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5.高校時代
7.それでも私は向き合わないといけない
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誰だって辛い過去や現実と向き合うのは怖い。
だけど向き合う事から逃げたら、何のための人生のリセットなんだろうか。
私は真摯に考えて、前の人生の自分と向き合うことに決めた。
恐れるな。
――賢太くんに彼女が出来たって、賢太くんと私は友達のままでいられるのだから。
友達を続けられなくなったとしても、それは賢太くんの裏切りではない。
まずはそこをしっかりと私の頭に叩き込む必要があった。
賢太くんには賢太くんの人生があって、賢太くんの時間を過ごしてきたのだから。
すべて私のものだと思い込むからいけないのだ。
同時に私の人生は私のモノ。誰にも干渉されない、私だけのもの。
それを親は勘違いをして、干渉してくるのだ。
「やっぱり、東大に行く!」
私は決めた。
前から東大に行くと決めていたけれど、強い決意はまだ固まっていなかった。
今回の人生を生き直して、16年も経ったからこそ初心に返る必要がある。
期末テストが終わったあとの二者面談で私はそう言い放ったのだ。
担任の教師が「おお!」と嬉しそうに感嘆の声をあげた。
「会田さんなら絶対行ける。文一も大丈夫だろう」
「いえ、私は社会学行きたいので文三志望です」
「ほう、文学部か」
前の人生で結構興味があったのだ、社会学に。
人と集団に興味があり、出来るなら大学に入り直して勉強がしたかった。
けれどいつの間にか三十代後半にもなり、気力もすり減ってしまって勉強どころではなかった。
「そういえば会田さんのご親戚に大蔵省にお勤めの方いなかったかな?」
「……ええ、そうですけど」
「ああ、やっぱり。彼もここの卒業生でね」
担任の教師はもう還暦近くのベテラン教師であり、ここで長く勤めている。
「彼は常に首席でね。いつも胸を張って歩いている姿を見かけたよ。東大にも首席で入学し、卒業した。さらに国家公務員試験でも一位で合格。大したもんだよ」
――父の従兄弟の兄の方か。
「もし会うことがあったらよろしく伝えておいてね」
「はい、分かりました」
教室を出ると、そこには百合子ちゃんが待っていた。
「百合子ちゃん。帰ってていいよって言ったのに」
「いいじゃん。一人で帰りたくなかったもん」
私の腕に手を伸ばしてきて、組む。
「どうだった? 卒業したらどこへ行くの?」
「東大受験しようと思う」
「そっか。やっぱり変わらないんだね。じゃあ私も東京行こうっと」
「東大に?」
「ううん、けーおー」
わざと語尾を延ばして言った百合子ちゃん。
「本当はどこへ行こうとしてたの?」
「んっ? うーん、関西の大学?」
そうなのか。前の人生ではどこの大学に行っていたんだろうか。
「一緒に東京へ行こう。東京で遊ぶんだ~!」
私がやや浮かれ気味に言ったので、百合子ちゃんが少し目を丸くする。
「うん! そうだそうだ!」
百合子ちゃんと二人で表参道のカフェで優雅にコーヒーを飲むのもいい。
銀ブラしてもいいし、上野に行って美術鑑賞してもいい。
楽しいことばかり待っている。
母親から離れて自由を得るのだ。
――終わってなどいなかったのだ、私は。
---------------------------------
そう思えるまでに少し時間がかかったが、なんとか一人でも過ごせるようになった。
賢太くんとはあれから会っていないし、連絡も取っていない。
向こうは何を考えているのかは知りたかったが、それは本人から聞くまでは推測でしかない。
などと考えながら帰り道を歩いていると、偶然にも賢太くんにバッタリと出会った。
一人だった。
「――あ」
賢太くんが気まずそうに私を見つめる。
「偶然だね」
私が声を掛けると、賢太くんの顔が少し和らいだ。
「いや……、今日こそは、と思って待ってたんだ」
「そうなの?」
「うん、ごめん」
「なんで謝るの?」
「前のことも……連絡しなかったことも」
しっかりと賢太くんの話を聞いてあげなきゃ、と私は逃げたいのを我慢する。
正直、怖い。
彼女が出来たからもう会わない、とか言われそうだから。
それはそれで、やっぱり傷つく自分がいることを安易に想像出来たから。
「あの……さ」
賢太くんが意を決して口を開く。
だけど向き合う事から逃げたら、何のための人生のリセットなんだろうか。
私は真摯に考えて、前の人生の自分と向き合うことに決めた。
恐れるな。
――賢太くんに彼女が出来たって、賢太くんと私は友達のままでいられるのだから。
友達を続けられなくなったとしても、それは賢太くんの裏切りではない。
まずはそこをしっかりと私の頭に叩き込む必要があった。
賢太くんには賢太くんの人生があって、賢太くんの時間を過ごしてきたのだから。
すべて私のものだと思い込むからいけないのだ。
同時に私の人生は私のモノ。誰にも干渉されない、私だけのもの。
それを親は勘違いをして、干渉してくるのだ。
「やっぱり、東大に行く!」
私は決めた。
前から東大に行くと決めていたけれど、強い決意はまだ固まっていなかった。
今回の人生を生き直して、16年も経ったからこそ初心に返る必要がある。
期末テストが終わったあとの二者面談で私はそう言い放ったのだ。
担任の教師が「おお!」と嬉しそうに感嘆の声をあげた。
「会田さんなら絶対行ける。文一も大丈夫だろう」
「いえ、私は社会学行きたいので文三志望です」
「ほう、文学部か」
前の人生で結構興味があったのだ、社会学に。
人と集団に興味があり、出来るなら大学に入り直して勉強がしたかった。
けれどいつの間にか三十代後半にもなり、気力もすり減ってしまって勉強どころではなかった。
「そういえば会田さんのご親戚に大蔵省にお勤めの方いなかったかな?」
「……ええ、そうですけど」
「ああ、やっぱり。彼もここの卒業生でね」
担任の教師はもう還暦近くのベテラン教師であり、ここで長く勤めている。
「彼は常に首席でね。いつも胸を張って歩いている姿を見かけたよ。東大にも首席で入学し、卒業した。さらに国家公務員試験でも一位で合格。大したもんだよ」
――父の従兄弟の兄の方か。
「もし会うことがあったらよろしく伝えておいてね」
「はい、分かりました」
教室を出ると、そこには百合子ちゃんが待っていた。
「百合子ちゃん。帰ってていいよって言ったのに」
「いいじゃん。一人で帰りたくなかったもん」
私の腕に手を伸ばしてきて、組む。
「どうだった? 卒業したらどこへ行くの?」
「東大受験しようと思う」
「そっか。やっぱり変わらないんだね。じゃあ私も東京行こうっと」
「東大に?」
「ううん、けーおー」
わざと語尾を延ばして言った百合子ちゃん。
「本当はどこへ行こうとしてたの?」
「んっ? うーん、関西の大学?」
そうなのか。前の人生ではどこの大学に行っていたんだろうか。
「一緒に東京へ行こう。東京で遊ぶんだ~!」
私がやや浮かれ気味に言ったので、百合子ちゃんが少し目を丸くする。
「うん! そうだそうだ!」
百合子ちゃんと二人で表参道のカフェで優雅にコーヒーを飲むのもいい。
銀ブラしてもいいし、上野に行って美術鑑賞してもいい。
楽しいことばかり待っている。
母親から離れて自由を得るのだ。
――終わってなどいなかったのだ、私は。
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そう思えるまでに少し時間がかかったが、なんとか一人でも過ごせるようになった。
賢太くんとはあれから会っていないし、連絡も取っていない。
向こうは何を考えているのかは知りたかったが、それは本人から聞くまでは推測でしかない。
などと考えながら帰り道を歩いていると、偶然にも賢太くんにバッタリと出会った。
一人だった。
「――あ」
賢太くんが気まずそうに私を見つめる。
「偶然だね」
私が声を掛けると、賢太くんの顔が少し和らいだ。
「いや……、今日こそは、と思って待ってたんだ」
「そうなの?」
「うん、ごめん」
「なんで謝るの?」
「前のことも……連絡しなかったことも」
しっかりと賢太くんの話を聞いてあげなきゃ、と私は逃げたいのを我慢する。
正直、怖い。
彼女が出来たからもう会わない、とか言われそうだから。
それはそれで、やっぱり傷つく自分がいることを安易に想像出来たから。
「あの……さ」
賢太くんが意を決して口を開く。
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