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74話 みんなNo.2だった

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 左神官長リウゴウ達と女勇者達の9名は、仲良く揉めつつも、遂に大神殿の最上層"王の間"へと分け入った。

 そこは下層で見られた茶金の岩石床ではなく、一面が金無垢(きんむく)の間であり、巨大な層の外淵は大枠となっており、丸で大きな砂場、いや、燦然(さんぜん)たる、目も眩むような金色の砂漠然としていた。

 この大神殿の有頂天階、その広さを伝えるとすれば、それはコンビニで四件ほど、もしくは大型スーパーの屋上駐車スペースほどであった。

 その奥の四方の壁には、初夏の太陽と風とを取り込む、景観申し分のなきテラス、そしてそれを飾り付けるような南国の大少の花・植物が、亜熱帯の小規模な森のごとく繁っており、あまつさえ、そこには清らかな小川が引かれており、女勇者達の登ってきた反対側へと落ちる、清涼な小滝が形成されていた。

 その青々とした森林浴を背景に、階段口から玉座まで、その両側に純白の法衣、額に山伏(やまぶし)のごとき、眉間の中央が、ボコッと突き出た黒の鉢金(はちがね)、黒地に金で、全面に魔法語が刻まれた黄金の魔法杖を突いた上級老神官等が、等間隔で5人ずつに左右に分かれて立ち並んでいた。

 そして、その最奥は三段の雛壇の高みに、昇りかけた暁の朝日のごとき、半円型の放射線状にギザギザと黄金鰭(おうごんひれ)を伸ばした金屏風(きんびょうぶ)が置かれ、絢爛豪華にテラスから差し込む光を跳ね返し、正に太陽のごとく煌めいていた。

 そして、それを後光のごとく背から浴びながら、雛壇下にて裸足で黄金の寝椅子に座しているのは、フワリとした透き通る白い法衣に、金刺繍の飾り縫いの入った、オリーブ色の袖無しの僧服を重ね着した、額に宝珠の一点、マーキスカットのエメラルドが穿(うが)たれた、つるりとした黄金の仮面の人物。
 遂に対面、これぞ現人神(あらひとがみ)、聖コーサであった。

 その身体は、断じて80を越えた老女には見えず、痩躯(そうく)にして若々しく、正に生命力みなぎる少女のものであり、仮面の両端には、上部の尖った耳にエメラルドの垂れた耳飾り、その瀟洒(しょうしゃ)な金細工が眩(まば)い反射陽光に照らされ、緑に輝く長い黒髪と共に、早朝の涼風に揺れていた。


 その御前に人体模型のごとき、先の尖った白骨の足で砂金を踏みつつ、丁重に歩を進め、スッと片膝を落とし、恭(うやうや)しく大角鹿の頭を下げて、見事な謁見の型を取って見せたのは、左神官長リウゴウ。

 その斜め後方に、そっくりに身を屈めたのは、同じく毛皮も肉もない白頭、類人猿髑髏(おおざるどくろ)のガラサンタ、それと大鳥頭のレイバラであった。

 その三人の三角に少し離れた女勇者達も、ここは一先(ひとま)ずならっておけ、と砂漠に屈むことにした。

 さて、ここで最高位の緑髪の聖女が口を開いた。

 「我が子リウゴウ。挨拶は結構です。いつも通り、あなたの癖のある話し言葉は、私のこの耳に障(さわ)ります。
 よってガラサンタ、本日はあなたを代弁者とします。
 しかし……本日、公開処刑を予定していた偽勇者団の脱走に、持ち場である聖都の西半分を指揮し、陣頭に立って鋭意対応中であるはずのあなた達が、今なぜここにいるのです?
 東区では、その汚らわしき不貞(ふてい)の輩(やから)共の仲間と見られる、謎の黒甲冑の賊が反乱を指揮し、あろうことか警備の神官達に暴挙を振るい、それにより我が子バルコン、ジラールが圧死。
 そして教区巡回神父、右神官長ラアゴウは心停止と内腑(ないふ)の多発的な破裂が認められ、つい今いましがた、その死が確認されたようです……。
 なんという、なんということでしょう!!この私が直々に能(ちから)を与えた者共をよくも!よくも!」
 コーサは眩(まばゆ)い寝椅子の肘置きに、健康的で色白な少女の鉄槌を幾度も下ろし、ゴイン!ゴイン!と鳴らした。

 その側近の老神官等をも包み込む、狂おしき怒りに満ちた、沸き上がる嘆きの黒雲に、なぜか屈むことを止め、やおら突っ立ち、小さな腰に手をやって高らかに仰(の)け反り笑うものが居た。

 「ははははは!流石はドラクロワ様じゃ!!右神官長など、その敵ではなかったようじゃな!!
 いやいや、当然といえば、これぞ至極当然か。
 うむ!それを聞き、生まれついての武士(もののふ)たる、わらわの血がたぎりにたぎるわ!!
 これ、三色バカ団子!小芝居など即止めや、その剣を抜けぃ!!
 ほふぅっ!!わらわは逆(さか)流れに猛(たけ)る血に全身が粟立(あわだ)ち、もうじっとしておれん!!
 さぁ!我等も死闘を開始じゃ!!
 コーサとやら!貴様の害虫毒蛇のような、陰湿で、蛇蠍(だかつ)のごとく唾棄(だき)すべき悪行非道もここまでじゃ!!
 今、このカミラー副長率いる光の勇者団が裁きの鉄槌を落としてくれん!!
 いざ、尋常に葬られい!!」
 女バンパイアは突然の開戦を宣言し、白装束と銀の額あて、そして剛槍の矛先の鞘をひっ掴み、まとめて黄金砂漠へとかなぐり捨てたのである。

 これにはコーサの両脇に控えた、上級僧侶等も目を剥いて驚愕・唖然とし、金仮面の現人神も耳飾りを揺らした。


 「アンタねぇ……もうちょっと様子を見るとかなんとかさぁ……。
 ま、いっか?アタシの血もボッコボコいってるし。
 じゃ剣聖の副団長、このマリーナもやるよ!!
 コーサ!アンタにゃ恨みはないけど、光の勇者として、弱い者達相手に、ちっとやり過ぎたアンタは、どうあっても斬らなきゃならないね。
 うん、悲しいけどこれも正義なのよねー。あ、そーいやーアンタんとこの神官に乳揉まれたっけ?
 うん、あったわ恨み」
 マリーナも白装束を落とし、下着姿とそう変わらぬ、深紅の部分鎧、肌には刀傷だらけの長身を晒した。

 「もう。仕方ないですね!じゃあ光の勇者団の頭脳にして副将、私ユリアも戦います!!
 コーサさん!これ以上、罪も穢れもない信徒皆さんの信仰を弄(もてあそ)ぶのは許せません!!
 ハッキリ言って私、怒って、ます!!」
 サフラン色のミニスカート然としたローブも眩しい、小柄で、ややタレ目の愛らしい女魔法賢者も堂々と参戦の意を見せた。

 「ウフフフフ……では、この勇者団の鬼の副長、虚無の乙女こと、このシャンも全宇宙意志に従い、浅ましき我欲にまみれたお前を、今、無に還そう。
 そして時を経た彼(か)の日、必ずや我等と一体になろうではないか。ウフフフフ……」
 殆(ほとん)ど黒に迫る、深紫の革鎧の女アサシンは、すらりと伸びたスレンダーな身体を開き、猛毒・鳥兜(ウルフズベイン)の精製毒の紫に濡れそぼる、両手の必殺の暗殺小刀を煌めかせた。

 この哲学乙女、色んな意味で危険につき、極めて扱い注意である。


 「遠い昔に拾われたこの命、光の勇者ドラクロワ様と正義の為に捧げます。
 私は姉のビス」

 「私は妹のアン。以後お見知りおきを」

 双子の女神官戦士も、光沢のある灰銀のメイド服の裾から、ゴージャスなレモンパイのデコレーションのごとき、純白のフリルブリマを見せ、少し前に出たお澄まし顔で微笑み、揃って慇懃(いんぎん)に犬耳の頭を垂れたのである。

 尚も平伏していたリウゴウ達も、その骨の顔で驚き入って、思わず振り返った。

 そして、左神官長は感嘆のあまり
 「あいやぁ!!勇者様達かっこええ!!」
 と、やんやと乾いた骨の手を打ち鳴らし、思わず禁じられていた発言を漏らしたという。  
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