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底知れぬ人 3

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(アレクサンドラ視点)


「相手は人ではないのだぞ?庇う相手は魔族。お前なら出来るか?あの時のカイザー殿相手に知り合いでもなければ人間でもない相手を庇おうと進み出ることが」

「無理ですね。庇う相手が貴方様ならこの命を賭してでも進み出ますが」

「いえ、あの…私を恐怖の象徴みたいな前提で語るの止めて下さいませんか?」

 カイザー殿が何とも言えない表情でおずおずと手を上げた。

 シリウスと二人で無言で眼の前の相手を眺める。

 こうして見ているととても竜を制してみせたとは思えない。
 むしろその手に武器を握ることはおろか、荒事とは無縁に見える。

 人間離れした美貌と浮世離れした高貴な雰囲気に一種の気後れのようなものを与えることはあれど、穏やかな表情も滲み出る品格も威圧感とはまるで別種のものだ。

 強いのは知っていた。
 意外すぎるその実力は合宿の折りに、充分すぎるほどに見せつけられた。

 だけど、あの瞬間。

 黒竜相手に怯まぬどころか威圧すらしてみせた彼には、上位の魔族すらも従わせる程の覇気があった。
 誰もが息を潜め、言葉すら差し挟めぬ程の圧倒的上位者を前にしたような。

「カイザー殿はよくわからぬ御仁だな」

 ぽつりと漏れた言葉に隣で頷く気配を感じた。

 公爵家の嫡男でありながら、その家督はつい先日ガーネストが正式に継いだ。
『無能』と噂され、貴族以外との間に出来た子だという噂もあるらしいが…眼の前の貴人然とした彼を見てとても信じられるものではない。どう考えたってその血の一滴すら高貴な生まれ。

 前当主である御父上は自分の子だと公言し、尚且つガーネストたちの話ではカイザー殿は御父上と御母上、両者の容姿と雰囲気を色濃く受け継いでいるらしい。

 それにも関わらず彼は神殿で『無能』の判定を受け、かつ、当の本人はそのことも噂も気にしたそぶりさえない。

 “「カイザー様が異能をお持ちでないのは異能など必要とされないだけです」”

 不意に彼の従者がいっていた言葉を思い出す。
 そしてそれは事実なのだろうと思う。

 異能などなくともカイザー殿が優秀などという言葉で片付けられない程に有能な存在であることはこの数カ月だけでも充分過ぎるほど理解した。

 まぁ、そんな底知れぬ御仁だという認識があっただけに、カイザー殿がリリーを何とも思っていないと聞いて随分と心が晴れた。

 ……リリーが彼のことをどう思っているかは定かではないが。

 カイザー殿はリリーが自分のことを好きなわけではないと言っていたが、リリーが時折彼のことを気にしているのを見かけたし、メイドと彼を廻って争っていたとの話もある。

 カイザー殿曰く、そのメイドとは恋心などではなく謎のライバル心を燃やし合っているだけだと聞かされたが…よくわからん。

 ちらり、と再び眼の前の麗人を盗み見た。

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