上 下
78 / 245

77話 なんじゃコリャ?

しおりを挟む
 さて、天から威圧するような、六面の巨大モニターを介して、間接的な衆目の集まる、ここ大神殿"王の間"であったが、そこには公開処刑というより、古代のコロッセオでの剣闘士対猛獣の見世物のような、正に"残酷娯楽"と呼ぶべき舞台が整っていた。

 だが、ここで意外な展開。

 魔界の住人である、龍人のごとき恐ろしきグレートリザードマンがその口を開き、火炎でも毒の痰でもなく、どこか癖のある"言葉"を吐いて響かせたのである。

 「あれまぁ?ここはどこどすか?えらい涼しい涼しい。
 でも、魔素がむちゃ少のうて、しんどいわぁ。
 そうか、ここ……ここは人間界やね?
 そういえば、御先祖様がアスラ様と何やら契約を交わしたとか、なんとか言ってはったわねぇ……。
 ほなら、ウチが致命傷を負うまで、ここでひとしきり暴れればええどすの?
 そやけど、息子の誕生日の朝に、わざわざ人間界に招かれるとは、こら驚きですぅ。
 はて?えーと、召喚者はんはどなたどすかぁ?」

 その狂暴にして、凶暴過ぎる見かけからは、先ず人語などは少しも解しそうにない蜥蜴巨人であったが、それを大いに裏切る、"はんなり・しっとり・おしとやか"と、これらの言葉で表現してもよいほど、彼女の話し方は上品であり、その声音も実に落ち着いたものであった。

 そこで聖女が、その血の滴(したた)る薬指の左で挙手をして
 「代償を支払った召喚者は私です。ですが、あなたには、ひとしきり暴れるほどまでは要求しません。
 ただそこにいる、破廉恥この上ない赤い着衣の女を、湯気のそそり立つ、一塊の肉のこま切れとしなさい。
 あなたならば楽なものでしょう。それが済んでしまえば即、魔界へ還ってもらって結構です。
 では、早速始めなさい」
 聖女は使役者らしく、飽くまで冷厳とし、端的に要求だけを述べた。

 マリーナはそれを他所(よそ)に、このしっとりと話す怪獣にすっかり牙・毒気を抜かれ、ぼーっと突っ立っていたが
 「おやおや、随分とおしとやかなリザードマンちゃんだねぇ。
 何か、思っきり肩透かしをかまされた感じだよ。
 ねぇ優しそうなアンタ?何ならさ、この闘いは止めとくかい?」
 日焼けして薄皮のささくれる、女にしては広い肩をすくめて、緑鱗の巨人を見上げた。

 さて、この体高5メートルを越す、"はんなり"グレートリザードマンであるが、彼女は首振り扇風機のごとく、時間をかけてゆっくりと辺りを見渡した。

 それから、硬い瞼(まぶた)が下から上へと動く瞬(まばた)きを繰り返すと、やおらその場に膝を折って正座をし、登場時の二度の咆哮、またその姿形には断じて似合わぬ優美な所作で、手にした蛮刀二振りと鋼鉄の盾とを、大きなヤシの幹のような、鱗の膝小僧の前へと整然と並べた。

 そして四本腕を前へやり、その四本指の恐ろしい鉤爪の付いた指先を礼儀正しく、金色の砂場へと、ツイとつき
 「お初にお目にかかりますぅ。ウチはアラシヤマと申しますぅ。
 そちらさんは何とお呼びしたらよろしおすか?」

 マリーナは益々調子を狂わされ
 「えっ?あ、えーと。アタシはマリーナだよ。
 アンタさ、何で座り込んで武器を置くんだい?」

 流木みたいなワニ頭のアラシヤマは、そこに三指をついたまま
 「かなしいけれど、御先祖様とアスラ様との契約は絶対にございますぅ。
 ですが、袖触れあうも何かの縁と申しますやろ?
 こうして立派な剣士はんのマリーナさんと差し向かうのも何かの縁やと思いまして。
 その数奇な巡り合わせに、ウチなりに礼を尽くさせて頂いたまでどす。
 ウチも先祖代々と続く、武家の家の娘どすよって、こーんな小さな頃から、お父ちゃんからは、果たし合いにおいては絶対に手を抜いてはアカン!と、それはそれは繰り返し言われて育ちました。
 せやから、これからえらいえげつない命の取り合いになるかもしれまへんが、何卒(なにとぞ)マリーナさんにも全力を出していただいて、共に剣士として素晴らしい果たし合いを全うしたいと、こう思うてますぅ」

 マリーナは、パチクリと何度も瞬きし
 「よ、よろしおすえー」
 としか言えなかった。
 
 こうして色々な諸事情が重なりあい、アラシヤマの言う通り、どうにもこうにも、この場での真剣を抜いての果たし合いは避けられないようであった。

 ギャラリー達は、どこまでも楚々(そそ)とした、お上品なアラシヤマと、それに戸惑うマリーナとのやり取りをじっと見つめていたが、はて、この妙な空気にどう反応してよいものか分からず、むしろシンプルな斬り合いをしてくれるという、この果たし合いへの流れが微妙に有り難かった。

 ただ、五千歳の女バンパイアだけは真紅の瞳を潤ませ、純白の睫毛(まつげ)まで濡らし、左の指鉄砲みたいにしたピンクのガントレットの指で、グリッと瞼(まぶた)を押さえつつ、さめざめと泣き
 「うむ。悲しいのう……じゃが、これも戦の習いじゃ。
 無駄乳の剣士マリーナよ、お前もいっぱしの剣士を名乗るのならば、ここは覚悟を決めて、全身全霊でその剣を振るえい!
 うむ!それこそが相手方への一番の礼節ぞ!!
 さぁ両勇とも立て!そして構えい!
 言わずもがな、決闘は後に恨みを残さぬが作法!
 マリーナよ!後の事は、万事わらわ等に任せ、獅子奮迅に闘い、そして見事相果てよ!!
 いざ尋常に、勝負じゃ!!」
 と、何やらジャンル違いの檄(げき)を飛ばし、勝負の仕切りまでこなしたという。

 生爪まで剥いで闇召喚を成した、玉座の聖女コーサは、この独特なノリに、完全においてけぼりを食らわされていた。


 さてさて、本日の演目はここまで。

 この後の、二人の女剣士の凄絶なる血煙必至の剣劇決闘譜は、また次回!!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...