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48話 黄昏に総崩れ
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暗黒色の激走馬車がワイラーに着いたのは夕暮れ。
集中豪雨は霧雨程度に鎮まり、その城塞都市の名の通り、白亜の城壁がそびえ立つ野に残った大きな水溜まりが、曇り空を映した鉛色の鏡となって、四つの巨大な黒い馬体を下から照らした。
馬車から降り立った勇者一行を出迎えたのは、カミラーのアンデッドホースと比べれば、子馬にしか見えない乗馬の蹄から泥土を落とす、ワイラー北門の守り番達であった。
菱形を形成する陣立(じんだて)で迫る四騎士の内、先頭で滴の垂れる大盾を担ぐ男は、声から察するにまだ若者らしい。
身に纏った、いかにも清廉な人格者を思わせる純白のプレートメイルは、所々、鷹をモチーフにした板金羽飾りが印象的だった。
その美麗な兜のひさしを、カチン!と跳ね上げ、部下らしき脇の同じ装備等へ、警戒不要の合図か、その右の籠手を挙げ
「ユリア、ユリアじゃないか。光の勇者様は北へ出て行ったきりだったな。
勇者集結伝説の噂は届いているぞ。元気だったか?」
サフラン色のローブの女魔法賢者も短い手を上げ
「ダリウス!久し振りー!元気だったー?
この人達は仲間だよー。ちょっと先生の所に用があって寄ったんだー」
ダリウスと呼ばれた、ユリアの知り合いの白騎士は勇者一行を眺め
「そうか。この方々があの……フム、君の仲間なら問題ないな。
えーと……うん、7名か。ハハ、丁度女神様達と同じ数だな。
では、伝説の勇者様方には、一応名前だけここに記していただこうか。
君が出て半年か、変わりはないか?ハハ、ここは少しも変わらないよ。ここだけの話、相変わらず神官様達はうるさいしね。
うーん……うん、あの戦士殿の出で立ち……手続きはこっちで簡略化しておくから、夜警の始まる前に迅速に宿を取った方がいい」
ユリアは後ろの仲間達を振り返り、大きな水溜まりに不注意にも、バシャッ!と深紅のブーツを突っ込み、派手に跳ねた泥水に
「わあっ!びっくりしたー!」
と声を上げる、分かりやすい美人を見て
「えっ?ああ、マリーナさんか……。
うん、そうするね。ありがとうダリウス」
一行は書類に署名を求められたが、特に尋問の類いなどもなく、大陸王から授与された勲章が伝説の勇者の威光を発揮したので、ほとんど招かれるようにして門をくぐった。
城塞都市ワイラー。
そこは高層建築が整然と並ぶ、ゴミ一つない見当たらない、清潔で都会的な街だった。
故郷を案内しようと、ユリアが先に立って歩く。
「ここを出て半年位しか経ってないのに、なんだかスゴく懐かしい気がしますねー。あっ今晩はー!」
すれ違う通行人に会釈した。
七人は雨上がりの白い建物が並ぶ商店街を抜け、幾つか角を曲がると、ある宿屋兼酒場に辿り着いた。
この旅籠、名を「白鳩亭」といった。
やはり白亜の五階建てで、大きな館を思わせる豪華な宿だった。
一階の開け放たれた、半屋外の酒場にはすでに灯りが灯り、客が入っているようだ。
ユリアが皆を振り返り、ローブの細い腰に手をやり
「この宿は北区ではとっても評判がよくて、玉子と鶏の煮込み、それから、近くに陽当たり良好で、肥沃な畑を持つ店主さん自慢の果実酒、葡萄酒が絶品だと噂です。
私の住んでた近所なんですけど、一度は泊まってみたかったんですよねー。
ドラクロワさん、ここで大丈夫ですか?」
魔王は美しい顔を商店等の灯りに彩られながら、白く壮麗な宿を見上げ
「あの馬車は悪くないが、湯とベッドがないからな、それ等にありつけるなら俺は何処でもよい。
うむ、今宵はここで、ワイラー産の葡萄の味でもみておくか」
無関心を装いつつも、ユリアの宣伝文句はかなり効いたようだ。
その証拠に、魔王はそのまま淀みなく、真っ直ぐに酒場へと入ってゆく。
例のごとく、カミラーが「お供します」とその後をピンクの影のように追う。
ユリアは口に手を添えて、その暗黒色の背に向けて
「ドラクロワさーん!私は用を済ませてきますねー!?
フフフ……ドラクロワさん、ホントに葡萄が好きですねー。
じゃあ、アンさんとビスさん。私達は先生の所に行きましょうか!?
マリーナさんとシャンさんは、あっち、ドラクロワさんと同じ班ですかー?」
ライカンの双子はうなずいて、待ってましたと、信仰心と知識欲の入り混じった顔になった。
マリーナは、チラッと隣のシャンを見て
「ど、どうする?ユリアのお師匠さんがいるんならさ、いちおー挨拶しといた方が、いいよね?」
シャンは目を瞑ってマスクを波立たせ
「フフフ……マリーナ、お前が夕刻のエール酒を我慢して、常識を優先させるとはな。
この旅で一番の成長じゃないか?」
マリーナは頬を掻き、照れたような笑いを浮かべ
「えっ!?ヤッパリそう思ったー?ま、アタシもアレ、伝説の勇者様だからさ、少しはねぇ?」
ユリアは杖を腋に、カラカラと笑って掌を合わせ
「ウフフ。マリーナさん偉いです!
アンさんビスさん、あのですねー、マリーナさんはエール酒がなによりも大好きですからねー、これはホントにスッゴいことなんですよー?
ウフフフフ。でも大丈夫ですよ!先生も負けないくらいお酒が大好物ですから、久し振りだし、そこでご馳走してもらうことにしましょう!
そうだなー、折角だから、私もちょーっとだけいただこうかな?お酒」
女戦士と女アサシンは目を剥いて
「アンタは絶!対!ダメ!!」
「お前は止めておけ!!」
ユリア、アンとビスは、二人のもの凄い剣幕にキョトンとした。
ユリアは酒乱の自覚も記憶もないらしく、釈然としない顔で、急速に暗くなってゆく夕空を見上げ
「さぁ、それじゃあ早く向かいましょうか。
なにやら夜警の神官様達の取締は厳しいと、よく噂に聞きましたので。
私は夜間に出歩いたことはないので、直接お会いしたことはないんですけどね」
マリーナは恨めしそうに白鳩亭の灯りを見ながら喉を鳴らし
「へぇ、そうなのかい?でもさー、まだ夕方だよ?」
その時、女勇者達は後方から数個のカンテラで照らされた。
「そこの見ない顔共、旅の者達か!?動くな!」
それは男の声だった。
見れば、大人の拳大の鉄球に柄の棒を刺した、鋼鉄の片手用打撃武器、モーニングスターを腰にぶら下げた、白い服に軽装鎧の神官らしき白ターバンが五人いた。
明らかに、夜間警護の見回りといった威圧感がここまで漂ってくる。
その男達は、ワラワラと一行に近付き、ほぼ半裸の女戦士、マリーナを取り囲むように集まり、カンテラでその美しい顔を照らす。
女戦士は手をかざし、眩しそうに顔をしかめ
「えっ?アンタ達何?」
そのカンテラ持ち等のリーダーらしき、頭のターバンの先を尖らせるように巻いた、シャンのマスクの白い版で鼻まで覆い、アイラインを目尻上まで跳ねさせた痩身の男が、眼光鋭く金髪碧眼女の深紅のチェストアーマーを睨み付け
「おい貴様!この聖都でなんたる破廉恥な格好をしておるか!?
女神聖典、太陽の書、第7章12節。女人とは常に慎ましくあり、男を扇情するがごとき肌の露出を避け、これ長衣(ながぎぬ)にて覆うべし、を知らんとは言わせんぞ!!」
この男、いきなり現れて狂おしいほどに怒り心頭であった。
その隣、異様に頭の大きな巨漢ターバンが、ズイッと前に出て、突然マリーナの左肘を掴んで強く引き
「若様!こ奴!よくよく見ればまだまだ小娘ですぞ!?
うー!けしからん!けしからん!けしからーん!
ここは我等にお任せあれ。この娘、情欲を煽り、人心を惑わしたとして、詰所にてとっくりと神罰を与えてやりますわ!」
顎髭の大男は鼻息も荒く顔面を紅潮させ、太い眉の下で燃える瞳でマリーナを見下ろした。
女戦士はそれをキッと睨み上げ
「ちょっと!アンタいきなりなにすんだい!?
い、痛いよ!!アタシは肌が弱くてさ、全身鎧は蒸れてかぶれるから苦手なんだよ!
大体さー、アタシは何処でもこれで通してるけど、文句なんか言われたことないよ!?
うわわわわっ!?だーから痛いってばー!!」
大柄な体を反らし、男の剛腕から逃れようと身をよじるが、更にその腕を捻り上げられ、左肩に激痛が走る。
頭の大きなターバン男はカンテラを仲間に預け、空いた右手で後ろからマリーナの素肌の腹を抱き寄せ、そのままその毛深い手を這わせるや、その上の深紅の部分鎧の巨大なバストの左を鷲掴みにし
「ぬふふ……この破廉恥娘めぇー!天罰じゃあ天罰じゃあ!」
熱く臭い息をマリーナのうなじへと吹きかけた。
マリーナは目を剥いて
「ちょっ!?何すんだい!!?くっ!!この!!ヤメロー!!」
反射的に深紅のブーツの左かかとで、男の黒サンダルの足の甲を踏みつけようとしたが、男はそれを読んだか、サッと足を交わしたので、マリーナは地面を、ドンッ!と踏み鳴らしただけであった。
大きな頭の男は、平然とシルクのズボンの太い脚をマリーナの右膝辺りに巻き付け、バターン!と斜め掛けに背負った大剣ごと女戦士を前に押し倒し、後ろから体重を掛けてのしかかり、その高く結った金髪の襟足を、グイッ!と押さえ付けてマリーナをうつ伏せに地に組伏せた。
その一連の動作は、明らかに訓練された組技の動きだった。
マリーナは倒れかかる二人分の体重を利用され、その両肩を外されたようで、泥土の付いた顔を横にして絶叫する。
ユリアは目を円くし
「や、止めて下さい!!あなた方は何ですか?夜間警備の神官様にしてもやり過ぎですよ!!
私達は許可をもらってここにいます!直ぐにその手を放して下さい!!」
この娘らしくなく、大きな頭のターバンに猛然と詰め寄った。
ゴチャッ!!
至近まで寄った小柄なユリアが仰け反る。
なんと、マリーナへ屈み込んだ大男は垂木のような剛腕の肘打ちを、少女の顔面へと一切の遠慮もなく、思い切りめり込ませたのであった。
その骨をも砕く一撃に、鼻血を噴き上げながら後方に倒れるユリア。
シャンが迅雷の動きで小刀を抜いて、その男の後ろへ回り込み、その髭の喉元に突き付け
「貴様!どういうつもりだ!?突然現れて旅人に暴行するのが貴様の務めか?今すぐその女を放せ!ぐがっ!!」
ゴツン!!と鈍い音がして、女アサシンは糸で引っ張られるように真横に倒れた。
その後ろには、鋼の鈍器を振り下ろしたままの姿勢で、白ターバンの仲間が立っていた。
アンとビスは突然の暴挙に唖然としていたが、顔から全ての表情を消し、フォンフォンと鋼の六角棍を回して構えた。
人生経験は三十路の双子、その姉のビスが、直ぐに突きを放てるように棍を構え、アンがその背に自らの背を付けて死角を無くす。
ビスが前に伸びた美しい顔を夕闇に影にし
「あなた方は七大女神様の神官ではないのですか?なぜこんなことをするのです?」
氷のように冷たい声で問うたとき、その突き立てた漆黒の犬耳に、聞き慣れた神聖語が響く。
振り返ると、そのフレーズは先ほど「若様」と呼ばれた、アイラインのリーダー格の男の口から洩れていた。
アンが、その他人を呪うような癖のある念呪に驚愕する。
「そ、それは!?ま、正か、失われた禁術、戦神の光華刃!?
や、止めて下さい!!こんな人の密集した所でそれは危険過ぎます!」
リーダー格の男の複雑に組み合わせた左右の手指から虹色の光が溢れ、放射線状に広がりつつ回転を始める。
その光の帯は回るにつれて、菊の花弁のごとく無数に分裂、立体化、具現化して、発光する眩い刃となって夕闇に爆発的に飛び散った。
大きな頭の男が金の髪束を掴んで持ち上げ、眼前に盾とした、汚れて呻くマリーナへ、倒れたユリア、シャンの身体へと、そのガラスのような1メートル半ほどの柄のない諸刃の剣が音もなく突き立ってゆく。
アンとビスは咄嗟に後方へ跳び、各々の棍を激回転させ、危なげなく防御の型へと転じた。
数が多いとはいえ、併せて三十年近くの訓練に裏打ちされた、棍術格闘の達人である狼犬のライカン姉妹にとっては、単純な直線運動で飛来する、この程度の大きな投擲武器を叩き落とすこと等は造作もなく、全く脅威ではなかった。
褐色のビスは防御の方は手首に任せ、油断なくターバン男達を見据え、次の戦略を組み立てる。
アンに至っては、女勇者達の為の治療呪文の詠唱を始める余裕さえあった。
だが……。
なんと、この光刃は半物質であり、鋼の六角棍ではそれを弾くどころか、なんの手応えさえも得られず、ただ真っ直ぐに防御の風車を素通りして飛んで来た。
二人は驚愕の顔で、精神に刃の侵入と、そこから急激に気力が喪失してゆくのを感じながら、同時に敗北を予感した。
倒れる双子の視界には、大地にカンテラを置いた残りのターバン二人が、同じ閃光の回転刃を別角度から輝かせていたからだ。
この古代神聖魔法時代の外法、禁術・戦神の光華刃とは、物理的に相手の肉体を切り裂く無限の刃ではなく、敵の精神に深く突き刺さり、そこへ深く根を張って、気力と精神力を吸い上げて衰弱させ、それにより対象を無力化させるという、捕縛緊縛を目的とした高レベルな精神魔法であった。
アンは必死で神聖魔法の防壁(バリアー)を発現させようと、朦朧としながらも無意識に詠唱を開始していたが、ターバン男達はそれを待たず、無数の精神崩壊の光剣がそこへ殺到した。
集中豪雨は霧雨程度に鎮まり、その城塞都市の名の通り、白亜の城壁がそびえ立つ野に残った大きな水溜まりが、曇り空を映した鉛色の鏡となって、四つの巨大な黒い馬体を下から照らした。
馬車から降り立った勇者一行を出迎えたのは、カミラーのアンデッドホースと比べれば、子馬にしか見えない乗馬の蹄から泥土を落とす、ワイラー北門の守り番達であった。
菱形を形成する陣立(じんだて)で迫る四騎士の内、先頭で滴の垂れる大盾を担ぐ男は、声から察するにまだ若者らしい。
身に纏った、いかにも清廉な人格者を思わせる純白のプレートメイルは、所々、鷹をモチーフにした板金羽飾りが印象的だった。
その美麗な兜のひさしを、カチン!と跳ね上げ、部下らしき脇の同じ装備等へ、警戒不要の合図か、その右の籠手を挙げ
「ユリア、ユリアじゃないか。光の勇者様は北へ出て行ったきりだったな。
勇者集結伝説の噂は届いているぞ。元気だったか?」
サフラン色のローブの女魔法賢者も短い手を上げ
「ダリウス!久し振りー!元気だったー?
この人達は仲間だよー。ちょっと先生の所に用があって寄ったんだー」
ダリウスと呼ばれた、ユリアの知り合いの白騎士は勇者一行を眺め
「そうか。この方々があの……フム、君の仲間なら問題ないな。
えーと……うん、7名か。ハハ、丁度女神様達と同じ数だな。
では、伝説の勇者様方には、一応名前だけここに記していただこうか。
君が出て半年か、変わりはないか?ハハ、ここは少しも変わらないよ。ここだけの話、相変わらず神官様達はうるさいしね。
うーん……うん、あの戦士殿の出で立ち……手続きはこっちで簡略化しておくから、夜警の始まる前に迅速に宿を取った方がいい」
ユリアは後ろの仲間達を振り返り、大きな水溜まりに不注意にも、バシャッ!と深紅のブーツを突っ込み、派手に跳ねた泥水に
「わあっ!びっくりしたー!」
と声を上げる、分かりやすい美人を見て
「えっ?ああ、マリーナさんか……。
うん、そうするね。ありがとうダリウス」
一行は書類に署名を求められたが、特に尋問の類いなどもなく、大陸王から授与された勲章が伝説の勇者の威光を発揮したので、ほとんど招かれるようにして門をくぐった。
城塞都市ワイラー。
そこは高層建築が整然と並ぶ、ゴミ一つない見当たらない、清潔で都会的な街だった。
故郷を案内しようと、ユリアが先に立って歩く。
「ここを出て半年位しか経ってないのに、なんだかスゴく懐かしい気がしますねー。あっ今晩はー!」
すれ違う通行人に会釈した。
七人は雨上がりの白い建物が並ぶ商店街を抜け、幾つか角を曲がると、ある宿屋兼酒場に辿り着いた。
この旅籠、名を「白鳩亭」といった。
やはり白亜の五階建てで、大きな館を思わせる豪華な宿だった。
一階の開け放たれた、半屋外の酒場にはすでに灯りが灯り、客が入っているようだ。
ユリアが皆を振り返り、ローブの細い腰に手をやり
「この宿は北区ではとっても評判がよくて、玉子と鶏の煮込み、それから、近くに陽当たり良好で、肥沃な畑を持つ店主さん自慢の果実酒、葡萄酒が絶品だと噂です。
私の住んでた近所なんですけど、一度は泊まってみたかったんですよねー。
ドラクロワさん、ここで大丈夫ですか?」
魔王は美しい顔を商店等の灯りに彩られながら、白く壮麗な宿を見上げ
「あの馬車は悪くないが、湯とベッドがないからな、それ等にありつけるなら俺は何処でもよい。
うむ、今宵はここで、ワイラー産の葡萄の味でもみておくか」
無関心を装いつつも、ユリアの宣伝文句はかなり効いたようだ。
その証拠に、魔王はそのまま淀みなく、真っ直ぐに酒場へと入ってゆく。
例のごとく、カミラーが「お供します」とその後をピンクの影のように追う。
ユリアは口に手を添えて、その暗黒色の背に向けて
「ドラクロワさーん!私は用を済ませてきますねー!?
フフフ……ドラクロワさん、ホントに葡萄が好きですねー。
じゃあ、アンさんとビスさん。私達は先生の所に行きましょうか!?
マリーナさんとシャンさんは、あっち、ドラクロワさんと同じ班ですかー?」
ライカンの双子はうなずいて、待ってましたと、信仰心と知識欲の入り混じった顔になった。
マリーナは、チラッと隣のシャンを見て
「ど、どうする?ユリアのお師匠さんがいるんならさ、いちおー挨拶しといた方が、いいよね?」
シャンは目を瞑ってマスクを波立たせ
「フフフ……マリーナ、お前が夕刻のエール酒を我慢して、常識を優先させるとはな。
この旅で一番の成長じゃないか?」
マリーナは頬を掻き、照れたような笑いを浮かべ
「えっ!?ヤッパリそう思ったー?ま、アタシもアレ、伝説の勇者様だからさ、少しはねぇ?」
ユリアは杖を腋に、カラカラと笑って掌を合わせ
「ウフフ。マリーナさん偉いです!
アンさんビスさん、あのですねー、マリーナさんはエール酒がなによりも大好きですからねー、これはホントにスッゴいことなんですよー?
ウフフフフ。でも大丈夫ですよ!先生も負けないくらいお酒が大好物ですから、久し振りだし、そこでご馳走してもらうことにしましょう!
そうだなー、折角だから、私もちょーっとだけいただこうかな?お酒」
女戦士と女アサシンは目を剥いて
「アンタは絶!対!ダメ!!」
「お前は止めておけ!!」
ユリア、アンとビスは、二人のもの凄い剣幕にキョトンとした。
ユリアは酒乱の自覚も記憶もないらしく、釈然としない顔で、急速に暗くなってゆく夕空を見上げ
「さぁ、それじゃあ早く向かいましょうか。
なにやら夜警の神官様達の取締は厳しいと、よく噂に聞きましたので。
私は夜間に出歩いたことはないので、直接お会いしたことはないんですけどね」
マリーナは恨めしそうに白鳩亭の灯りを見ながら喉を鳴らし
「へぇ、そうなのかい?でもさー、まだ夕方だよ?」
その時、女勇者達は後方から数個のカンテラで照らされた。
「そこの見ない顔共、旅の者達か!?動くな!」
それは男の声だった。
見れば、大人の拳大の鉄球に柄の棒を刺した、鋼鉄の片手用打撃武器、モーニングスターを腰にぶら下げた、白い服に軽装鎧の神官らしき白ターバンが五人いた。
明らかに、夜間警護の見回りといった威圧感がここまで漂ってくる。
その男達は、ワラワラと一行に近付き、ほぼ半裸の女戦士、マリーナを取り囲むように集まり、カンテラでその美しい顔を照らす。
女戦士は手をかざし、眩しそうに顔をしかめ
「えっ?アンタ達何?」
そのカンテラ持ち等のリーダーらしき、頭のターバンの先を尖らせるように巻いた、シャンのマスクの白い版で鼻まで覆い、アイラインを目尻上まで跳ねさせた痩身の男が、眼光鋭く金髪碧眼女の深紅のチェストアーマーを睨み付け
「おい貴様!この聖都でなんたる破廉恥な格好をしておるか!?
女神聖典、太陽の書、第7章12節。女人とは常に慎ましくあり、男を扇情するがごとき肌の露出を避け、これ長衣(ながぎぬ)にて覆うべし、を知らんとは言わせんぞ!!」
この男、いきなり現れて狂おしいほどに怒り心頭であった。
その隣、異様に頭の大きな巨漢ターバンが、ズイッと前に出て、突然マリーナの左肘を掴んで強く引き
「若様!こ奴!よくよく見ればまだまだ小娘ですぞ!?
うー!けしからん!けしからん!けしからーん!
ここは我等にお任せあれ。この娘、情欲を煽り、人心を惑わしたとして、詰所にてとっくりと神罰を与えてやりますわ!」
顎髭の大男は鼻息も荒く顔面を紅潮させ、太い眉の下で燃える瞳でマリーナを見下ろした。
女戦士はそれをキッと睨み上げ
「ちょっと!アンタいきなりなにすんだい!?
い、痛いよ!!アタシは肌が弱くてさ、全身鎧は蒸れてかぶれるから苦手なんだよ!
大体さー、アタシは何処でもこれで通してるけど、文句なんか言われたことないよ!?
うわわわわっ!?だーから痛いってばー!!」
大柄な体を反らし、男の剛腕から逃れようと身をよじるが、更にその腕を捻り上げられ、左肩に激痛が走る。
頭の大きなターバン男はカンテラを仲間に預け、空いた右手で後ろからマリーナの素肌の腹を抱き寄せ、そのままその毛深い手を這わせるや、その上の深紅の部分鎧の巨大なバストの左を鷲掴みにし
「ぬふふ……この破廉恥娘めぇー!天罰じゃあ天罰じゃあ!」
熱く臭い息をマリーナのうなじへと吹きかけた。
マリーナは目を剥いて
「ちょっ!?何すんだい!!?くっ!!この!!ヤメロー!!」
反射的に深紅のブーツの左かかとで、男の黒サンダルの足の甲を踏みつけようとしたが、男はそれを読んだか、サッと足を交わしたので、マリーナは地面を、ドンッ!と踏み鳴らしただけであった。
大きな頭の男は、平然とシルクのズボンの太い脚をマリーナの右膝辺りに巻き付け、バターン!と斜め掛けに背負った大剣ごと女戦士を前に押し倒し、後ろから体重を掛けてのしかかり、その高く結った金髪の襟足を、グイッ!と押さえ付けてマリーナをうつ伏せに地に組伏せた。
その一連の動作は、明らかに訓練された組技の動きだった。
マリーナは倒れかかる二人分の体重を利用され、その両肩を外されたようで、泥土の付いた顔を横にして絶叫する。
ユリアは目を円くし
「や、止めて下さい!!あなた方は何ですか?夜間警備の神官様にしてもやり過ぎですよ!!
私達は許可をもらってここにいます!直ぐにその手を放して下さい!!」
この娘らしくなく、大きな頭のターバンに猛然と詰め寄った。
ゴチャッ!!
至近まで寄った小柄なユリアが仰け反る。
なんと、マリーナへ屈み込んだ大男は垂木のような剛腕の肘打ちを、少女の顔面へと一切の遠慮もなく、思い切りめり込ませたのであった。
その骨をも砕く一撃に、鼻血を噴き上げながら後方に倒れるユリア。
シャンが迅雷の動きで小刀を抜いて、その男の後ろへ回り込み、その髭の喉元に突き付け
「貴様!どういうつもりだ!?突然現れて旅人に暴行するのが貴様の務めか?今すぐその女を放せ!ぐがっ!!」
ゴツン!!と鈍い音がして、女アサシンは糸で引っ張られるように真横に倒れた。
その後ろには、鋼の鈍器を振り下ろしたままの姿勢で、白ターバンの仲間が立っていた。
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氷のように冷たい声で問うたとき、その突き立てた漆黒の犬耳に、聞き慣れた神聖語が響く。
振り返ると、そのフレーズは先ほど「若様」と呼ばれた、アイラインのリーダー格の男の口から洩れていた。
アンが、その他人を呪うような癖のある念呪に驚愕する。
「そ、それは!?ま、正か、失われた禁術、戦神の光華刃!?
や、止めて下さい!!こんな人の密集した所でそれは危険過ぎます!」
リーダー格の男の複雑に組み合わせた左右の手指から虹色の光が溢れ、放射線状に広がりつつ回転を始める。
その光の帯は回るにつれて、菊の花弁のごとく無数に分裂、立体化、具現化して、発光する眩い刃となって夕闇に爆発的に飛び散った。
大きな頭の男が金の髪束を掴んで持ち上げ、眼前に盾とした、汚れて呻くマリーナへ、倒れたユリア、シャンの身体へと、そのガラスのような1メートル半ほどの柄のない諸刃の剣が音もなく突き立ってゆく。
アンとビスは咄嗟に後方へ跳び、各々の棍を激回転させ、危なげなく防御の型へと転じた。
数が多いとはいえ、併せて三十年近くの訓練に裏打ちされた、棍術格闘の達人である狼犬のライカン姉妹にとっては、単純な直線運動で飛来する、この程度の大きな投擲武器を叩き落とすこと等は造作もなく、全く脅威ではなかった。
褐色のビスは防御の方は手首に任せ、油断なくターバン男達を見据え、次の戦略を組み立てる。
アンに至っては、女勇者達の為の治療呪文の詠唱を始める余裕さえあった。
だが……。
なんと、この光刃は半物質であり、鋼の六角棍ではそれを弾くどころか、なんの手応えさえも得られず、ただ真っ直ぐに防御の風車を素通りして飛んで来た。
二人は驚愕の顔で、精神に刃の侵入と、そこから急激に気力が喪失してゆくのを感じながら、同時に敗北を予感した。
倒れる双子の視界には、大地にカンテラを置いた残りのターバン二人が、同じ閃光の回転刃を別角度から輝かせていたからだ。
この古代神聖魔法時代の外法、禁術・戦神の光華刃とは、物理的に相手の肉体を切り裂く無限の刃ではなく、敵の精神に深く突き刺さり、そこへ深く根を張って、気力と精神力を吸い上げて衰弱させ、それにより対象を無力化させるという、捕縛緊縛を目的とした高レベルな精神魔法であった。
アンは必死で神聖魔法の防壁(バリアー)を発現させようと、朦朧としながらも無意識に詠唱を開始していたが、ターバン男達はそれを待たず、無数の精神崩壊の光剣がそこへ殺到した。
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特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
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とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
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異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
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神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
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グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
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