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13話 それぞれの夜

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 海底のアビスダンジョンにどうやって向かうのか、またそこにどんな恐ろしい邪神の配下が待ち構えているか深く考えもせず、女勇者達は既にレジェンダリー装備を手にしたかのように喜んだ。

 一行はもう一盛り上がりし、安酒場の上の階の宿屋へ今宵のねぐらを求めた。

 マリーナが木の狭い階段を踏みながら
 「一体どんな装備なんだろねー?アタシは楽しみで仕方ないよ!
 あっ!でもさ、古代の初代勇者達の装備だよね?見付けたは良いけど、もう錆っび錆びのボロッボロでしたー、ってこたぁないよね!?」
 
 後ろに手を組んで、厚底ヒールで階段を踏むカミラーはタメ息で
 「無駄乳、無駄くびれ、無駄尻の愚か者。
 時間の流れる力を取り込んで、永遠に性能を向上させるSSSレジェンダリーシリーズが、錆びたり朽ちたりする訳もなかろうが。
 無駄にでかい尻を振りおって、そんなことも知らんのか?」
 
 先を往くマリーナは部屋の鍵を鍵穴に差し込みながら
 「へー、そうなんだー。何だかよく分かんないけど、そりゃ安心だねー。益々楽しみだよ」

 部屋は荒野の片田舎の村にしては綺麗で広く、カーペットも調度品もよく手入れがされていた。

 ドライフラワーが各所に品よく飾られており、飾り気の無い銀の燭台の灯りも邪魔にならず、その香り蝋燭の仄かな薫りは、疲れた旅人を落ち着かせる物だった。

 女勇者達は二人づつに別れ、部屋を取った。

 マリーナは大きな背荷物をベッドの足元へ適当に放り、早速、金具の音を鳴らして深紅の鎧を脱ぎ出した。

 カミラーはひとわたり部屋を見回し、浴室を見に行く。

 「部屋も浴室も思ったより悪くない。わらわの寝所と比べ、狭いのは仕方ないか」

 角を削った、滑らかな煉瓦造りの浴室の中央に、カミラーはおろか長身のマリーナも横になれる程の大きな銅の浴槽の湯面から、ほんのりと湯気が漂い昇るが見えた。

 マリーナは既に全裸でタオルを手に下げ、カミラーの後ろに立ってピンクの盛り髪越しに浴室の壁面を見て
 「へぇ。アンタ本当に鏡に映らないんだね。毎日その髪どうしてんの?
 悪いけど先に入っちまうよー?」
 さっさとバンパイアの脇を抜け、ヒタヒタと進み、温水タンク下のシャワーのレバーを回した。

 カミラーは降り注ぐ湯を弾く美しい裸身を憎々しげに睨んで踵を返し、直ぐに出ていった。

 「フン!無駄乳め!」


 隣室では魔法賢者がオーク材の机にかじりつき、書き物をしていた。

 髪をほどいたスレンダーな女アサシンは、深紫のレザーアーマーを脱ぎ、肌色の袖無しで床に胡座をかいて掌を合わせ、上半身のストレッチをしている。

 「また両親への手紙か。精が出るな」

 ユリアは羽ペンの先をインク瓶に浸け、その口で余分なインクを切りながら
 「えぇ。家の両親はとても心配性なので、こまめに手紙を出さないと凄く心配しますから。
 後、日記もお風呂の前に済ませておかないと面倒になっちゃいますからね。
 あ、シャンさん、お風呂ならお先にどうぞ」

 スレンダーな肌着姿は肩甲骨を盛り上げていたが
 「あぁ。それなら入ってこよう。
 ユリア、途中でまた背中を流してくれるか?」

 ユリアはソバカスの笑顔で
 「ええ。もちろん良いですよ」

 シャンは立って椅子に掛けたタオルを掴んで
 「それはそうと、レジェンダリーシリーズの眠るダンジョン。古代邪神の領域らしいがどう思う?」
 
 ユリアは羽ペンを金属製のペン立てに差し込み、上を見ながら
 「そうですね……。古代邪神の配下は、並の魔王軍のモンスターよりも遥かに強力だと、魔法ギルドの授業で聞いたことがあります。
 中には魔法を無効化するモンスターもいるとか……。
 シャンさーん!私、何か急に不安になってきましたー!」 

 シャンはバスタオルを華奢な肩に回し
 「そうだな。確かにレジェンダリーシリーズは目も眩む宝だが、そう簡単にはいかないだろうな。
 だがな……フフフ……」

 ユリアは吐息で羊皮紙の文字のインクが光沢を失い、乾いていくのを見詰めながら
 「えっ!?どうしたんですか?」

 シャンはマスクの口元に拳の親指をあてながら
 「いや、アビスダンジョンとやらに強大な障害が待ち受けているに違いないが、何故かな、それに苦労する気がしないのだ。
 フフフ……どんな化け物が群で押し寄せようとも、あの男が何でもないみたいに涼しい顔で、スパスパッ!とな……フフフ……」

 それを聞くと、ユリアの顔にも血の気が戻ってきた
 「そう!そうですね!ドラクロワさんが居れば何でもやっつけてくれそう!ウフフフフ!」
 美しい女達の笑う声が、隣室とそっくりな、同じ品の良い部屋にしばし鳴り続けた。

 三階建ての安宿の最上階、一等級の部屋では、美しい魔王が濡れた一糸纏わぬ、陶磁器のような白い華奢な体をベッドの上に大の字にし、高いびきをかいていた。

 燭台の灯りに照され、その胸と寝返りをうった背中には、髪と爪と同系統の紫の禍々しい紋様が見る者もなく見えた。
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