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底知れぬ人 1

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(アレクサンドラ視点)


「いつからリリー様のことを?」

 まさか一目惚れですか?それともあの合宿の時に?矢継ぎ早に問いかけながら身を乗り出してくるシリウスの顔面を片手で掴む。近い。

 どうやら余に好きな相手がいることが余程意外だったようだ。喰い付きが凄い。

「で?」

 すみませんと身を引いたシリウスはそれでも質問を止める気はないらしく、すぐさま返答を求めてきた。
 向かいのソファにはカイザー殿が困ったような微笑を浮かべて余たちを眺めていた。

 数時間前の予想外すぎる質問に驚いて、再び訪れた音楽準備室。

 気付かれているとは思わなかった。

 現に常に傍に居るシリウスだってこうして驚きを露わにしてる。
 シリウスの顔を掴んだのとは逆の手で自らの額を覆う。

「学園祭の時だ」

 ぱちり、と意外そうにシリウスが瞬いた。

 まぁ、学園祭では余の恰好いい姿が見たいと模擬戦に出場を頼まれたりしたが休憩時間に少し話した程度だしな。
 共に過ごした時間でいうなら合宿の時や、一緒に出掛けた時の方がよっぽど長いし関わりもあった。


 初めにあったのは有り体な興味だった。
 自国以外の生活や文化を知るべきだと、留学を決めたのはもうずっと前。

 余の故郷であるジャウハラの王族は少々特殊だ。

 ジャウハラはそう豊かな国ではない。

 それは国庫における意味ではない。財産でいうならば、金や宝石の採掘が出来る鉱山などを領地の一部に含むジャウハラは豊かだといえるし、現在では他国との貿易も盛んだ。

 豊かな国でないというのは、実りにおいてだ。

 強い日が照り、雨が少ない土地は作物の実りが乏しい。勿論、地域に根ざした作物や家畜の飼育を行っているが、近年は雨期の少なさにその傾向が顕著だ。
 もっとも、過去の飢饉ほどではなくまだ軽微なそれだし、最近は他国との貿易により自国以外の作物も手に入る。

 ジャウハラの王族は時に魔人の血が入る。
 それももしかしたらそういった国の状況に関係があったのかも知れない。

 今と違い、他国との関係がなかったころは状況はもっと深刻だった筈。
 そして長い時を生き、様々な知識を持ち、また魔術で水を生み出すことの出来る魔人の存在はきっと貴重だった筈だ。

 そして魔人にとっても自らが受け入れられる土地などそうはなかったことだろう。
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