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5.高校時代
5.賢太くんの不穏な動き
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本当に偶然だった。
家の最寄り駅で賢太くんを見かけたのはいいが、彼の隣にいる人物を見てハッとさせられる。
――あれは誰だろう……?
賢太くんの学校は男子校なので他校生に違いないが、本当に非常に珍しく女の子が隣にいるのだ。
しかもとびっきりの可愛さ。
芸能人並み。
「はああ……可愛い……」
などと感心している場合ではなかった。
可愛いのはいいが、賢太くんは決して他の女子と仲良くするところを見せなかった。
なのに今になって――。
――はっ、いかんいかん。傲慢だ、私。
しかし、相当仲よさそうな雰囲気なので、声を掛けづらい。
賢太くんの腕にその可愛い子が組んでいるのだ。
そして賢太くんをうるうるとした瞳で見上げている。あれは恋をしている乙女の顔だ。
なんか、ちょっと……複雑だった。
だが、ここで踏ん張る。
――いや、私は賢太くんの彼女でもなんでもないし、賢太くんのことを縛る権利もない。
でも。
なあ……賢太くんは女の子になりたいだろうに……。
幼稚園で、賢太くんは毎回お母さん役をやりたがったのだ。
そして私はお父さん役か子供役。
慈しむようにして振る舞った賢太くんは、女の子になりたがっていたのではないかと推測したのだ。
一回ならまだしも、毎回である。
どういうつもりなんだろう。
あの女の子と仲良くすることによって、賢太くんは何のメリットがあるのだろうか。
この思考に至ること自体が邪なのだろうか。
しかし、賢太くんたちがいる道を通らねば家に帰れない。
素知らぬ顔をして通り過ぎようとしたが、ばれた。
「あっ」
賢太くんが私を見るなりぎくりとした表情をしたではないか。
何やら気まずそうな、ばつが悪そうな微妙な態度である。
「お知り合い?」
美少女が賢太くんの腕をしっかりと組みつつ、鈴を転がしたような声で訊く。
「ただの友達だよ」
――ただの友達だよ、かあ……。
あの女の子に誤解されたくないのかな。
「そう、ただの友達だよ。小学校が同じだっただけで。顔見知り程度! じゃあね」
なぜか腸が煮えくりかえる。
きつい口調だっただろうか。
そのままズカズカと逃げるようにして歩いていった。
――何よ何よ何よッ!
ぞっこんだったくせに。
そういうワガママな思考のせいで私は気分が悪かった。
このことを百合子ちゃんには話したくなかった。
自分のプライドが許さなかったからだ。
その夜、賢太くんからの電話は――なかった。
言い訳でもしてくるだろうと高をくくっていた私は、随分ショックを受けていた。
翌日も気分が晴れなかった。
ずーっとモヤモヤのまま一日が過ぎていく。
百合子ちゃんに機嫌悪いね、と言われても、別に機嫌悪くないよ、と取り繕ったけれど、絶対ばれていたと思う。
あえて追及してこない百合子ちゃんの優しさに甘えてしまう。
遠野くんから声をかけられても、気乗りしなかった。
あのときめきはどこへやら。
そのうち気分が晴れるだろう、忘れるだろう、と思っていたのに――。
--------------------
「アンタ、いい加減にしなよ」
とうとう百合子ちゃんがキレた。
一緒にいても楽しくないだろう。
「ごめん……まさか、ここまでとは思わなくて」
「何? どうしたのよ」
「ごめんね。まだ言いたくないんだ……私のみっともないプライドが邪魔するんだ……」
「はあ……。アンタはプライド高いもんね、エベレスト山並みに」
ばれていたのかな。
それとも私だけが気付いてなかったのかな。
「何があったのかは知らないけど、アンタは心を閉じすぎ。壁を作りすぎ」
一体、何から守ってるの?
百合子ちゃんの疑問に、私はゆっくりと顔を上げた。
「自分が傷つきたくない」
そう答えると、百合子ちゃんは「それはみんな一緒だよ」と言う。
「でも、アンタの場合は違う。傷つきたくないのはそうだけど――ものすごく、怯えている……」
アンタの目の奥に、いつも恐怖が見えてるの、と百合子ちゃんが鋭い言葉を放った。
「何をされた?」
百合子ちゃんの問いかけで急激に私は過去に引き戻されていく。
家の最寄り駅で賢太くんを見かけたのはいいが、彼の隣にいる人物を見てハッとさせられる。
――あれは誰だろう……?
賢太くんの学校は男子校なので他校生に違いないが、本当に非常に珍しく女の子が隣にいるのだ。
しかもとびっきりの可愛さ。
芸能人並み。
「はああ……可愛い……」
などと感心している場合ではなかった。
可愛いのはいいが、賢太くんは決して他の女子と仲良くするところを見せなかった。
なのに今になって――。
――はっ、いかんいかん。傲慢だ、私。
しかし、相当仲よさそうな雰囲気なので、声を掛けづらい。
賢太くんの腕にその可愛い子が組んでいるのだ。
そして賢太くんをうるうるとした瞳で見上げている。あれは恋をしている乙女の顔だ。
なんか、ちょっと……複雑だった。
だが、ここで踏ん張る。
――いや、私は賢太くんの彼女でもなんでもないし、賢太くんのことを縛る権利もない。
でも。
なあ……賢太くんは女の子になりたいだろうに……。
幼稚園で、賢太くんは毎回お母さん役をやりたがったのだ。
そして私はお父さん役か子供役。
慈しむようにして振る舞った賢太くんは、女の子になりたがっていたのではないかと推測したのだ。
一回ならまだしも、毎回である。
どういうつもりなんだろう。
あの女の子と仲良くすることによって、賢太くんは何のメリットがあるのだろうか。
この思考に至ること自体が邪なのだろうか。
しかし、賢太くんたちがいる道を通らねば家に帰れない。
素知らぬ顔をして通り過ぎようとしたが、ばれた。
「あっ」
賢太くんが私を見るなりぎくりとした表情をしたではないか。
何やら気まずそうな、ばつが悪そうな微妙な態度である。
「お知り合い?」
美少女が賢太くんの腕をしっかりと組みつつ、鈴を転がしたような声で訊く。
「ただの友達だよ」
――ただの友達だよ、かあ……。
あの女の子に誤解されたくないのかな。
「そう、ただの友達だよ。小学校が同じだっただけで。顔見知り程度! じゃあね」
なぜか腸が煮えくりかえる。
きつい口調だっただろうか。
そのままズカズカと逃げるようにして歩いていった。
――何よ何よ何よッ!
ぞっこんだったくせに。
そういうワガママな思考のせいで私は気分が悪かった。
このことを百合子ちゃんには話したくなかった。
自分のプライドが許さなかったからだ。
その夜、賢太くんからの電話は――なかった。
言い訳でもしてくるだろうと高をくくっていた私は、随分ショックを受けていた。
翌日も気分が晴れなかった。
ずーっとモヤモヤのまま一日が過ぎていく。
百合子ちゃんに機嫌悪いね、と言われても、別に機嫌悪くないよ、と取り繕ったけれど、絶対ばれていたと思う。
あえて追及してこない百合子ちゃんの優しさに甘えてしまう。
遠野くんから声をかけられても、気乗りしなかった。
あのときめきはどこへやら。
そのうち気分が晴れるだろう、忘れるだろう、と思っていたのに――。
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「アンタ、いい加減にしなよ」
とうとう百合子ちゃんがキレた。
一緒にいても楽しくないだろう。
「ごめん……まさか、ここまでとは思わなくて」
「何? どうしたのよ」
「ごめんね。まだ言いたくないんだ……私のみっともないプライドが邪魔するんだ……」
「はあ……。アンタはプライド高いもんね、エベレスト山並みに」
ばれていたのかな。
それとも私だけが気付いてなかったのかな。
「何があったのかは知らないけど、アンタは心を閉じすぎ。壁を作りすぎ」
一体、何から守ってるの?
百合子ちゃんの疑問に、私はゆっくりと顔を上げた。
「自分が傷つきたくない」
そう答えると、百合子ちゃんは「それはみんな一緒だよ」と言う。
「でも、アンタの場合は違う。傷つきたくないのはそうだけど――ものすごく、怯えている……」
アンタの目の奥に、いつも恐怖が見えてるの、と百合子ちゃんが鋭い言葉を放った。
「何をされた?」
百合子ちゃんの問いかけで急激に私は過去に引き戻されていく。
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