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ファントムは見当たらない 1

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 揺れることもなく静止したままのシャンデリア。

「すぐに片付けますので暫しお待ち下さい」

 その上に音もなく着地し、こちらへ視線を向けたハンゾーは簡潔にそう告げると軽い動作で飛び降りた。

「では私も行って参ります」

 そして続くように一礼したランがドレスの裾を翻しながら螺旋階段の手すりを滑るように舞い降りる。

「ドレスを汚さないようにね」

 その姿を追うように俺は螺旋階段から身を乗り出して階下へと声を掛けた。


 幾人かの男達が倒れたホール。
 そしてそこへ繋がる扉が外側から開き、流れ込んでくるいかにもカタギでない男達。

 たちまち始まる乱闘を尻目に俺は螺旋階段を下りて行く。

 奴らはきっと会場の異変に慌てて様子を見に戻って来たのだろう。
 何せ主催者の邸宅であるこちらの棟にはヤバい証拠も不当に蓄えた財産も山ほどあるのだから。

 でも残念。
 今更戻って来ても後の祭り。
 こちらの邸宅はとっくににハンゾーたちが捜索済みだ。

 ゆったりと階段を下りつつ、繰り広げられる乱闘を眺める。

 酷く作業的に、的確に。黒い影が過った後には倒れ伏す躰。威嚇の声も悲鳴も彼が僅かに動くだけで物理的に途切れさせられ沈黙が生み出される。
 払った腕にふっ飛ばされて壁へと激突する躰、だけどその威力とは裏腹に音もなくハンゾーは動く。まるで影そのもののように。

 白いドレスの裾が花開くように舞い、敵の真ん中へと咲き誇る。
 揺れる花弁に合わせるように繰り出された蹴りが男の首を捉え、飛び上がるようにもう片方の脚も持ち上げると、ランはそのまま脚で男を振り回すように放り投げ数人を一気に巻き添えにした。

 アクション映画さながらの光景に胸を躍らせつつ、俺が階下に辿り着く頃には全てが片付いていた。

「ご苦労様」

 恰好いいアクションシーンに子供のようにはしゃいでいた内心など欠片も見せずゆるりと微笑む。

 どうでもいいが偉そうだな、俺。

 悠々と文字通りの高みの見物を決め込んだ末、ご苦労とか何様だ一体。

 誰も突っ込んでくれないし、不満さえ感じてなさそうなので自分で自分に突っ込んだ。
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