ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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憧れは未来への密かな光へ 3

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(サフィア視点)


 きっと僕は憧れていた。

 僕が成りたかった完璧な大人としてのあの人に_______。

 そして、

 僕もガーネスト様たちみたいにあんな兄が欲しかった_______。

 厳格で完璧主義な父親とお嬢様然とした母親。
 素晴らしい人達だと尊敬してるし、愛情表現の得意な人たちではないがそれでも自分が愛され、それ故に期待されていることも理解している。
 それを厭んだことはないし、不満があるわけでもない。

 だけど僕は、少し寂しかったのかもしれない。

 他愛ないことを褒め、甘やかしてくれる家族。
 頭を撫でてくれる手。
 喧嘩したり、認め合える兄妹。

 心の何処かで憧れて、だけど手に入らないと思っていたそれら全て。

『サフィア様もいずれ愛しい方と結ばれご家庭を築かれるでしょう。そうしてきっとお子が生まれる。その時はその子に自分が望んだ全てを与えて差し上げて下さい』

『それにご兄弟だってこれから出来るかも知れませんよ?いずれ伴侶となられる愛しい方にご兄弟がいらっしゃればその方はサフィア様の義理のご兄弟になられるのですから』

 自然に緩みそうになる唇を力を込めて押えた。

 ぎゅっと胸元を握りしめる。
 暖かく、光が灯ったように落ち着かない胸の内。

 盗み見るように月を眺めるシェリル様の姿を捉える。

 柔らかな光に照らされるその姿は美しく、愛おしく。

 僕もそっと月を仰いだ。

 そして不意に胸が揺らいだ。

 カイザー様の瞳とよく似た黄金の輝きを見て思い出したのは、つい先日潜入した仮面舞踏会でのルクセンブルク家のメイドの言葉。

『________________』

 あの言葉を聞いた途端、それまで疑問に思ったこともなかった一つの疑問が思い浮かんだ。

 先程までの暖かさとは異なる落ち着かない胸の内。

 冷静に考えれば可笑しな現状。
 余りにも当たり前に、誰もが知っているその真実。
 あの日、初めてそのことに思い至った。


 ならば何故、
 何故、僕はを知ってる_________?

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