かと思いきや……夢見る少女だったのだ。

 ――本当、見かけで勝手に決めつけたらダメだよね。

 百合子ちゃんが幸せそうに笑っているのを見るのが一番だ。
 つられてこちらも微笑んでしまう。

 本当に良かった、百合子ちゃんにすべてを話せて。

 これで私の味方になってくれる人が一人、増えた。

 もう前のような孤独にはならない。
 賢太くんも百合子ちゃんもいるのだから。
 離れていても心は繋がっている、という実感がようやく分かってきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】浮気のおしおきで彼氏と浮気相手から同時に攻められました【3P】

雪村 里帆
恋愛
「お前、浮気してる?」——誰もが羨む美男子の彼氏がいるのに、バーで知り合った好みのタイプの男の子と寝てしまった…だけど二股を掛けた事を悪い事だと思いもしない私。そんな折、久々のお家デートなのに彼氏が急に友達を呼び出した。その『友達』がまさかの人物で……。 ※R18作品につきご注意ください。3P要素あり。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

Re:ご主人様の性奴隷は淫らに今日も啼くのでした。

sweetheart
恋愛
私事、芹澤愛羅は現在、20。ひょんなことから、知り合った出会い系サイトで天沼敦也と言う男性とちょっと変わった関係を持つ事に…… それは、ご主人様と性奴隷と言う関係で……出会いを重ねて相性が良ければ結婚しようかと言う話まで出始めていた頃、 急にご主人様と連絡が取れなくなり……ショックで退会してから、もう会う事もないだろうっと思って居たら急に本社への異動が決まり、 人手不足による応援と言う事で本社の営業部に回される事に……。 急な本社移動に、気を取り直して、本社でなりあがるぞっと思いきや、移動した初日になんと、天沼敦也がそこの部署の直属の上司だったとしり、 オフィスの天沼の部屋やホテルに呼び出され夜な夜な嫌なのに体を求められて…… 私どうなってしまうの? ※過去に作った作品を再リメイク致しました。 シーンの追加、セリフの掛け合いの変更などを大幅に見直して掲載しています。

処理中です...