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忌々しい雑音 1

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(ガーネスト視点)



 背を付いてまわる視線と黄色い声。

 いつものことだ。自分の容姿がそれなりに目立つことは自覚しているし、何より隣に王子であるダイアが並んでいるなら尚更。

 下級生たちの燥ぐ声を受けながら向かったのは妹のベアトリクスの教室で。
 喧騒に俺達の訪れを知ったベアトリクスが共に居た友人に断り、席を立って近づいてくる。
 その隣にはカトリーナ嬢。

「ダイア様、ガーネスト」

「お迎えにきていただき有難う御座います」

 満面の笑みで俺達を、もといダイアを歓迎するベアトリクス。
 カトリーナ嬢は毎度のことなのにいつものごとく礼を述べて頭を下げる。

「お待たせ、じゃあ行こうか」

 甘く微笑んだダイアに一際高い歓声。

 これも毎度のこと。

 いい加減慣れたが、妹と親友の甘々な雰囲気には少し辟易へきえきする。
 特に三人でいる時に二人だけの世界に入られるのは居心地が悪くて仕方がない。
 なので早々にベアトリクスが仲の良い友人を作ってくれたのは僥倖ぎょうこうだ。

 主に俺と同じ第三者が増えたという点で。

 ベアトリクスとカトリーナ嬢を伴って食堂へと向かう途中。

 すれ違った令嬢たちが大きく肩を揺らす。
 そしてそんな令嬢たちにわざとらしいまでににっこりと笑いかけるベアトリクスとベアトリクスを見て困ったような笑みを浮かべるカトリーナ嬢。

「どうかしたのか?」

「いいえ?何でも」

 通り過ぎた所で問えば返ってきたのはそんな答え。
 
 明らかに何でもっていう声じゃねぇよ。

 怒りを含んだ声。
 何処か勝ち誇った色も孕んだ声音に大方言い負かせでもしたんだろうなと悟る。

 そしてその原因も。

 きっと兄上のことでも悪く言われたのだろう。
 思いついた結論に表情が歪むのがわかる。

 ベアトリクスが怒りを露わにする原因として最たるものは自分の大切な者を攻撃された時だ。
 中でも逆鱗げきりんはダイアと兄上。

 俺自身も学園に入学してから幾度も耳にした言葉。

 忌々しい『無能』という単語。

「顔が恐いよ」

「本当ですわ。カトリーナ様が怯えてしまわれるからお止めになって下さいな」

 ダイアの指摘にここぞとばかりにベアトリクスが乗っかる。
 煩いと思いつつも自分の顔が凶悪になってることは自覚していたので反論はせず歩き続ける。

 辿り着いた食堂は廊下とは比べものにならない程の喧騒。

 大声で喚きたてているわけでもないのに、そこかしこらから響くさざ波のようなお喋りが一つの波となって空間を支配していた。

 よく使用する席へと向かい、カトリーナ嬢やダイアの椅子を引く。一応ベアトリクスのも。

 注文した料理が届き、雑談をしながら各々食事を進めていると不意に眼の前に座ったカトリーナ嬢と眼があった。

「相変わらず食堂は騒がしいですわね」

「ああ。人数が集まれば仕方がないことなのだろうがな」

「ええ、意味のない雑音など聞き流してしまうのが一番ですわ。意識する価値すらないただの雑音に過ぎませんもの。それでも耳に入れば気に障るのは仕方のないことですけど……」

 さらりと零された言葉。
 最後だけ少し苦笑いを残して、華奢な手に握られたフォークとナイフが動きを再開する。

 意味のない雑音。

 それが指すのはきっとこの場の騒めきのことだけでなくて……。

「そうだな。煩わしいことに変わりはないが」

 同意した俺の唇は意図せず弧を描いたいた。

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