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5.高校時代
6.闇
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ここはどこだろう。
ああ、思い出した。前の人生の時に入った公立高校だ。
辛うじて受かった高校――だけど、最悪だった。
私は廊下を歩いている。
そう、彼氏が待つ教室へと向かっている。
妙に静かだった。何となく嫌な予感がしたが、それを払って前へ突き進む。
――なあ、会田と付き合ってんの?
誰だろう、私のことを話しているのは。
でもそこは彼氏が待つ教室……。私はそっと近づいて、ほんのわずかに開いていた教室の窓に目を近づけた。
そこには彼氏とクラスメイトの男子二人がいる。
――会田は可愛いけど、ビッチだって噂じゃん。
――それオレも聞いた。なんか前の中学でヤリまくってたらしーじゃん。
クラスメイトの二人が私の噂を聞きつけて、彼氏に尋ねているようだ。
『付き合ってるけど、それはオレが童貞捨てるためだから』
えっ、と私は声を漏らしそうになるのを慌てて手で口を塞ぐ。
『向こうがリードしてくれるっしょ』
彼氏の信じられない発言に、クラスメイトたちは嗤った。
だが、事実だった。
中学の頃はやんちゃな少年少女たちとつるみ、その中でもカッコいい男の子とセックスをした。
初体験を済ませたのは十四歳――。
男なんて裏切るもの。
そのカッコいい男の子だって、彼氏と思っていたら遊んであげただけだよ、と嗤うし、その男の子は私の友達にも手を出していた。
だから――信じちゃダメ。
こちらから利用してやるの。
だって、実の父親ですら、裏切るのだから。
――ああ、そうか。私が男狂いになったのはこの頃からだったか。
もちろん、その彼氏ともセックスをした。童貞を奪ってやった、という上からの目線だったが、実際は利用されていただけにすぎないだろう。
単に利害が一致しただけのこと。
私に近づいてくる男はすべて下心があった。
だが今思えば、まともな男は私なんぞを相手にするわけがなかったのだ――。
だって異様なオーラを放っていただろうし、うかつに近づいてはいけないというシグナルを発信してたのだろうと気付く。
--------------------------
「宣子」
百合子ちゃんに肩を掴まれて揺さぶられた時に我に返った。
「大丈夫? 真っ青だよ」
「ん……大丈夫」
「私もきついこと言ってごめん。帰ろう? 私の車で家まで送っていってあげるから」
「うん……」
目頭がとても熱い。
頬には熱いものが伝っていく。
言葉にならない感情の高ぶりが、顔を熱くさせた。
百合子ちゃんはただ何も言わずに私の背中をさすり続けてくれた。
止め処なく溢れ出てくる闇の過去に、私は押し潰されそうだった。
――私は、何にもしていない。
単に誤魔化し続けていただけにすぎない。
けれど、今、向き合うには非力だった。
-------------------------
しかし、どうして今になって過去が一気にぶり返してきたのか……。
私は思案に耽る。
きっかけは、賢太くんで間違いない。
でもなぜ賢太くんなのか。
好きという気持ちは気付いたが、だからといって過去に直接関係があるわけでもない。
それに、賢太くんとは付き合ってもいない。キスはしたけれど。
別に賢太くんを縛ろうとも、コントロールしようとも思っていない。
ではなぜ?
過去の共通点といえば……裏切り。
賢太くんに対して、私は裏切りを感じたのか?
「どうして……?」
考えられることは一つ。
賢太くんの私への愛を絶対的なものとして捉えていたのではないだろうか。
だから、賢太くんが少しでもよそを向くとたちまち裏切り者に早変わりしてしまうのではないか――。
愛とは流動的なものである。
形を少しずつ変えていきながら、そこにあるのである。
パーンと弾ける愛もあるだろうが、なかなかそこまではならない。それは人間関係が構築される以前の問題であり、人間同士の付き合いが出来てないからだ。
最初から男と女の付き合いなら、泡のように弾けるのは必至であろう。
でも、私と賢太くんは人間同士の付き合いが長いし、そこに信頼関係もある。
それなのに、安易に賢太くんを裏切り者だと怒ったのか?
それは、他ならぬ私の闇に潜む怪物であろう――。
ああ、思い出した。前の人生の時に入った公立高校だ。
辛うじて受かった高校――だけど、最悪だった。
私は廊下を歩いている。
そう、彼氏が待つ教室へと向かっている。
妙に静かだった。何となく嫌な予感がしたが、それを払って前へ突き進む。
――なあ、会田と付き合ってんの?
誰だろう、私のことを話しているのは。
でもそこは彼氏が待つ教室……。私はそっと近づいて、ほんのわずかに開いていた教室の窓に目を近づけた。
そこには彼氏とクラスメイトの男子二人がいる。
――会田は可愛いけど、ビッチだって噂じゃん。
――それオレも聞いた。なんか前の中学でヤリまくってたらしーじゃん。
クラスメイトの二人が私の噂を聞きつけて、彼氏に尋ねているようだ。
『付き合ってるけど、それはオレが童貞捨てるためだから』
えっ、と私は声を漏らしそうになるのを慌てて手で口を塞ぐ。
『向こうがリードしてくれるっしょ』
彼氏の信じられない発言に、クラスメイトたちは嗤った。
だが、事実だった。
中学の頃はやんちゃな少年少女たちとつるみ、その中でもカッコいい男の子とセックスをした。
初体験を済ませたのは十四歳――。
男なんて裏切るもの。
そのカッコいい男の子だって、彼氏と思っていたら遊んであげただけだよ、と嗤うし、その男の子は私の友達にも手を出していた。
だから――信じちゃダメ。
こちらから利用してやるの。
だって、実の父親ですら、裏切るのだから。
――ああ、そうか。私が男狂いになったのはこの頃からだったか。
もちろん、その彼氏ともセックスをした。童貞を奪ってやった、という上からの目線だったが、実際は利用されていただけにすぎないだろう。
単に利害が一致しただけのこと。
私に近づいてくる男はすべて下心があった。
だが今思えば、まともな男は私なんぞを相手にするわけがなかったのだ――。
だって異様なオーラを放っていただろうし、うかつに近づいてはいけないというシグナルを発信してたのだろうと気付く。
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「宣子」
百合子ちゃんに肩を掴まれて揺さぶられた時に我に返った。
「大丈夫? 真っ青だよ」
「ん……大丈夫」
「私もきついこと言ってごめん。帰ろう? 私の車で家まで送っていってあげるから」
「うん……」
目頭がとても熱い。
頬には熱いものが伝っていく。
言葉にならない感情の高ぶりが、顔を熱くさせた。
百合子ちゃんはただ何も言わずに私の背中をさすり続けてくれた。
止め処なく溢れ出てくる闇の過去に、私は押し潰されそうだった。
――私は、何にもしていない。
単に誤魔化し続けていただけにすぎない。
けれど、今、向き合うには非力だった。
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しかし、どうして今になって過去が一気にぶり返してきたのか……。
私は思案に耽る。
きっかけは、賢太くんで間違いない。
でもなぜ賢太くんなのか。
好きという気持ちは気付いたが、だからといって過去に直接関係があるわけでもない。
それに、賢太くんとは付き合ってもいない。キスはしたけれど。
別に賢太くんを縛ろうとも、コントロールしようとも思っていない。
ではなぜ?
過去の共通点といえば……裏切り。
賢太くんに対して、私は裏切りを感じたのか?
「どうして……?」
考えられることは一つ。
賢太くんの私への愛を絶対的なものとして捉えていたのではないだろうか。
だから、賢太くんが少しでもよそを向くとたちまち裏切り者に早変わりしてしまうのではないか――。
愛とは流動的なものである。
形を少しずつ変えていきながら、そこにあるのである。
パーンと弾ける愛もあるだろうが、なかなかそこまではならない。それは人間関係が構築される以前の問題であり、人間同士の付き合いが出来てないからだ。
最初から男と女の付き合いなら、泡のように弾けるのは必至であろう。
でも、私と賢太くんは人間同士の付き合いが長いし、そこに信頼関係もある。
それなのに、安易に賢太くんを裏切り者だと怒ったのか?
それは、他ならぬ私の闇に潜む怪物であろう――。
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