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6.大学時代【R18含む】
5.出発前の二人きり
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『はっ?』
GWはフィールドワークのため不在と言った時の賢太くんの声にすごく棘があった。
『GWずっと東京にいないのか?』
「うん、最初から最後までフィールドワークみたい」
『……ッたく、オレとの約束はどうするんだよ……』
「だからごめんって」
『分かったよ。じゃあその代わり、GW明けにそっち行くからな』
GW明けの週末にこっちに来るらしい。
そして東大を見回るとのこと。
偵察なのだろう。
「もぉ……分かったよ。だから機嫌を直して?」
『はあ~、好きにしたらいいとは思うけど……宣子、バリバリ隙だらけだからな……。心配だ……』
実際に数人の男子学生に声を掛けられたことがある。
それをバカ正直に言うつもりはない。
「うん、大丈夫。少なくともバカな男には引っかからないから」
『しっかりしろよ? もしなんかあったらオレが殴りに行ってやるから』
「ふふ、ありがとう。じゃあまたね」
『おう。また夜にかけるな。そのフィールドワーク中にもかけるからな? いいか?』
「うん、わかった。待ってる」
私だって心配してないわけない。
婚約者のこずえさんと二人きりでいる時間があるのではないかと想像する度に胸がきゅっと締め付けられる。
でも埒が明かないから考えないようにしているのよ、と文句言いたくなる。
……でも、言わない。
クソ真面目に私に手を出さないのが彼の良い所だけど……、それでも手を出して欲しかった、と思うことはある。
賢太パパのように、欲望に忠実に求めて欲しかった。
だって他の女と結婚しているのに、同じ屋根の下でセックスしまくってた、と聞いたんだから。
子供の頃に見かけた賢太パパの優しい笑みを思い出しながら、卑猥なことをしていたんだと勝手にムラムラしていたこともあった。
冴子さんをすごく羨ましく思ったのはここだけの話である。
言葉だけじゃなくて、ちゃんと求めて欲しい。
それが女としての願い。
そんなことを考えながら、GWのフィールドワークに向けての準備をするためにスーツケースを開いた。
----------------------------
いよいよ出発。
駅に集合して、新幹線に乗る……ではなく、車だった。
どうやら節約のためらしい。
免許を持っている生徒が交互に運転して遠野に向かうようで、約六時間くらいかかるそう。
そのため、早朝6時に東大に集合だったのだ。
まだ少し薄暗い中で大学に向かうのは新鮮な感じがした。
集合場所に三十分早く着いたのだが、部室に明かりが点っていたので誰か早く来たのかな、と顔を出した。
そこには熊野先生が荷造りをしていた。
「おっ、早いね。おはよう、会田さん」
「……先生、もしかしてここに泊まりました?」
「はは、ばれた?」
「寝るところなんてありましたっけ?」
部室には机と椅子、そして工芸品が展示されている棚ぐらいだった。
「あるよ~、僕の部屋にソファが」
そういえば熊野先生の部屋にソファがあったな、と思い出した。
「身体に悪いですよ。家に帰って寝てくださいよ。奥様も心配されてますよ」
「ん、そうだね」
なんだか歯切れが悪いな、と思いつつ、熊野先生の荷造りを手伝う。
「楽しみですね、遠野」
「うんうん。僕も久しぶりに行くからワクワクするね~。最近取材とか行ってなかったから……」
「ああ、今やっているドラマとか忙しかったですもんね」
私もそのドラマを見始めたが、面白い。
今期話題のドラマらしく、熊野先生のところにいろんな出版社の人がアプローチに来るのだ。
「でも、先生は研究したいんですよね?」
「そうそう。暇つぶしに小説を書ければいいだけなんだよね」
「ふふ、世の中不公平だなー」
「どうして?」
熊野先生は自分の服を雑にカバンの中に突っ込もうとしているところだ。
それを私が丁寧に畳み直して、カバンに入れていく。
「世の中には小説家になりたくてなれない人がたくさんいるじゃないですか」
「まあ、そうだね」
「先生は、小説も書けて、大好きな研究もできて、奥さんもいて……しかも他の女性からも言い寄られて……良いことずくめじゃないですか」
ちくりと嫌味を言ったつもりだったが、通じなかったようだ。
「そうかあ。会田さんにはそう見えるんだ?」
「違うんですか?」
「うーん、まあ、いいや」
なんだかのらりくらりとかわされているような気がして、モヤモヤする。
「まっ、そう見えてるんなら良しとするかな」
まるで違うと言いたそうな物言いに、私はあえて突っ込まなかった。
「ぼちぼち行きますか。会田さんはずっと助手席に座ってね。後ろに乗っちゃうと危険な野郎共が興奮しちゃうからさ」
後部席は密着するのでいただけない、ということで私は助手席にずっと座ることになっている。
谷萩先輩は不参加だ。バイトがあるから、という理由で。
本当にバイトかどうかは分からないが、あれから少し気まずい。
私のせいだろうか、と思い悩んでいるところを目敏く見抜いて「君のせいじゃないよ」と熊野先生が慰めてくれた。
「谷萩くんは恋愛経験ないからね。舞い上がっちゃっていきなり距離を詰めてしまったんだろうよ」
と言ったのを思い出した。
――ま、いっか。
何にせよ熊野先生との今の距離感が心地良い。
初めての遠野をめいっぱい楽しもう。
GWはフィールドワークのため不在と言った時の賢太くんの声にすごく棘があった。
『GWずっと東京にいないのか?』
「うん、最初から最後までフィールドワークみたい」
『……ッたく、オレとの約束はどうするんだよ……』
「だからごめんって」
『分かったよ。じゃあその代わり、GW明けにそっち行くからな』
GW明けの週末にこっちに来るらしい。
そして東大を見回るとのこと。
偵察なのだろう。
「もぉ……分かったよ。だから機嫌を直して?」
『はあ~、好きにしたらいいとは思うけど……宣子、バリバリ隙だらけだからな……。心配だ……』
実際に数人の男子学生に声を掛けられたことがある。
それをバカ正直に言うつもりはない。
「うん、大丈夫。少なくともバカな男には引っかからないから」
『しっかりしろよ? もしなんかあったらオレが殴りに行ってやるから』
「ふふ、ありがとう。じゃあまたね」
『おう。また夜にかけるな。そのフィールドワーク中にもかけるからな? いいか?』
「うん、わかった。待ってる」
私だって心配してないわけない。
婚約者のこずえさんと二人きりでいる時間があるのではないかと想像する度に胸がきゅっと締め付けられる。
でも埒が明かないから考えないようにしているのよ、と文句言いたくなる。
……でも、言わない。
クソ真面目に私に手を出さないのが彼の良い所だけど……、それでも手を出して欲しかった、と思うことはある。
賢太パパのように、欲望に忠実に求めて欲しかった。
だって他の女と結婚しているのに、同じ屋根の下でセックスしまくってた、と聞いたんだから。
子供の頃に見かけた賢太パパの優しい笑みを思い出しながら、卑猥なことをしていたんだと勝手にムラムラしていたこともあった。
冴子さんをすごく羨ましく思ったのはここだけの話である。
言葉だけじゃなくて、ちゃんと求めて欲しい。
それが女としての願い。
そんなことを考えながら、GWのフィールドワークに向けての準備をするためにスーツケースを開いた。
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いよいよ出発。
駅に集合して、新幹線に乗る……ではなく、車だった。
どうやら節約のためらしい。
免許を持っている生徒が交互に運転して遠野に向かうようで、約六時間くらいかかるそう。
そのため、早朝6時に東大に集合だったのだ。
まだ少し薄暗い中で大学に向かうのは新鮮な感じがした。
集合場所に三十分早く着いたのだが、部室に明かりが点っていたので誰か早く来たのかな、と顔を出した。
そこには熊野先生が荷造りをしていた。
「おっ、早いね。おはよう、会田さん」
「……先生、もしかしてここに泊まりました?」
「はは、ばれた?」
「寝るところなんてありましたっけ?」
部室には机と椅子、そして工芸品が展示されている棚ぐらいだった。
「あるよ~、僕の部屋にソファが」
そういえば熊野先生の部屋にソファがあったな、と思い出した。
「身体に悪いですよ。家に帰って寝てくださいよ。奥様も心配されてますよ」
「ん、そうだね」
なんだか歯切れが悪いな、と思いつつ、熊野先生の荷造りを手伝う。
「楽しみですね、遠野」
「うんうん。僕も久しぶりに行くからワクワクするね~。最近取材とか行ってなかったから……」
「ああ、今やっているドラマとか忙しかったですもんね」
私もそのドラマを見始めたが、面白い。
今期話題のドラマらしく、熊野先生のところにいろんな出版社の人がアプローチに来るのだ。
「でも、先生は研究したいんですよね?」
「そうそう。暇つぶしに小説を書ければいいだけなんだよね」
「ふふ、世の中不公平だなー」
「どうして?」
熊野先生は自分の服を雑にカバンの中に突っ込もうとしているところだ。
それを私が丁寧に畳み直して、カバンに入れていく。
「世の中には小説家になりたくてなれない人がたくさんいるじゃないですか」
「まあ、そうだね」
「先生は、小説も書けて、大好きな研究もできて、奥さんもいて……しかも他の女性からも言い寄られて……良いことずくめじゃないですか」
ちくりと嫌味を言ったつもりだったが、通じなかったようだ。
「そうかあ。会田さんにはそう見えるんだ?」
「違うんですか?」
「うーん、まあ、いいや」
なんだかのらりくらりとかわされているような気がして、モヤモヤする。
「まっ、そう見えてるんなら良しとするかな」
まるで違うと言いたそうな物言いに、私はあえて突っ込まなかった。
「ぼちぼち行きますか。会田さんはずっと助手席に座ってね。後ろに乗っちゃうと危険な野郎共が興奮しちゃうからさ」
後部席は密着するのでいただけない、ということで私は助手席にずっと座ることになっている。
谷萩先輩は不参加だ。バイトがあるから、という理由で。
本当にバイトかどうかは分からないが、あれから少し気まずい。
私のせいだろうか、と思い悩んでいるところを目敏く見抜いて「君のせいじゃないよ」と熊野先生が慰めてくれた。
「谷萩くんは恋愛経験ないからね。舞い上がっちゃっていきなり距離を詰めてしまったんだろうよ」
と言ったのを思い出した。
――ま、いっか。
何にせよ熊野先生との今の距離感が心地良い。
初めての遠野をめいっぱい楽しもう。
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