7 / 8
6話 あの……俺が寝てるときとかじゃダメだったんですか?お前は少しも夢を見ぬ質であーる
しおりを挟む
俺は、おリズから二振りの風変わりな鎌を受け取りつつ、それを抱えてたブルブルと震える白くて細っこい女の手に、ギラリとした抜き身の【匕首(あいくち)】《つばのない小刀》が握られてるのを見て、つい睨むような目になった。
「うん。この鎌、中々切れ味がよさそうだ。恩に着るぜ!おリズ!だがな、悪いがお前は戦の邪魔だ、方がついてすっかり静かになるまで家ん中に引っ込んでろ」
俺は、おリズが走ってきた村の奥を指差した。
「えっ!?で、でも……」
「お前を守りながらじゃ戦い辛ぇし、下手すりゃ巻き込んじまうかも知れねぇ。なぁ、後生だから、俺を助けると思っていう通りにしてくれ」
「……は、はい。分かりました。あの……ネコザさん……私、ちょっとだけど寿命が伸びて、パパとママにもう一度会えて嬉しかったです!!」
「……そっか、そらぁなによりだ」
「うんっ。ネコザさん!すぐ天国で会えると思うけど……。さ、さよならっ!」
おリズは澄んだ涙を振りまきつつクルリと振り返り、そのまんま村の奥へと駆け出した。
あん?なーんで【またね】じゃなくて【さよなら】なんだ?と首をかしげたところでズドンと来た。
俺は胸の真ん中に飛び出して生えた、真っ黒な矢じりを見下ろした。
まぁそらそーだ。
あんな極道どもが、なぁ準備はいいか?そろそろ殺り合おうぜーってな具合に、悠長に声かけてくれる方がおかしいよな……。
くっそッ!!それにしても痛てぇなぁっ!!
うえっ!この背中から肺臓を焼く熱さと、ぷつぷつと血と肉の焦げる臭いは、間っ違いなく火矢だ。
俺は血のまじった【咳(せき)】を吹きながら、ゆっくりと黒甲冑どもに振り返った。
「ゲヒャヒャヒャヒャッ!まぁそー睨むなよ。どっちにしたって、流れ者のお前も、この村の奴等は残らず皆殺しだ。よーしお前らっ!!今度は火矢を家屋に放てっ!!」
ちびっこ黒甲冑が短い手を上げて喚いた。
俺は借りたばかりの鎌で、胸から突き出た矢じりのちょいと上を切って、油臭ぇそいつをポトリと落としてから、背中に手を回して、気が変になりそうなスゲェ痛みを噛み殺しつつ矢を引っこ抜いた。
よ、よし。こ、この程度の傷。やられたのが肺臓だから今はちょいと苦しいが、こうやって矢さえ引っこ抜きゃ、あとは二つ、三つ息をする内に白い湯気が上がって、すっかり治っちまわぁ。
黒龍騎士団のど外道どもめ、待ってろよっ!!
そぉら、痛みだってこうしてスーっと……スーっと……。
ゴホッ!ゴボッ!!
んっ?な、なんか変だな?ち、ちっとも痛みが退かねぇし、【血反吐(ちへど)】も止まらねぇぞ!?
おっ?なんだか……け、景色が筒でも覗いたみてぇに小さくなっていくじゃねぇか……。
ううぅ……じ、地面が迫って来やが、る。
俺はそのまま前のめりに底のねぇ真っ暗な奈落へと落ちて行った――。
◇
――な、何にも見えねぇ……。手足の感覚もサッパリねぇ……ぞ。
ま、待てよ!訳が分からねぇ……。
まさか!?俺はもう不死身じゃなくなっちまったのか?
それとも、このおかしな国じゃあ【毘沙門天様】の力がうまいこと俺まで届いて来ねぇってのか?
かぁー参ったぜ……。黒龍騎士団の奴らにあーんなに威勢よく啖呵きっといて、このザマかよ……。
あーぁ。【首斬り猫左】も万事休す、ここで一巻の終わり、か……。
畜生っ!!
おっ母、大治郎、お鈴……。俺はどうやらここまでのようだ……。早ぇとここの国から出て、また戦で稼いで、お前達にもっと美味ぇものや、キレーなベベを買ってやりたかったが、それももう無理みてぇだ。
兄ちゃん、先に【あの世】で待ってるぜ……。
◇◆
『……猫左……』
『猫左よ』
ん?な、なんだ?
こ、声が……どっかから声が、聞こえる……。
『我は【軍神毘沙門天】。お前に不死身を授けた者であーる』
へぇっ!?、び、毘沙門天様っ!?
『我は一年と少し前――。お前に少々のことでは決して滅せぬ、強き体を能(あた)えたが、それはお前の生まれし世とは異なる別の世。この憐れなる世にはびこる悪と、その権化である【邪王】を打ち破って欲しかったからに他ならーぬ……』
へ、へぇ……。って、そ、そうだったんですかっ!?
そらちっとも知らなんだっ!!
『……これからお前はいつもの不死身として起き上がるであろう。だが、これより先は【邪王】とその配下の悪しき者共を駆逐する為にその鎌を振るうのだ……』
はっ!毘沙門天様からの【ご沙汰(さた)】なら、一も二もなくそらぁもう……。
で、でも俺には――
『家族か……。心配は要らぬ。お前にはこれよりもう一つの新たな力を授けてくれん。それは……』
そ、それは!?
『砂金でも何でも構いはせん。これよりお前が金(きん)を握るとき、それは手のひらに吸い込まれるようにして消え、それは過(あやま)たずお前の家族の元へと送られるであろう……』
き、金!?
俺が金を手のひらに乗っければ、おっ母達のとこへとお送りくださると、こーいうことですか?
『二度言う必要はない。では、これよりお前は、一日も早く【邪王】を滅するべく精一杯励め』
は、はぁ、この猫左、畏(かしこ)まりましてございます!!
新しいトンでもねぇ便利な力まで授けてくださり、本当にありがとうごぜぇますっ!!
『しかと命じたーぞ――』
えっ!?び、毘沙門天様っ!!あの、ちょ、ちょいと待ってくだりませぇっ!!
あ、あの、今回俺が火矢の一本なんかでぶっ倒れたのは、不死身にあぐらかいてたとか、俺がつまらねぇ啖呵をきったりとかして、【増上慢(ぞうじょうまん)】《偉そうに、いい気になること》になってたことの罰とかじゃあねぇんですかっ!?
『……我も暇ではない。ゆえにお前の雑念が少しも入らぬ、邪魔の入らぬ静かな闇にて一度きり【下知(げじ)】《命令のこと》を申し渡したかった、それだけであーる――』
……あ、はぁ……。そ、そら、どーも……。
「うん。この鎌、中々切れ味がよさそうだ。恩に着るぜ!おリズ!だがな、悪いがお前は戦の邪魔だ、方がついてすっかり静かになるまで家ん中に引っ込んでろ」
俺は、おリズが走ってきた村の奥を指差した。
「えっ!?で、でも……」
「お前を守りながらじゃ戦い辛ぇし、下手すりゃ巻き込んじまうかも知れねぇ。なぁ、後生だから、俺を助けると思っていう通りにしてくれ」
「……は、はい。分かりました。あの……ネコザさん……私、ちょっとだけど寿命が伸びて、パパとママにもう一度会えて嬉しかったです!!」
「……そっか、そらぁなによりだ」
「うんっ。ネコザさん!すぐ天国で会えると思うけど……。さ、さよならっ!」
おリズは澄んだ涙を振りまきつつクルリと振り返り、そのまんま村の奥へと駆け出した。
あん?なーんで【またね】じゃなくて【さよなら】なんだ?と首をかしげたところでズドンと来た。
俺は胸の真ん中に飛び出して生えた、真っ黒な矢じりを見下ろした。
まぁそらそーだ。
あんな極道どもが、なぁ準備はいいか?そろそろ殺り合おうぜーってな具合に、悠長に声かけてくれる方がおかしいよな……。
くっそッ!!それにしても痛てぇなぁっ!!
うえっ!この背中から肺臓を焼く熱さと、ぷつぷつと血と肉の焦げる臭いは、間っ違いなく火矢だ。
俺は血のまじった【咳(せき)】を吹きながら、ゆっくりと黒甲冑どもに振り返った。
「ゲヒャヒャヒャヒャッ!まぁそー睨むなよ。どっちにしたって、流れ者のお前も、この村の奴等は残らず皆殺しだ。よーしお前らっ!!今度は火矢を家屋に放てっ!!」
ちびっこ黒甲冑が短い手を上げて喚いた。
俺は借りたばかりの鎌で、胸から突き出た矢じりのちょいと上を切って、油臭ぇそいつをポトリと落としてから、背中に手を回して、気が変になりそうなスゲェ痛みを噛み殺しつつ矢を引っこ抜いた。
よ、よし。こ、この程度の傷。やられたのが肺臓だから今はちょいと苦しいが、こうやって矢さえ引っこ抜きゃ、あとは二つ、三つ息をする内に白い湯気が上がって、すっかり治っちまわぁ。
黒龍騎士団のど外道どもめ、待ってろよっ!!
そぉら、痛みだってこうしてスーっと……スーっと……。
ゴホッ!ゴボッ!!
んっ?な、なんか変だな?ち、ちっとも痛みが退かねぇし、【血反吐(ちへど)】も止まらねぇぞ!?
おっ?なんだか……け、景色が筒でも覗いたみてぇに小さくなっていくじゃねぇか……。
ううぅ……じ、地面が迫って来やが、る。
俺はそのまま前のめりに底のねぇ真っ暗な奈落へと落ちて行った――。
◇
――な、何にも見えねぇ……。手足の感覚もサッパリねぇ……ぞ。
ま、待てよ!訳が分からねぇ……。
まさか!?俺はもう不死身じゃなくなっちまったのか?
それとも、このおかしな国じゃあ【毘沙門天様】の力がうまいこと俺まで届いて来ねぇってのか?
かぁー参ったぜ……。黒龍騎士団の奴らにあーんなに威勢よく啖呵きっといて、このザマかよ……。
あーぁ。【首斬り猫左】も万事休す、ここで一巻の終わり、か……。
畜生っ!!
おっ母、大治郎、お鈴……。俺はどうやらここまでのようだ……。早ぇとここの国から出て、また戦で稼いで、お前達にもっと美味ぇものや、キレーなベベを買ってやりたかったが、それももう無理みてぇだ。
兄ちゃん、先に【あの世】で待ってるぜ……。
◇◆
『……猫左……』
『猫左よ』
ん?な、なんだ?
こ、声が……どっかから声が、聞こえる……。
『我は【軍神毘沙門天】。お前に不死身を授けた者であーる』
へぇっ!?、び、毘沙門天様っ!?
『我は一年と少し前――。お前に少々のことでは決して滅せぬ、強き体を能(あた)えたが、それはお前の生まれし世とは異なる別の世。この憐れなる世にはびこる悪と、その権化である【邪王】を打ち破って欲しかったからに他ならーぬ……』
へ、へぇ……。って、そ、そうだったんですかっ!?
そらちっとも知らなんだっ!!
『……これからお前はいつもの不死身として起き上がるであろう。だが、これより先は【邪王】とその配下の悪しき者共を駆逐する為にその鎌を振るうのだ……』
はっ!毘沙門天様からの【ご沙汰(さた)】なら、一も二もなくそらぁもう……。
で、でも俺には――
『家族か……。心配は要らぬ。お前にはこれよりもう一つの新たな力を授けてくれん。それは……』
そ、それは!?
『砂金でも何でも構いはせん。これよりお前が金(きん)を握るとき、それは手のひらに吸い込まれるようにして消え、それは過(あやま)たずお前の家族の元へと送られるであろう……』
き、金!?
俺が金を手のひらに乗っければ、おっ母達のとこへとお送りくださると、こーいうことですか?
『二度言う必要はない。では、これよりお前は、一日も早く【邪王】を滅するべく精一杯励め』
は、はぁ、この猫左、畏(かしこ)まりましてございます!!
新しいトンでもねぇ便利な力まで授けてくださり、本当にありがとうごぜぇますっ!!
『しかと命じたーぞ――』
えっ!?び、毘沙門天様っ!!あの、ちょ、ちょいと待ってくだりませぇっ!!
あ、あの、今回俺が火矢の一本なんかでぶっ倒れたのは、不死身にあぐらかいてたとか、俺がつまらねぇ啖呵をきったりとかして、【増上慢(ぞうじょうまん)】《偉そうに、いい気になること》になってたことの罰とかじゃあねぇんですかっ!?
『……我も暇ではない。ゆえにお前の雑念が少しも入らぬ、邪魔の入らぬ静かな闇にて一度きり【下知(げじ)】《命令のこと》を申し渡したかった、それだけであーる――』
……あ、はぁ……。そ、そら、どーも……。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる