48 / 103
6.大学時代【R18含む】
4.ランチデート
しおりを挟む
谷萩先輩がチョイスしたお店は、雑誌に掲載された人気のカフェだった。
すごく頑張って調べたんだろうな、とじんわりと胸が熱くなる。
自分が男性にここまで大事にされたり、優しくされるのは前の人生では皆無だった。
みんな顔と身体だけ目当てで寄ってきた。
それは自分が安売りしていたのもある。
今は違う。
谷萩先輩が私のために頑張って振る舞っている姿を見て少しいいなと思うが、やはり決定的に「セックスをしたい」という衝動には駆られないのだった。
キスまでは出来ても、その先には進めない。
濡れないのだ。
キスをしても乳首を吸われても一切濡れないだろう、というのが手に取るように分かる。
私の性感帯が乳首にあるので、好きではないが少しセックスしたいなと思える相手であればすぐに濡れる。
「こんな素敵な店……ありがとうございます。私も前から気になっていて、行きたいなって思ってたんです」
男の歓心を買うためにベラベラと言葉を並べる。
私の悪い癖だが、彼の努力を無駄にしたくない。
「良かった……。苦手だったらどうしようと思ってたので」
「そんなことないです。ここのサンドイッチ、すごく評判ですよね。それを頼んでもいいですか?」
ここのカフェの売りは焼きサンドイッチなのだが、さすが東京。値段が高いのである。
「勿論。好きなのを頼んでください」
「ありがとうございます!」
オーダーをした後に、それとなく熊野先生のことを話題に出した。
「それにしてもさっきのデリカシーなかったですね、熊野先生」
「はは、いつもあんな感じですよ。生徒をいじるのが好きなようです」
愛があるからいいんですけどね、と谷萩先輩が呟いた。
「あの余裕はどこから来るんでしょうか」
私が訊ねると、谷萩先輩は「さあ、稼いでるからでしょうか」と言った。
「奥さんとかはいないんですか?」
「あーいるとは聞いていたんですけど、そこまで詳しくはないですね」
――いるんだ。
でも結婚指輪はしてないですよね、と私は少し微笑む。
気持ちを悟られてはいけない。
こちらも余裕のある笑みを浮かべなければ、と少し頑張った。
「邪魔だから、とつけてないみたいですよ。奥さんの方はつけてほしいらしいですけど」
「そうなんですね。だからか、女性の誘いに一切乗らないっていうのは。納得です」
「単にめんどくさいだけだと思いますよ。女性よりフィールドワークとか研究の方が好きなだけだと思います」
――ああ、そこもまた魅力的だわ。
悔しいが、そういう素っ気なさがすごく魅力的で仕方ない。
振り向いてもらえないもどかしさが恋慕になるのだろうか。
万が一過ちが起きてしまったら、私の方がかなりのめり込むことは必定だ。
「好きですか?」
「え?」
ばれた? とハッと我に返る。
「何がですか?」
と、誤魔化したがどうだろう。
「いや、このミックスジュースです。確か関西から来られたんですよね?」
いつの間にか私の目の前にミックスジュースが来ていた。
「ああ、大阪の方で……」
「なんか有名みたいですね。今度大阪に行ったら喫茶店に入ってミックスジュースを頼んでみようかと思います」
「そういえば谷萩先輩はどこなんですか?」
「僕は北海道なんです。実家は北大行けって言われてたんですけど、どうしても東京に来たくて」
そうなんですね、と私はミックスジュースに手を伸ばして飲む。
申し訳ないが、どうでもいいのだ。
ここまで無関心でいられるのも逆に感心するが、谷萩先輩はやはり魅力を感じない相手なのだと分かった。
それにしても熊野先生に妻がいるとはね、とかなりガッカリする。
子供はいるんだろうか、夫婦生活は上手くいっているのだろうか、とやきもきし始めて、谷萩先輩の話は殆ど耳に入ってこなかった。
適当に相槌を打っては、サンドイッチを頬張るだけのランチだった。
――それでも……熊野先生と話をしたい。
結局悶々した挙げ句の結論がこれだった。
恋愛はともかく、ただ純粋に先生と話をしたい。
それに尽きる。
……まあ、いいか。
セックスが目的ではない。
くっつくのが目的ではないのだから、と自分に言い聞かせる。
すごく頑張って調べたんだろうな、とじんわりと胸が熱くなる。
自分が男性にここまで大事にされたり、優しくされるのは前の人生では皆無だった。
みんな顔と身体だけ目当てで寄ってきた。
それは自分が安売りしていたのもある。
今は違う。
谷萩先輩が私のために頑張って振る舞っている姿を見て少しいいなと思うが、やはり決定的に「セックスをしたい」という衝動には駆られないのだった。
キスまでは出来ても、その先には進めない。
濡れないのだ。
キスをしても乳首を吸われても一切濡れないだろう、というのが手に取るように分かる。
私の性感帯が乳首にあるので、好きではないが少しセックスしたいなと思える相手であればすぐに濡れる。
「こんな素敵な店……ありがとうございます。私も前から気になっていて、行きたいなって思ってたんです」
男の歓心を買うためにベラベラと言葉を並べる。
私の悪い癖だが、彼の努力を無駄にしたくない。
「良かった……。苦手だったらどうしようと思ってたので」
「そんなことないです。ここのサンドイッチ、すごく評判ですよね。それを頼んでもいいですか?」
ここのカフェの売りは焼きサンドイッチなのだが、さすが東京。値段が高いのである。
「勿論。好きなのを頼んでください」
「ありがとうございます!」
オーダーをした後に、それとなく熊野先生のことを話題に出した。
「それにしてもさっきのデリカシーなかったですね、熊野先生」
「はは、いつもあんな感じですよ。生徒をいじるのが好きなようです」
愛があるからいいんですけどね、と谷萩先輩が呟いた。
「あの余裕はどこから来るんでしょうか」
私が訊ねると、谷萩先輩は「さあ、稼いでるからでしょうか」と言った。
「奥さんとかはいないんですか?」
「あーいるとは聞いていたんですけど、そこまで詳しくはないですね」
――いるんだ。
でも結婚指輪はしてないですよね、と私は少し微笑む。
気持ちを悟られてはいけない。
こちらも余裕のある笑みを浮かべなければ、と少し頑張った。
「邪魔だから、とつけてないみたいですよ。奥さんの方はつけてほしいらしいですけど」
「そうなんですね。だからか、女性の誘いに一切乗らないっていうのは。納得です」
「単にめんどくさいだけだと思いますよ。女性よりフィールドワークとか研究の方が好きなだけだと思います」
――ああ、そこもまた魅力的だわ。
悔しいが、そういう素っ気なさがすごく魅力的で仕方ない。
振り向いてもらえないもどかしさが恋慕になるのだろうか。
万が一過ちが起きてしまったら、私の方がかなりのめり込むことは必定だ。
「好きですか?」
「え?」
ばれた? とハッと我に返る。
「何がですか?」
と、誤魔化したがどうだろう。
「いや、このミックスジュースです。確か関西から来られたんですよね?」
いつの間にか私の目の前にミックスジュースが来ていた。
「ああ、大阪の方で……」
「なんか有名みたいですね。今度大阪に行ったら喫茶店に入ってミックスジュースを頼んでみようかと思います」
「そういえば谷萩先輩はどこなんですか?」
「僕は北海道なんです。実家は北大行けって言われてたんですけど、どうしても東京に来たくて」
そうなんですね、と私はミックスジュースに手を伸ばして飲む。
申し訳ないが、どうでもいいのだ。
ここまで無関心でいられるのも逆に感心するが、谷萩先輩はやはり魅力を感じない相手なのだと分かった。
それにしても熊野先生に妻がいるとはね、とかなりガッカリする。
子供はいるんだろうか、夫婦生活は上手くいっているのだろうか、とやきもきし始めて、谷萩先輩の話は殆ど耳に入ってこなかった。
適当に相槌を打っては、サンドイッチを頬張るだけのランチだった。
――それでも……熊野先生と話をしたい。
結局悶々した挙げ句の結論がこれだった。
恋愛はともかく、ただ純粋に先生と話をしたい。
それに尽きる。
……まあ、いいか。
セックスが目的ではない。
くっつくのが目的ではないのだから、と自分に言い聞かせる。
10
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
初恋と花蜜マゼンダ
麻田
BL
僕には、何よりも大切で、大好きな彼がいた。
お互いを運命の番だと、出会った時から思っていた。
それなのに、なんで、彼がこんなにも遠くにいるんだろう。
もう、彼の瞳は、僕を映さない。
彼の微笑みは、見ることができない。
それでも、僕は、卑しくも、まだ彼を求めていた。
結ばれない糸なのに、僕はずっと、その片方を握りしめたまま、動き出せずにいた。
あの、美しいつつじでの誓いを、忘れられずにいた。
甘い花蜜をつけた、誓いのキスを、忘れられずにいた。
◇◇◇
傍若無人の生粋のアルファである生徒会長と、「氷の花」と影で呼ばれている表情の乏しい未完全なオメガの話。
オメガバース独自解釈が入ります。固定攻め以外との絡みもあります。なんでも大丈夫な方、ぜひお楽しみいただければ幸いです。
九条 聖(くじょう・ひじり)
西園寺 咲弥(さいおんじ・さくや)
夢木 美久(ゆめぎ・みく)
北条 柊(ほうじょう・しゅう)
◇◇◇
ご感想やいいね、ブックマークなど、ありがとうございます。大変励みになります。
聖なる二人のトリステス ~月明りの夜、君と~
榊原 梦子
ファンタジー
メルバーンの国で、魔法使いの家系に生まれた少女・シュザンヌ。彼女には、生まれつき、「トリステス」という魔法使いにのみ現れる短命の呪いがあった。17歳になった彼女は、22歳のハンスと、婚約するが、シュザンヌはそう長くは生きられないことは分かっていた。
そこで、シュザンヌとハンス、そしてシュザンヌの従兄でエリート魔法使いのクロード、ノエリア(シュザンヌの親友)、そしてカルロスというエルフと一緒に、一行はトリステスを治すための旅に出る。
やがて、一行は、作戦通り、「シュザンヌとクロードとノエリア」組と、「カルロスとハンス」組に分かれ、のちに旅の最後で合流する。
途中、実は禁術から生み出されたトリステスの力を利用しようとする、冥王ハデスの使い・メフィストフェレスなどがやってきたり、刺客の悪魔と戦ったりする。ユニコーンや、ドラゴンの力も借りる。
最後、クロードはエルフのカルロスから王笏座の加護を得、死霊の国で、メフィストフェレスと一騎打ちし、倒す。
最終的に、シュザンヌはエルフの血をわずかながらひいていたことが判明し、エルフ化によって、トリステスを良性のトリステスにしてもらい、彼女とハンスは、エルフとなってイブハールの国で永遠に結ばれる。
二人の幸せを見届け、クロードたちはイブハールを去る。
(「アデュー・トリステス」で語られる)
ゾンビパウダー
ろぶすた
ファンタジー
【第一部】
研究員である東雲は死別により参ってしまった人達の精神的な療養のために常世から幽世に一時的に臨死体験を行える新薬【ゾンビパウダー】の開発を行なった。
東雲達は幽世の世界を旅するがさまざまな問題に直面していく。
神々の思惑が蠢くこの世界、東雲達はどう切り抜けていくのか。
【第二部】
東雲が考えていた本来のその目的とは別の目的で【ゾンビパウダー】は利用され始め、常世と幽世の双方の思惑が動き出し、神々の陰謀に巻き込まれていく…。
※一部のみカクヨムにも投稿
なにがなにやら?
きりか
BL
オメガバースで、絶対的存在は、アルファでなく、オメガだと俺は思うんだ。
それにひきかえ俺は、ベータのなかでも、モブのなかのキングモブ!名前も鈴木次郎って、モブ感満載さ!
ところでオメガのなかでも、スーパーオメガな蜜貴様がなぜに俺の前に?
な、なにがなにやら?
誰か!教えてくれっ?
魔王様とスローライフ
二ノ宮明季
ファンタジー
魔王城を勇者に明け渡した魔王のサイラス(胃腸が丈夫)とドラゴンのレイラ(擬人化)は、山の中でスローライフを送っている。
世界には瘴気が蔓延り、食糧難が続いている中で、魔王たちは美味しく食事をする方法――すなわち、燻製と発酵を編み出し、食事を楽しむ。
その食事は、よく遊びに来る、転生者の勇者ランドルフにとっては、懐かしい日本で食べたことのある味ばかりだった!
魔物を狩って燻製をするスローライフと、料理に対する勇者のグルメ漫画ばりの食レポのコメディ(?)小説です。
(※魔物を狩るシーンや、肉をさばくシーンがあるため、念のためR15を設定しています)
小説家になろうにも同様の作品を掲載しております。
表紙は私、二ノ宮明季が描いております。
さみだれの初恋が晴れるまで
める太
BL
出会う前に戻りたい。出会わなければ、こんな苦しさも切なさも味わうことはなかった。恋なんて、知らずにいられたのに。
幼馴染を庇護する美貌のアルファ×ベータ体質の健気なオメガ
浅葱伊織はオメガだが、生まれつきフェロモンが弱い体質である。そのお陰で、伊織は限りなくベータに近い生活を送ることができている。しかし、高校二年生の春、早月環という美貌の同級生と出会う。環は伊織がオメガであると初めて"嗅ぎ分けた"アルファであった。
伊織はいつしか環に恋心を寄せるようになるが、環には可憐なオメガの幼馴染がいた。幾度も傷付きながらも、伊織は想いを諦めきることができないまま、長雨のような恋をしている。
互いに惹かれ合いつつもすれ違う二人が、結ばれるまでのお話。
4/20 後日談として「さみだれの初恋が晴れるまで-AFTER-」を投稿しました
※一言でも感想等頂ければ嬉しいです、励みになります
※タイトル表記にて、R-15表現は「*」R-18表現は「※」
※オメガバースには独自解釈による設定あり
※高校生編、大学生編、社会人編の三部構成になります
※表紙はオンライン画像出力サービス「同人誌表紙メーカー」https://dojin-support.net/ で作成しております
※別サイトでも連載中の作品になります
魔法の盟約~深愛なるつがいに愛されて~
南方まいこ
BL
西の大陸は魔法使いだけが住むことを許された魔法大陸であり、王国ベルヴィルを中心とした五属性によって成り立っていた。
風魔法の使い手であるイリラノス家では、男でも子が宿せる受巣(じゅそう)持ちが稀に生まれることがあり、その場合、王家との長きに渡る盟約で国王陛下の側妻として王宮入りが義務付けられていた。
ただ、子が生める体とはいえ、滅多に受胎すことはなく、歴代の祖先の中でも片手で数える程度しか記録が無かった。
しかも、受巣持ちは体内に魔力が封印されており、子を生まない限り魔法を唱えても発動せず、当人にしてみれば厄介な物だった。
数百年ぶりに生まれた受巣持ちのリュシアは、陛下への贈り物として大切に育てられ、ようやく側妻として宮入りをする時がやって来たが、宮入前に王妃の専属侍女に『懐妊』、つまり妊娠することだけは避けて欲しいと念を押されてしまう。
元々、滅多なことがない限り妊娠は難しいと聞かされているだけに、リュシアも大丈夫だと安心していた。けれど――。
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる