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第一話 氷多目で! 4/4

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 自然と息が荒くなった。

 2分感ほど、何だこりゃ!何だこりゃ!と、どこかの部族の祭の様に、狭い部屋を万歳しながらグルグル回る。


 ようやく少し落ち着いた?とこで左手の指を開き、天井に向けた。

 もーいい!ちくしょー!!こーしてやる!

 息を止めると、マシンガンの様に手から飛び出す氷を頭に描いた。


「おらー!出ろー!出てみろー!!」

  
  多分血走った目で開いた左掌の甲を見た。

     ……1秒、2秒、3秒。

 出ない!
      「あれ?!」

はぁ?やっぱり気のせいでしたー、か?!

       
 うぬぅー……。


 まぁ、ビリヤード玉みたいなの出たけど、アレだろ?

 昨今、異常気象とか多いし!
さっきのはそういう、なんつーの?局地的な気温の低下ってーの?

 うん、俺は上手く説明できないけど、何かのアレだ!
うんアレだ!そうアレだよ!アレアレ!


 両拳を握って、何故かガッツポーズをした。

       その直後!

  弾かれるように左掌が内側から解放!
   狂ったように氷が床に溢れた!

   「かかかかか!待って待って!
    ちょっと待って!!!!」

 左手首を押さえ付け、叫ぶが奔流は止まらない!
正に狂った製氷機である。

  「おがぁー!!何だっこりゃー!」

 氷の雪崩(なだれ)は30秒程で静かになった。
が、足元は氷の小山である。


 はぁ……。
何か驚くのに飽きた……。

 つーか疲れた……。


 俺は呆然とソファに沈み、天井を仰ぎ、タメ息を吐いて、首のタオルを氷の小山の上に敷き、そっと足を乗せた。


 冷てぇ……。


 「ふーん……」

 参った!
俺の敗けだ! 俺の手は、あの謎外国人に千切られて、もがれて、見掛けは普通だが、不思議な手にすげ替えられた!

 うん、もう参った!
これからの人生は人間製氷機として生きていくよ!


 おっ?!
俺バイト居酒屋だし最高じゃん?!

 おい!ウーロンハイ!

 へい、ただ今!!
ふん!ハイお待ち!ウーロンハイ氷多目でー!!

 ……って、氷多目って何だよ?!
自分で自分にツッコミながらソファにそっくり反った。

    ん?ちょっと待てよ?

 俺は製氷機だけの人生なのか?

       いやだ!

 どっか就職して、今度入った新人の河村なんですがね、手品が出来るんですよ!

 おい!河村!ちょっとアレ出してみろ!

       ハイッス!

 ここにありますホットコーヒーが、あら不思議!
       
 ふん、はぁっ!
あっという間にアイスコーヒーに!
へい!お待ち!アイスコーヒー氷多目で!……。


 「ぐぬぬぬぬ……カッコ、悪い……」

 間抜けなリクルートスーツ姿の自分を想像した。

 馬鹿馬鹿しいかも知れないが、人間、パニックになるとこんなもんだ……。


 いやいや!製氷機は嫌だ!
もっとこーさぁ……。


 「ふーん……フンフン。」
俺は腕を組んで、独りうなずく。

 じゃあさ、ここは氷に拘らず、色々やってみましょう!

 と、その前にやけに喉が乾く、腹も減ったな。


 その後の俺は、我ながら恐ろしい程の旺盛な食欲を見せ、冷蔵庫を空にした。

 備蓄していた冷凍食品も、残らず胃に投下したのだ。
こんなに食べたのはいつぶりだろう?


 ソファーの足下の氷群を湯船に待避させ、床を拭きながら、ボンヤリと考える。

 ん?
もしかして、製氷すると何かエネルギーを使うのか?

 んー……。
まぁ分からん!


 そうだ!今はそれより、俺が人間製氷機止まりかを確かめなくては!


 よーし!じゃあ早速やるか!

 う~ん、氷はもう良いから……。
ふーん、どーせならここは一発、全くベクトルの変わったものをだなー。

 そーだなー、ここは大胆に生物、いってみるかー?


 よーし!掌を開いたままだと駄目みたいだから……。
う~ん、よーし!


 蛙だ!デカイのはマジグロだから、雨蛙の赤ちゃん!
よし!決めた!

       
      「ふーん!」


 ん?おー!来た来た!
何かヌルッとトクントクンしてるぞ!これはー?!!

 うおー!来た!雨蛙だーーー!


 指を開くと小さいのと目が合った。

 よーし!よーし!よーし!
とりあえず製氷機人生は免れたみたいだぞ!!

 
 んー、じゃあ次はー……。

 ここで俺は悪い顔になったと思う。


   「掌大のダイヤ、か?!」

 そーだなー!これで俺の貧乏奨学金負債人生から脱出だ!!

 えっーと、ダイヤダイヤと……。

 
      「ん?」
      待てよ俺。


 ここでデカいダイヤ出しても、どっかに売りに行かなきゃならないし。

 売りに行った先で、コレどうやって手に入れたの?って、聞かれるだろうしなぁ……。


 エジプト辺りでちょっとー、とか。
実はコレ、ばあちゃんの形見でしてー、とか言えないよなー……。

 第一、どこで売るんだろ、そーいうラスボスクラスのダイヤ……。
相場も分かんないし……。
んー、困ったなー。


        はっ!


 この時、左の耳辺りで悪魔が囁いた……。


 「か、金を出せば良いじゃねーか!」

 そうだよ!
わざわざ、なにも宝石なんかでワンクッション置かなくてもいいんじゃねーの?!

 そう!ダイレクトに金(かね)を出すんだよ!

 よし!決めた!掌大のカネ!


 俺は邪悪な笑みを浮かべ、五百円硬貨を必死にイメージした。


 まぁ出るわ出るわ、テーブルはたちまち五百円玉で敷き詰められた。


 うおーーー!!来たぁあああ!!
俺は秒速で五百円稼ぐ男だー!と叫びながら左手首を押さえ付けた。


 ふーん。とりあえず、まぁこれくらいで良かろう。

 無数の硬貨の輝きが、俺に興奮と妙な落ち着きを同時にもたらした。


 あーコレ、凄い事になったぞ!

 しかし、これ持って家賃とか払いに行くのもなぁ……。


 銀行に持っていって、一旦振り込んでー……。

 んー……あやしがられるなぁ、間違いなく。

 銀行員とか警備の人から、あ!またミスターコイン来た!
とか、変なアダ名とか付けられるだろうなぁ……。


 その時だ、俺の左の耳たぶを悪魔王ルシファーが、熱い舌で転がした。


 俺はさっきよりずっと邪悪な笑みを浮かべ、目を閉じ、あるものを必死にイメージした。


 そして左手は何かを握った!

 頼む!出てくれ!
祈るように固くまぶたを閉じ、掌を開いた。


        そう!

 折り畳まれた一万円札の、あの人物と目が合ったのだ!!

      やったーー!!!!

 遂にやったのだ!俺は勝った!やったのだ!
いつか何かを仕出かす男とは思っていたが、遂にやってやった!!


 続けざまに100回程繰り返し、成果を広げながら、うっとりとした。

 すかしもOK!製造番号も色々変えてみた。
まあ、怪しまれる程に散財しなければ、徹底的に調べられる事もあるまい。


 で、冒頭に戻る、というわけだ。


 まだ恍惚としながら、今までカビ臭い居酒屋で、僅かな時給のために、バカ店長のワキガに臭覚をやられながら頑張った、ほんの昨夜までの自分を想う。


 俺は据わった目で冷蔵庫から缶ビールを出し、空けた。

 さっきまでの禁酒の誓い?
ふん、古今東西、二日酔いの最たる紛らわし方は迎え酒なのだ!

 それにこの奇跡の幸せを前に祝杯を上げず、いつ上げるのか?!


 俺は夢見心地でボンヤリとしていた。

  その時、玄関のチャイムが鳴った!

 その後のノックの連打で、俺の中の後ろ暗い気持ち、
そう、罪悪感が爆発!沸騰!溢れだした!


        ヤバイ!

 瞬間的に何かに怯えた。

 と、と、と、とりあえず、こ、この金を隠さねば!!

 焦って震える手で、金を手近のスポーツバッグに放り込んだ。

 玄関はノックじゃなく、乱打になっていく!


 アルコール漬けで完全に麻痺していた脳が、極めて急速に冷え冷えと覚め、冴えていった。


       だ、誰だ?!!!
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