退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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1話 そして伝説へ

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 ザリザリと赤茶色の顎髭を擦(さす)っていたギルドの支部長は、急に何かを思い出したような顔となって、パンッ!と膝を打ち
 「おうっ!そーそー!ついこの間のことなんだがよ、本当たまたまだが、あんたが探してるよーなスンゲー上玉が、それも三人も冒険者登録をしたいって来てたっけなぁ。
 よしきたっ!んじゃ早速、そいつらの冒険、逗留(とうりゅう)先に馬と人をやって呼んでやっからよ!
 そーだなぁ……うんっ!三時間、いや二時間だな!あんたよ、二時間くらいしたらまたここに来てくれ!なっ!?」

 そう言われたドラクロワは、特に何をすることもなく、このジュジオンの町をさ迷い歩き、そうして適当に二時間ほどをつぶし、再び冒険者ギルドに舞い戻ってきた。

 そして、先ほどギルド支部長の吐いた、''上玉''という言葉に特段高望みをすることもなく、実に無造作に待合室の錆(さび)をふいた真鍮のドアノブを握り、回し、そこへと分け入ったのである。

 そうして、さしてそう広くもない、そこの木造空間を見渡すと、なるほど確かに、その待合室には女が三人いた。

 それらを認めたドラクロワは、最上級のアメジストに酷似した瞳の目を丸くし
 (ウム。こいつは素直に驚いた……。これは確かに、魔界をくまなく探したとて、ちょっと見つからないほどの水準だな。
 フフフ……あの髭の男、もう少し褒美をとらすか……)
 と、目の当たりにした三名の女冒険者達。その余りの容貌の美しさに独り満足し、小さく唸(うな)った。

 そうしていると、ドラクロワが入ってきた背後のドアが鳴って、髭面のやり手オヤジが入ってきた。

 そして、見るからに高級そうな茶と菓子類を人数分、部屋の中央テーブルへと提供し
 「んじゃ、後はあんた達でゆっくり話し合ってくれ!
 で、お互いの利害がウマイことはまって、めでたく正式にパーティを組むことになったら、後はパーティー登録を済ますだけだな。
 じゃっ!俺は直ぐ隣の事務所にいるからよっ!」
 莫大な金銭を手にした者の余裕と景気のよさとをうかがわせるように、実に愛想よく、ニコニコとしながら鼻歌混じりに退出して行った。

 そして、その通用ドアが、キィィと軋(きし)んで鳴き、トドメに、バタンッと閉まると、鉄仮面(むひょうじょう)の貴公子、ドラクロワも空席の木製椅子の背を掴んで引き、静かにそこに腰掛けた。

 さて、その向かいに座った女だが、長い美髪を高く結っており、ざっと見た座高と組んだ長い足から察するに、その身長はおよそ170センチ。
 実に引き締まった、無駄な脂肪ひとつない長身であり、巨大なバストを深紅にカラーリングした鋼鉄のベストに押し込んでおり、幾らか陽には焼けているものの、地の肌は白く、それにサファイア色の碧眼、金髪、また大変に均整のとれた十二頭身という、100メートル先からでも、あっ美人!と分かるような、そんな至極分かりやすいタイプの美貌を持つ女戦士だった。

 「アハッ!じゃ、先ずはアタシから自己紹介といくかねぇ?
 アタシの名前はマリーナ。冒険者レベルは1だけど、イチオー勇者の家系だよ。
 将来的には聖戦士を目指してる。自分で言うのもナンだけど、うちの親父から言わせると剣の筋は良いらしい。
 あと、こいつは信じられないなら信じなくてもいいけどさー、アタシは、オギャーと生まれたときに、ピッカーッて感じで輝いていたんだって。
 そ、つまり、光属性ってことになんね。ま、そんな感じかな?アハッ!よろしくね!」
 と、実に天真爛漫・快活そうに宣(のたま)った。

 これにドラクロワは茶を吹きそうになった。

 なぜなら、この''勇者''とは、この星の主神である七つの女神達が、脆弱なる人間族が強力な魔族と戦うために、特別な祝福と恵みを能(あた)えているといわれる、七つの聖なる家系の者のことであり、敵対する魔族にとっては、脅威・致命的なる聖なる力を生まれつき持っているとされている。

 事実、その勇者が振るう、ただの小剣(ショートソード)の一撃は魔族の肉を焼き、通常の殺傷力を遥かに超え、正しく死ぬほどの苦痛をもたらす事すら可能であるという。

 更にこの属性とは、この星の人間を含めた、あらゆる生物が生まれもつ、体系的な体質の分類のようなものであり、炎、緑、氷、鉄という四つがあり、それぞれ炎は緑に強く、緑は氷に強く、氷は鉄に強く、鉄は炎に強いと、所謂(いわゆる)四すくみとなっている。

 また、この四属性とは、主に魔法を会得する際に影響があるとされ、またこれにより少なからず、その者の人格、性格も影響を受けるとされる。

 加えてこれ以外に、およそ一億人に一人ほどの極々希な割合だが、魔族に''闇''、人間族には''光''という特殊な属性の者が生まれることがある。

 この光属性の人間とは、必ず勇者の血筋から生まれるとされ、おおむね全ての属性に強く、また生来、悪しきモノへの強い嫌悪を持つ者が多い。

 そしてまた、それらの血筋は、いずれお互いに引かれ合い、それぞれがある同一の世代に究極の勇者を誕生させ、それらが成長して団を為せば、この星の全ての闇を払い、人類の宿敵である魔王を滅ぼし、この世界の救世主となるであろう、という伝説があった。

 つまり、このマリーナという大柄な美女戦士の自己紹介が、全く嘘偽りのなき真実であり、彼女が本物の''勇者の家系''で、しかも''光属性''となれば、魔族の頂点たる魔王ドラクロワの''天敵''ということになり、その存在とは、単にハダが合わないとか、生理的に受け付けないとかいった次元を遥かに越えた、人間でいえば人型のむき出しのプルトニウムにも等しかったのである。

 さて、その女戦士の隣。襟の高い、恐ろしくスタイリッシュなデザインの深紫に染めたレザーアーマーの女は、闇色の髪を高く結い、その前髪を眉の所で横一直線に切り揃えた、どことなく東洋的な美貌のスレンダーな人物だった。

 そして、そのレザーアーマーと同色の鼻まで覆うような、貫頭型のマスクをしていた。

 「私の名はシャン。この度、里での修行を終え、初の冒険となる。
 職業はアサシン(闇狩人)だが、勇者の家系にあたるらしい。
 フフフ……。しかし……これは驚いたな。うん、恐ろしいほどの奇遇だ。
 なんと、私の属性も''光''なのだ」

 ドラクロワは今度こそ茶を吹いた。

 それを見た、隣席のいかにも気弱そうな、蜂蜜色の頭髪を三つ編みにした薄幸美少女がハンカチを差し出した。

 「だ、大丈夫ですか!?ちょっとお茶が熱かったみたいですね。あっ、コレ、どうぞ使ってください」
 
 ドラクロワが何気なく、その差し出された黄色いハンカチを受け取ったその時。
 その小柄な愛らしい女の指先がわずかに手先に触れた。

 その瞬間、まるでそこの生爪を剥がされたような激痛が走った。

 (うっごぁーーっ!!!)

 魔王ドラクロワは何とか顔色に出すまいと必死で紫の唇を噛みしめて耐えた。

 「あっ、すみません!爪が当たっちゃいましたか!?
 えと、私も自己紹介しなきゃ、ですね。
 あ、私、魔法賢者(神聖魔法も修得している魔法使い)のユリアといいます。
 そ、それより!すすす、スゴいですっ!ホ、ホントに驚きましたー!!
 だってだって、わ、私も勇者の家系で光属性なんですっ!!
 うひゃー!!は、初めて自分以外の光属性の方に会いました!!スゴい!!スッゴいですー!!これこそ、本物の奇跡ですー!!?
 こ、これはもしかしたら、私達がここで出会うのは七大女神様達のお導きで、運命だったのかも知れません!!
 これはきっと、この星で太古の昔から語り継がれてきた、あの''光の勇者大集結伝説''の成就ですよ!!
 こ、これはどうあっても、ここで今すぐパーティーを組んで、この勇者の家系のみんなで一致団結して、絶対にあの諸悪の権化である魔王を倒しましょう!!」

 「ひゃーっ!!コーリャ驚いたねぇ!!」
 「なんと!ユリアとやら、それは本当か!?」
 と、女戦士も女アサシンも思わず立ち上がった。

 ドラクロワは意識が遠退くのを何とかこらえ、ヨロヨロと座席から立ち上がり、半ば朦朧(もうろう)としながらも、この聖なる血の集結・躍動する部屋から退出した。

 これに、隣室にて暇そうに待機していたギルドの支部長のオヤジは、帳簿片手にニッコリと微笑み
 「おっ?バッチリ決まったみてーだな!?
 んじゃ、正式にパーティとして、」

 「コラァ貴様!!一体どういうつもりだ!?
 よりにもよって!!あんな勇、」
 言いかけて、ドラクロワは慌てて口元を押さえた。

 このドラクロワの発火・激昂振りに、フッと眉をひそめたオヤジだったが、ニタリと男臭すぎる相好を崩して
 「んなっ!?あの三人。揃いも揃って、スンゲー美人ばっかだろ!?
 チキショー羨ましいなーあんた!俺ももうちょい若けりゃなー。
 デへッ!ま、うまくやれよ!?大体、冒険者で美人なんて奇跡だぜ奇跡!!
 それがこんな片田舎に三人も揃うたぁ、コリャ奇跡を越えて''超絶奇跡''だかんな!?」
 
 「ふ、ふざけるなっ!!幾らなんでも、これは奇跡に奇跡が重なり過ぎでろうが!?
 貴様、俺を殺す気か!?」
 魔王ドラクロワは、生まれてこのかた、矮小なる弱小人間族に対して、こんなに激しい怒りを覚えたことはなかったという。

 オヤジは急にわざとらしいくらいの神妙な顔になり、掌を頬に当てては声を潜め
 「あんな?兄ちゃん。このギルドでの仕事が長い俺からハッキリ言わせてもらうけどよ!?
 大概の冒険者の女なんつーのはよ、トンでもねぇメスゴリラか、こんな怪我が日常茶飯事の冒険者っつう商売でもやるしかねぇっていう、オッソロしいブスッ娘だけだっ!
 うん!これだきゃあ断言出来る。なんなら賭けてもいいぜっ!!
 だからクドイよーだがよ、ここはハッキシ言わしてもらうぜ?
 ンー!ズバリッ!あんだけの上玉が揃うこたぁ金輪際まずねえってことよ!!
 これだけは間違いない!!何度も言うけどよ!
 コイツはホンモノの、き! せ! き!ってことよ!!」
 自信タップリに深爪の親指を立ててみせたという。

 これにドラクロワは、まだ何か言いたそうに立っていたが、渋面で少し考え、素直に待合室へと戻った。

 無論、そこにはやはり、相変わらず凄い美女冒険者の三人が待っていた。

 戻ってきたドラクロワの顔色を見た女戦士マリーナが心配そうに
 「えっ!?アンタ大丈夫かい?どっか気分でも悪いのかい?まぁそこ座んなよ。
 あー、そーいやーアンタじゃなんだしさ、サクッと自己紹介、貰えるかい?」

 
 ドラクロワは考えていた。

 ま、まさか、こいつらが父の言っていた光の勇者か!?

 バカな!!

 な、なんという奇跡的偶然なのだ!?

 くっ!こ、ここは安易に遁走(とんそう)するより、魔界・魔族の永遠栄華の為、この下らん光の勇者伝説とやらを俺の代で打ち砕くべきか!!?

 し、しかし……よりによって俺の代でこんな事が起きるとは……な……。
 えぇい!!七大女神共めぃ!許すまじ!!

 この魔王故の懊悩煩悶(おうのうはんもん)と激怒の意味など知りようはずもない、女アサシンのシャンは、怪訝な顔で
 「どうした?フフフ……そうか。流石に勇者、それも光の属性の者達が、この場に三名も揃いぶみするとは思わなかった、といったところか……。
 うん。無理もない、この私も信じられんくらいだ。
 で、四人目のお前だが……そうだな。もしもお前が勇者の家系でも、また光属性でなくとも我々は一向に構わん。
 だがそうなれば、この星のどこかにいる運命の仲間である、真の光の勇者を探すだけだ。  
 うん。まぁその時は、お前には悪いが、ここでお別れということになるか」
 
 これを聞いて、ハッとしたドラクロワは、全身全霊で以(もっ)て、渾身のひきつった笑顔を作ると
 「お、俺の名はドラクロワ……。
 フフフ……時として''偶然''とは、げに恐ろしきモノよな……。
 なんと、この俺も、ゆ、勇者の家系で……ひ、光属性、なのだから……。
 以後、よろしく……頼む」
 としか言えなかった。
 
 この振り絞るような自己紹介の直後、この待合室に、女勇者達の驚喜と感嘆の声が上がったのはいうまでもない。
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