99 / 245
98話 チャンピオンの能(ちから)
しおりを挟む
ユリアは、眼前のギリシャ彫刻みたいな、真っ白い幼児らしき代理格闘戦士の丸っこい、小さな純白の翼の背を呆然と見つめ
「えーーぇ……」
と、図らずとも己の恐ろしい本質・本性をさらけ出す格好となった、受け入れ難いほどに獰猛な闘い振りをした、この代理格闘戦士を前にし、途方・悲嘆に暮れたように呻(うめ)いた。
この石膏肌の幼児のごとき、残忍な代理格闘戦士には、魔界の王者ドラクロワも僅かに身を乗り出し
「ん?何だ?あの炸裂する稲妻を連続射出するがごとき異様な攻撃は。
あの高速で飛翔した、鉄のつぶての穿(うが)った回転運動的破壊創(はかいそう)……。
俺の知る、如何(いか)なる魔法とも異なる効果だな。
ウム。やはりこの女は、一見まともに見えつつも、ふっ切れてネジの飛んだところが面白いな」
火薬式の兵器を知らぬ魔王は、"弾創(だんそう)"という面識のないシロモノを熟視・観察し、その突貫力に幾許(いくばく)かの感心を示した。
そして戦慄(わなな)く蜂蜜色のお下げ髪を眺め、鼻を鳴らし、また深く座り直した。
灰銀のメイド服に漆黒のショートボブの双子の姉は、前屈みで純白のフリルブルマを後方へと突き出しつつ、魔法の遊戯盤上を覗き込むようにして観戦していた。
そして、この決闘の劇烈なる顛末(てんまつ)を認め、僅かに前に出た鼻先と口元とを押さえつつ、その背を真っ直ぐに戻し
「なんと勇壮な闘い振りにございましょう。
流石はユリア様。平素は穏やかな気性であられながらも、その内奥(うち)には、実に毅然とした、燃えるような精神の強さをお持ちなのですね。
私、誠に感服致しました!」
修(おさ)めた神聖魔法の内でも、取り分け戦闘・攻撃に特化したものの行使を得意とする、女神官戦士のビスらしい評価であった。
羞恥(しゅうち)にまみれていたユリアは、それを背後から聴いて、ハッとし
「そそそ、そうですよね!?この子ったら、ちょっとだけ攻撃的ですけど、この場は"戦場"ということで、気持ち多めに頑張っちゃってくれたみたいですねー。エヘヘヘ……。
えーと、ラタトゥイユさん!チャンピオンのあなたをやっつけたということは、この代理格闘遊戯において、私ユリアが今、新たな覇者となったいうことですね?
エッヘン!どうですかカミラーさーん!?ちょっとスゴくないですかー!?」
急に得意な顔になり、ドラクロワの盃に葡萄酒を注ぐ女バンパイアを振り仰いだ。
それに対してカミラーは、己の代理戦士に酷似した、鋭い真紅の眼光を煌めかせ
「フン。この低知能娘が、分かりやすくもいい気になりおって。
たわけい!まだ決着は付いておらぬわ。そこの六枚羽根の代理戦闘士が消失せんのがその証拠じゃ」
小さな白い顎を代理格闘盤へしゃくった。
「えっ!?」と女魔法賢者が振り返った向こう、そこのラタトゥイユも、確かに敗北者らしからぬ顔付きであり、黄色い水晶球の脇に純白の肘をつき、頬杖で「ふーん」と感心したように声を漏(も)らし、横たわる白金の代理格闘戦士を見下ろしていた。
傍(かたわ)らのカサノヴァは、黒革の掌中で回していた琥珀色の酒を、サッとあおり
「いや、決着だぜ。何せ頭が無事だからな。
ん、悪(わり)い。何でもない……流石はチャンピオン、ってーとこか」
と、何やら一部、失言を取り繕(つくろ)う風ではあったが、確かにカサノヴァ側の白星を宣言するかのように短く言った。
それに細い影のように寄り添うルリも、不健康的な微笑を浮かべ
「そうだね。コリャどー見てもチビデブ女の敗けだね。
カサノヴァ、もう一杯作るわ」
と、モヒカンモドキの手から空のグラスを取り、サッと踵を返してカウンターへ
「やいテメー等!!なーに勝手に飲んでやがんだー!?ぶっ殺すぞ!?」
と怒鳴り上げつつ向かった。
ユリアはそのやり取りを耳にし、怪訝な顔を作って曇らせ、太めの眉を上げ
「えっ!?チビデブ!?それって私の事ですかー!?
はっ、そんなことより、皆さん何か間違えてません?
これ、どう見ても、私の完全勝利にしか見えないんですけどー?」
と、遠ざかる痩せぎす女の背に反駁(はんばく)した。
なるほど確かに、ユリアの見立て通り、四角い盤上では、その厚い身体に無数の貫通孔を穿(うが)たれ、そこから、ビュッ!ビュッ!と、まるで小さな間欠泉のように黒血を噴かせるプラチナのファイターが、荒野に長い手足、六枚の翼とをだらしなく伸ばし、まさに死に体(たい)で仰向けに倒れていた。
だが、このラタトゥイユ自慢のチャンピオン戦士は、金属的体躯を痙攣させながらも、多数の孔(あな)とひび割れにより、正しく満身創痍、その見るも無惨な致命傷を負った上半身を、ガクガクとさせながらも、何とか引き起こしたのである。
そして、その猫目が苦しそうに細まったかと思うと、なんとその上半身の銃創と光の槍とによってもたらされた大小の穴群は、急速に縮小しつつ、内側から白金の液体が沁(し)み出て来て、そこに名残(なごり)惜しそうに居座る黒血を、ビュッ!と外へと追い出し、その周辺のひび割れをさえ滲(にじ)んで覆って消失させ、瞬く間に奇跡的な超回復・復元を見せたのである。
そうして元通り、その双眸(そうぼう)に漲(みなぎ)る黄緑の眼光を、ギンッ!と煌めかせ、まるで何事もなかったかのように、よっこらしょと言わんばかりに立ち上がってさえ見せたのである。
「えー!?ウッソォー!?な、治っちゃったんですかー!?
えー!?なんでー!?えっ!?それって神聖魔法!?」
というユリアの仰天の声に被(かぶ)さるようにして
「あああああぁーーー!!」
という、幼い男児のような声音での、耳をつんざくような大絶叫が轟き、ラタトゥイユの猫目戦士の前には牡丹(ぼたん)雪、いや石膏の欠片が、バラバラと舞い降りた。
そして直ぐに、ズンッ!と荒野を揺らし、砂塵(さじん)と砂埃(すなぼこり)とを上げ、その場に有翼の純白幼児が堕天した。
このユリアの代理格闘戦士は、デコピンの乱射を喰らい、適当に殻を剥がされた、新鮮素材の茹で玉子のごとく、丸っこい小さな上半身の体表壁・外骨格に内側の身をこびり付かせた、純白の殻のような物を飛散させて、深緑(ビリジアン)の体液を派手に撒き散らしつつ、同色に濡れ光る胸骨と内腑(ないふ)とを露(あらわ)にして、悪魔の申し子のごとき恐ろしい形相で絶命していたのである。
その見るもおぞましき、有翼の奇怪千万(きかいせんばん)なる死骸は、直ぐに黄色の螺旋火柱に包まれ、瞬く間に盤上から消え失せた。
これを目の当たりにした女勇者達は、この不可解な事態に仰天・驚愕しつつも、ゾーッとして、何ともいえない寒気に襲われ、この小さな代理格闘戦士の突然死に混乱した。
ユリアは目を見開き、口元を押さえ
「えーー!?あ、あの子って死んじゃったんですかー!?ウソウソー!!
えー!?何でっ!?どーしてー!?」
と、ミニチュア荒野に舞上がる、黄色い尾をたなびかせる火の粉、その天へと還るような燐光を、少し垂れ気味な鳶(とび)色の大きな瞳に映すことしか出来なかった。
この薄暗い地階の酒場「黒い川獺(かわうそ)亭」には、モヒカンモドキの男女達の放つ、闇夜に瞳を輝かせるハイエナか、地底の悪鬼が漏らすような、そんな不吉な響きを帯びた下卑た笑い声が、正しく陰に籠(こも)るようにして聴こえ渡った。
そのなんとも不気味な光景に、女アサシンのシャンだけが目を細め、この白熱する代理格闘遊戯を余所(よそ)に、何やら別に思うところのあるような、どこか心晴れないような顔になって、それらを睨(ね)め付けていた。
彼等のリーダーであるカサノヴァ青年は、嬉しくもない、何ともいえない渋面になり
「けっ!相っ変わらずの無敵の能力だな!
おい、お嬢ちゃんよ。こいつの代理格闘戦士はな、即死にでもされなきゃー、どんな深傷もたちどころに治しちまうんだよ。
しかも自己を修復しながら、その身に受けた損傷を丸ごとそっくり相手に返しちまうっつー、糞厄介なヤツでな。
まー、この能力一本で、何処の誰にも負けねぇ無敵のチャンピオンってぇ訳さ。
マジで他力本願で、心底、胸糞の悪くなる能力だよなー!?」
そう掃き捨てるように喚(わめ)いて、パァン!と、ラタトゥイユの絶壁にして金髪の後ろ頭を叩(はた)いた。
「あ痛っ!!何すんだよカサノヴァ!この格別なるチャンピオン、KINGラタトゥイユ様に向かって不当な暴力は止めたまえー!
デヘッ!でもま、そーゆうこと!相手が格別に強ければ強いほど、その報復は格別恐ろしくなるってことさ!
胸糞悪かろーとなんだろーと結構、結構。要は勝てば良いのさ!か、て、ば!ね!?」
その満面の笑みは憎らしく、女勇者達を不快にさせるという点においては、正しく満点花丸であったという。
ユリアは愕然としつつも、その解説を確(しか)と聴き
「うわぁっ!何ですかそれー!?そんな能力は卑怯ですよー!そりゃあ誰も勝てませんよー!
キーッ!あー悔(くや)っしぃーーっ!!」
と、対戦席で短い手足を、ジタバタとさせて、その全身で無念さを表現するように暴れるが、無情にも"負けは負け"である。
「ホント残念だったね、ユリア。
じゃ、今度はアタシが相手だよ!」
マリーナはアップルジュースをミニスカローブの敗者へ渡してやり、深紅のグローブの両手の指を、バキボキと鳴らしながら言った。
ラタトゥイユは、ヒョイと腰を浮かせ、純白のガントレットを伸ばして、ユリアの眼前の銅貨を一枚奪い、人指し指と親指とで作った輪っかにはめて、その腫れぼったい左目にあてるようにして掲げ
「へぇー。君、僕の格別超戦士の無敵の能力を見ておきながら、それでも格別無謀な闘いをしようってのかい?
いいよー。相手になって上げるよ!
で、でも、もし僕が勝ったらさ、えーと、その……。
その格別なるオッパイを指で、ツンツンッてしちゃっても良いかなー?デヘッ!」
ガントレットの両人指し指を立てて、向かいのマリーナの巨大なバストを差し、舌先で上唇を舐めて「ヌヘヘッ!」と、イヤらしく笑った。
するとその眼前に、バオッ!ブオッ!と鋼の六角棒が伸びて迫った。
だが、萎(しお)れて退陣するユリアに代わって対戦席に腰掛けた、金髪を高く結った女戦士は、小さく右手を挙げてそれ等を急停止させ、不敵に笑うと眼帯の反対側、サファイアの左目を閉じ
「アン、ビス。あんがとー。でも大丈夫だよ。こんなスッケベなガキなんてーのは、負かして泣かしちまえば良いだけさ。
良いよ!ラタトゥイユ!ツンツンでも何でも好きにしな!
だけどその代わり、アタシが勝ったら、アンタのオデコをこの双子娘達に、ゴツーン!てやってもらうからね?
そそっ、さっきのオッサンワーラット達みたいにね!!
アッハハハハッ!!さぁーて!そんじゃー早速!サクーッ!といこうじゃない!サクーッとねー!?」
この女らしく、思い切りもよく、その深紅のグローブの右手が水晶球に乗せられた。
「えっ!?」と額を押さえるラタトゥイユ青年の顔を、下からの稲光と螺旋火柱とが黄色く照り輝かせ、直ぐにマリーナの代理格闘戦士がその盤上に姿を現した。
その戦士の姿とは……。
「えーーぇ……」
と、図らずとも己の恐ろしい本質・本性をさらけ出す格好となった、受け入れ難いほどに獰猛な闘い振りをした、この代理格闘戦士を前にし、途方・悲嘆に暮れたように呻(うめ)いた。
この石膏肌の幼児のごとき、残忍な代理格闘戦士には、魔界の王者ドラクロワも僅かに身を乗り出し
「ん?何だ?あの炸裂する稲妻を連続射出するがごとき異様な攻撃は。
あの高速で飛翔した、鉄のつぶての穿(うが)った回転運動的破壊創(はかいそう)……。
俺の知る、如何(いか)なる魔法とも異なる効果だな。
ウム。やはりこの女は、一見まともに見えつつも、ふっ切れてネジの飛んだところが面白いな」
火薬式の兵器を知らぬ魔王は、"弾創(だんそう)"という面識のないシロモノを熟視・観察し、その突貫力に幾許(いくばく)かの感心を示した。
そして戦慄(わなな)く蜂蜜色のお下げ髪を眺め、鼻を鳴らし、また深く座り直した。
灰銀のメイド服に漆黒のショートボブの双子の姉は、前屈みで純白のフリルブルマを後方へと突き出しつつ、魔法の遊戯盤上を覗き込むようにして観戦していた。
そして、この決闘の劇烈なる顛末(てんまつ)を認め、僅かに前に出た鼻先と口元とを押さえつつ、その背を真っ直ぐに戻し
「なんと勇壮な闘い振りにございましょう。
流石はユリア様。平素は穏やかな気性であられながらも、その内奥(うち)には、実に毅然とした、燃えるような精神の強さをお持ちなのですね。
私、誠に感服致しました!」
修(おさ)めた神聖魔法の内でも、取り分け戦闘・攻撃に特化したものの行使を得意とする、女神官戦士のビスらしい評価であった。
羞恥(しゅうち)にまみれていたユリアは、それを背後から聴いて、ハッとし
「そそそ、そうですよね!?この子ったら、ちょっとだけ攻撃的ですけど、この場は"戦場"ということで、気持ち多めに頑張っちゃってくれたみたいですねー。エヘヘヘ……。
えーと、ラタトゥイユさん!チャンピオンのあなたをやっつけたということは、この代理格闘遊戯において、私ユリアが今、新たな覇者となったいうことですね?
エッヘン!どうですかカミラーさーん!?ちょっとスゴくないですかー!?」
急に得意な顔になり、ドラクロワの盃に葡萄酒を注ぐ女バンパイアを振り仰いだ。
それに対してカミラーは、己の代理戦士に酷似した、鋭い真紅の眼光を煌めかせ
「フン。この低知能娘が、分かりやすくもいい気になりおって。
たわけい!まだ決着は付いておらぬわ。そこの六枚羽根の代理戦闘士が消失せんのがその証拠じゃ」
小さな白い顎を代理格闘盤へしゃくった。
「えっ!?」と女魔法賢者が振り返った向こう、そこのラタトゥイユも、確かに敗北者らしからぬ顔付きであり、黄色い水晶球の脇に純白の肘をつき、頬杖で「ふーん」と感心したように声を漏(も)らし、横たわる白金の代理格闘戦士を見下ろしていた。
傍(かたわ)らのカサノヴァは、黒革の掌中で回していた琥珀色の酒を、サッとあおり
「いや、決着だぜ。何せ頭が無事だからな。
ん、悪(わり)い。何でもない……流石はチャンピオン、ってーとこか」
と、何やら一部、失言を取り繕(つくろ)う風ではあったが、確かにカサノヴァ側の白星を宣言するかのように短く言った。
それに細い影のように寄り添うルリも、不健康的な微笑を浮かべ
「そうだね。コリャどー見てもチビデブ女の敗けだね。
カサノヴァ、もう一杯作るわ」
と、モヒカンモドキの手から空のグラスを取り、サッと踵を返してカウンターへ
「やいテメー等!!なーに勝手に飲んでやがんだー!?ぶっ殺すぞ!?」
と怒鳴り上げつつ向かった。
ユリアはそのやり取りを耳にし、怪訝な顔を作って曇らせ、太めの眉を上げ
「えっ!?チビデブ!?それって私の事ですかー!?
はっ、そんなことより、皆さん何か間違えてません?
これ、どう見ても、私の完全勝利にしか見えないんですけどー?」
と、遠ざかる痩せぎす女の背に反駁(はんばく)した。
なるほど確かに、ユリアの見立て通り、四角い盤上では、その厚い身体に無数の貫通孔を穿(うが)たれ、そこから、ビュッ!ビュッ!と、まるで小さな間欠泉のように黒血を噴かせるプラチナのファイターが、荒野に長い手足、六枚の翼とをだらしなく伸ばし、まさに死に体(たい)で仰向けに倒れていた。
だが、このラタトゥイユ自慢のチャンピオン戦士は、金属的体躯を痙攣させながらも、多数の孔(あな)とひび割れにより、正しく満身創痍、その見るも無惨な致命傷を負った上半身を、ガクガクとさせながらも、何とか引き起こしたのである。
そして、その猫目が苦しそうに細まったかと思うと、なんとその上半身の銃創と光の槍とによってもたらされた大小の穴群は、急速に縮小しつつ、内側から白金の液体が沁(し)み出て来て、そこに名残(なごり)惜しそうに居座る黒血を、ビュッ!と外へと追い出し、その周辺のひび割れをさえ滲(にじ)んで覆って消失させ、瞬く間に奇跡的な超回復・復元を見せたのである。
そうして元通り、その双眸(そうぼう)に漲(みなぎ)る黄緑の眼光を、ギンッ!と煌めかせ、まるで何事もなかったかのように、よっこらしょと言わんばかりに立ち上がってさえ見せたのである。
「えー!?ウッソォー!?な、治っちゃったんですかー!?
えー!?なんでー!?えっ!?それって神聖魔法!?」
というユリアの仰天の声に被(かぶ)さるようにして
「あああああぁーーー!!」
という、幼い男児のような声音での、耳をつんざくような大絶叫が轟き、ラタトゥイユの猫目戦士の前には牡丹(ぼたん)雪、いや石膏の欠片が、バラバラと舞い降りた。
そして直ぐに、ズンッ!と荒野を揺らし、砂塵(さじん)と砂埃(すなぼこり)とを上げ、その場に有翼の純白幼児が堕天した。
このユリアの代理格闘戦士は、デコピンの乱射を喰らい、適当に殻を剥がされた、新鮮素材の茹で玉子のごとく、丸っこい小さな上半身の体表壁・外骨格に内側の身をこびり付かせた、純白の殻のような物を飛散させて、深緑(ビリジアン)の体液を派手に撒き散らしつつ、同色に濡れ光る胸骨と内腑(ないふ)とを露(あらわ)にして、悪魔の申し子のごとき恐ろしい形相で絶命していたのである。
その見るもおぞましき、有翼の奇怪千万(きかいせんばん)なる死骸は、直ぐに黄色の螺旋火柱に包まれ、瞬く間に盤上から消え失せた。
これを目の当たりにした女勇者達は、この不可解な事態に仰天・驚愕しつつも、ゾーッとして、何ともいえない寒気に襲われ、この小さな代理格闘戦士の突然死に混乱した。
ユリアは目を見開き、口元を押さえ
「えーー!?あ、あの子って死んじゃったんですかー!?ウソウソー!!
えー!?何でっ!?どーしてー!?」
と、ミニチュア荒野に舞上がる、黄色い尾をたなびかせる火の粉、その天へと還るような燐光を、少し垂れ気味な鳶(とび)色の大きな瞳に映すことしか出来なかった。
この薄暗い地階の酒場「黒い川獺(かわうそ)亭」には、モヒカンモドキの男女達の放つ、闇夜に瞳を輝かせるハイエナか、地底の悪鬼が漏らすような、そんな不吉な響きを帯びた下卑た笑い声が、正しく陰に籠(こも)るようにして聴こえ渡った。
そのなんとも不気味な光景に、女アサシンのシャンだけが目を細め、この白熱する代理格闘遊戯を余所(よそ)に、何やら別に思うところのあるような、どこか心晴れないような顔になって、それらを睨(ね)め付けていた。
彼等のリーダーであるカサノヴァ青年は、嬉しくもない、何ともいえない渋面になり
「けっ!相っ変わらずの無敵の能力だな!
おい、お嬢ちゃんよ。こいつの代理格闘戦士はな、即死にでもされなきゃー、どんな深傷もたちどころに治しちまうんだよ。
しかも自己を修復しながら、その身に受けた損傷を丸ごとそっくり相手に返しちまうっつー、糞厄介なヤツでな。
まー、この能力一本で、何処の誰にも負けねぇ無敵のチャンピオンってぇ訳さ。
マジで他力本願で、心底、胸糞の悪くなる能力だよなー!?」
そう掃き捨てるように喚(わめ)いて、パァン!と、ラタトゥイユの絶壁にして金髪の後ろ頭を叩(はた)いた。
「あ痛っ!!何すんだよカサノヴァ!この格別なるチャンピオン、KINGラタトゥイユ様に向かって不当な暴力は止めたまえー!
デヘッ!でもま、そーゆうこと!相手が格別に強ければ強いほど、その報復は格別恐ろしくなるってことさ!
胸糞悪かろーとなんだろーと結構、結構。要は勝てば良いのさ!か、て、ば!ね!?」
その満面の笑みは憎らしく、女勇者達を不快にさせるという点においては、正しく満点花丸であったという。
ユリアは愕然としつつも、その解説を確(しか)と聴き
「うわぁっ!何ですかそれー!?そんな能力は卑怯ですよー!そりゃあ誰も勝てませんよー!
キーッ!あー悔(くや)っしぃーーっ!!」
と、対戦席で短い手足を、ジタバタとさせて、その全身で無念さを表現するように暴れるが、無情にも"負けは負け"である。
「ホント残念だったね、ユリア。
じゃ、今度はアタシが相手だよ!」
マリーナはアップルジュースをミニスカローブの敗者へ渡してやり、深紅のグローブの両手の指を、バキボキと鳴らしながら言った。
ラタトゥイユは、ヒョイと腰を浮かせ、純白のガントレットを伸ばして、ユリアの眼前の銅貨を一枚奪い、人指し指と親指とで作った輪っかにはめて、その腫れぼったい左目にあてるようにして掲げ
「へぇー。君、僕の格別超戦士の無敵の能力を見ておきながら、それでも格別無謀な闘いをしようってのかい?
いいよー。相手になって上げるよ!
で、でも、もし僕が勝ったらさ、えーと、その……。
その格別なるオッパイを指で、ツンツンッてしちゃっても良いかなー?デヘッ!」
ガントレットの両人指し指を立てて、向かいのマリーナの巨大なバストを差し、舌先で上唇を舐めて「ヌヘヘッ!」と、イヤらしく笑った。
するとその眼前に、バオッ!ブオッ!と鋼の六角棒が伸びて迫った。
だが、萎(しお)れて退陣するユリアに代わって対戦席に腰掛けた、金髪を高く結った女戦士は、小さく右手を挙げてそれ等を急停止させ、不敵に笑うと眼帯の反対側、サファイアの左目を閉じ
「アン、ビス。あんがとー。でも大丈夫だよ。こんなスッケベなガキなんてーのは、負かして泣かしちまえば良いだけさ。
良いよ!ラタトゥイユ!ツンツンでも何でも好きにしな!
だけどその代わり、アタシが勝ったら、アンタのオデコをこの双子娘達に、ゴツーン!てやってもらうからね?
そそっ、さっきのオッサンワーラット達みたいにね!!
アッハハハハッ!!さぁーて!そんじゃー早速!サクーッ!といこうじゃない!サクーッとねー!?」
この女らしく、思い切りもよく、その深紅のグローブの右手が水晶球に乗せられた。
「えっ!?」と額を押さえるラタトゥイユ青年の顔を、下からの稲光と螺旋火柱とが黄色く照り輝かせ、直ぐにマリーナの代理格闘戦士がその盤上に姿を現した。
その戦士の姿とは……。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領の底辺領主は知識チートでのんびり開拓します~前世の【全知データベース】で、あらゆる危機を回避して世界を掌握する~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に転生したリューイは、前世で培った圧倒的な知識を手にしていた。
辺境の小さな領地を相続した彼は、王都の学士たちも驚く画期的な技術を次々と編み出す。
農業を革命し、魔物への対処法を確立し、そして人々の生活を豊かにするため、彼は動く。
だがその一方、強欲な諸侯や闇に潜む魔族が、リューイの繁栄を脅かそうと企む。
彼は仲間たちと協力しながら、領地を守り、さらには国家の危機にも立ち向かうことに。
ところが、次々に襲い来る困難を解決するたびに、リューイはさらに大きな注目を集めてしまう。
望んでいたのは「のんびりしたスローライフ」のはずが、彼の活躍は留まることを知らない。
リューイは果たして、すべての敵意を退けて平穏を手にできるのか。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる