43 / 363
忌々しい雑音 1
しおりを挟む
(ガーネスト視点)
背を付いてまわる視線と黄色い声。
いつものことだ。自分の容姿がそれなりに目立つことは自覚しているし、何より隣に王子であるダイアが並んでいるなら尚更。
下級生たちの燥ぐ声を受けながら向かったのは妹のベアトリクスの教室で。
喧騒に俺達の訪れを知ったベアトリクスが共に居た友人に断り、席を立って近づいてくる。
その隣にはカトリーナ嬢。
「ダイア様、ガーネスト」
「お迎えにきていただき有難う御座います」
満面の笑みで俺達を、もといダイアを歓迎するベアトリクス。
カトリーナ嬢は毎度のことなのにいつもの如く礼を述べて頭を下げる。
「お待たせ、じゃあ行こうか」
甘く微笑んだダイアに一際高い歓声。
これも毎度のこと。
いい加減慣れたが、妹と親友の甘々な雰囲気には少し辟易する。
特に三人でいる時に二人だけの世界に入られるのは居心地が悪くて仕方がない。
なので早々にベアトリクスが仲の良い友人を作ってくれたのは僥倖だ。
主に俺と同じ第三者が増えたという点で。
ベアトリクスとカトリーナ嬢を伴って食堂へと向かう途中。
すれ違った令嬢たちが大きく肩を揺らす。
そしてそんな令嬢たちにわざとらしいまでににっこりと笑いかけるベアトリクスとベアトリクスを見て困ったような笑みを浮かべるカトリーナ嬢。
「どうかしたのか?」
「いいえ?何でも」
通り過ぎた所で問えば返ってきたのはそんな答え。
明らかに何でもっていう声じゃねぇよ。
怒りを含んだ声。
何処か勝ち誇った色も孕んだ声音に大方言い負かせでもしたんだろうなと悟る。
そしてその原因も。
きっと兄上のことでも悪く言われたのだろう。
思いついた結論に表情が歪むのがわかる。
ベアトリクスが怒りを露わにする原因として最たるものは自分の大切な者を攻撃された時だ。
中でも逆鱗はダイアと兄上。
俺自身も学園に入学してから幾度も耳にした言葉。
忌々しい『無能』という単語。
「顔が恐いよ」
「本当ですわ。カトリーナ様が怯えてしまわれるからお止めになって下さいな」
ダイアの指摘にここぞとばかりにベアトリクスが乗っかる。
煩いと思いつつも自分の顔が凶悪になってることは自覚していたので反論はせず歩き続ける。
辿り着いた食堂は廊下とは比べものにならない程の喧騒。
大声で喚きたてているわけでもないのに、そこかしこらから響くさざ波のようなお喋りが一つの波となって空間を支配していた。
よく使用する席へと向かい、カトリーナ嬢やダイアの椅子を引く。一応ベアトリクスのも。
注文した料理が届き、雑談をしながら各々食事を進めていると不意に眼の前に座ったカトリーナ嬢と眼があった。
「相変わらず食堂は騒がしいですわね」
「ああ。人数が集まれば仕方がないことなのだろうがな」
「ええ、意味のない雑音など聞き流してしまうのが一番ですわ。意識する価値すらないただの雑音に過ぎませんもの。それでも耳に入れば気に障るのは仕方のないことですけど……」
さらりと零された言葉。
最後だけ少し苦笑いを残して、華奢な手に握られたフォークとナイフが動きを再開する。
意味のない雑音。
それが指すのはきっとこの場の騒めきのことだけでなくて……。
「そうだな。煩わしいことに変わりはないが」
同意した俺の唇は意図せず弧を描いたいた。
背を付いてまわる視線と黄色い声。
いつものことだ。自分の容姿がそれなりに目立つことは自覚しているし、何より隣に王子であるダイアが並んでいるなら尚更。
下級生たちの燥ぐ声を受けながら向かったのは妹のベアトリクスの教室で。
喧騒に俺達の訪れを知ったベアトリクスが共に居た友人に断り、席を立って近づいてくる。
その隣にはカトリーナ嬢。
「ダイア様、ガーネスト」
「お迎えにきていただき有難う御座います」
満面の笑みで俺達を、もといダイアを歓迎するベアトリクス。
カトリーナ嬢は毎度のことなのにいつもの如く礼を述べて頭を下げる。
「お待たせ、じゃあ行こうか」
甘く微笑んだダイアに一際高い歓声。
これも毎度のこと。
いい加減慣れたが、妹と親友の甘々な雰囲気には少し辟易する。
特に三人でいる時に二人だけの世界に入られるのは居心地が悪くて仕方がない。
なので早々にベアトリクスが仲の良い友人を作ってくれたのは僥倖だ。
主に俺と同じ第三者が増えたという点で。
ベアトリクスとカトリーナ嬢を伴って食堂へと向かう途中。
すれ違った令嬢たちが大きく肩を揺らす。
そしてそんな令嬢たちにわざとらしいまでににっこりと笑いかけるベアトリクスとベアトリクスを見て困ったような笑みを浮かべるカトリーナ嬢。
「どうかしたのか?」
「いいえ?何でも」
通り過ぎた所で問えば返ってきたのはそんな答え。
明らかに何でもっていう声じゃねぇよ。
怒りを含んだ声。
何処か勝ち誇った色も孕んだ声音に大方言い負かせでもしたんだろうなと悟る。
そしてその原因も。
きっと兄上のことでも悪く言われたのだろう。
思いついた結論に表情が歪むのがわかる。
ベアトリクスが怒りを露わにする原因として最たるものは自分の大切な者を攻撃された時だ。
中でも逆鱗はダイアと兄上。
俺自身も学園に入学してから幾度も耳にした言葉。
忌々しい『無能』という単語。
「顔が恐いよ」
「本当ですわ。カトリーナ様が怯えてしまわれるからお止めになって下さいな」
ダイアの指摘にここぞとばかりにベアトリクスが乗っかる。
煩いと思いつつも自分の顔が凶悪になってることは自覚していたので反論はせず歩き続ける。
辿り着いた食堂は廊下とは比べものにならない程の喧騒。
大声で喚きたてているわけでもないのに、そこかしこらから響くさざ波のようなお喋りが一つの波となって空間を支配していた。
よく使用する席へと向かい、カトリーナ嬢やダイアの椅子を引く。一応ベアトリクスのも。
注文した料理が届き、雑談をしながら各々食事を進めていると不意に眼の前に座ったカトリーナ嬢と眼があった。
「相変わらず食堂は騒がしいですわね」
「ああ。人数が集まれば仕方がないことなのだろうがな」
「ええ、意味のない雑音など聞き流してしまうのが一番ですわ。意識する価値すらないただの雑音に過ぎませんもの。それでも耳に入れば気に障るのは仕方のないことですけど……」
さらりと零された言葉。
最後だけ少し苦笑いを残して、華奢な手に握られたフォークとナイフが動きを再開する。
意味のない雑音。
それが指すのはきっとこの場の騒めきのことだけでなくて……。
「そうだな。煩わしいことに変わりはないが」
同意した俺の唇は意図せず弧を描いたいた。
103
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
何度も死に戻りで助けてあげたのに、全く気付かない姉にパーティーを追い出された 〜いろいろ勘違いしていますけど、後悔した時にはもう手遅れです〜
超高校級の小説家
ファンタジー
武門で名を馳せるシリウス男爵家の四女クロエ・シリウスは妾腹の子としてプロキオン公国で生まれました。
クロエが生まれた時にクロエの母はシリウス男爵家を追い出され、シリウス男爵のわずかな支援と母の稼ぎを頼りに母子二人で静かに暮らしていました。
しかし、クロエが12歳の時に母が亡くなり、生前の母の頼みでクロエはシリウス男爵家に引き取られることになりました。
クロエは正妻と三人の姉から酷い嫌がらせを受けますが、行き場のないクロエは使用人同然の生活を受け入れます。
クロエが15歳になった時、転機が訪れます。
プロキオン大公国で最近見つかった地下迷宮から降りかかった呪いで、公子が深い眠りに落ちて目覚めなくなってしまいました。
焦ったプロキオン大公は領地の貴族にお触れを出したのです。
『迷宮の謎を解き明かし公子を救った者には、莫大な謝礼と令嬢に公子との婚約を約束する』
そこそこの戦闘の素質があるクロエの三人の姉もクロエを巻き込んで手探りで迷宮の探索を始めました。
最初はなかなか上手くいきませんでしたが、根気よく探索を続けるうちにクロエ達は次第に頭角を現し始め、迷宮の到達階層1位のパーティーにまで上り詰めました。
しかし、三人の姉はその日のうちにクロエをパーティーから追い出したのです。
自分達の成功が、クロエに発現したとんでもないユニークスキルのおかげだとは知りもせずに。
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。
乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
【完結】妃が毒を盛っている。
佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる