ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

文字の大きさ
上 下
15 / 402

マリー・アントワネットも吃驚です 1

しおりを挟む

 眼がめた俺は、何事もなく朝を迎えた。

 カーテンの隙間から感じられる爽やかな陽光。小鳥のさえずり。
 目覚めたばかりの俺の為にリフが用意してくれるアーリー・モーニング・ティーの芳しい香り。

 可笑しな声も聴こえることもなく、いつもと変わらぬ穏やかな朝があった。

 ………
 なんてことはなく。

 もうね、ばっちりはっきり聴こえますね。
 夜通し俺に付いててくれた忠実なる従者の真摯な心の声が俺を打ちのめす。

「お具合は如何いかがですか、何処か不調があればすぐに仰って下さい」

『顔色と呼吸は正常。異常があればすぐに察せられるよう万全の体制を整えねば。あれとあれの処理は後回しにして…』

 額に手をかざし熱を確かめながら俺を覗きこむリフの憂い気な顔。

 心配気な表情の裏で、俺の体調を気遣いつつ、今日の予定を素早く組み立てる優秀で頼りになる俺の従者。
 なのにその事実が俺を容赦なく打ちのめす。

 出来ることなら頭を抱えてこう叫びたい。

「モロ心の声が聴こえてるんですけどー!!何なのコレっ!?」

 そしてそんなことは出来ないから、
 引きる表情を抑えつつ、芳しい紅茶と共にその想いを飲み込んだ。


 一週間が経過。

 わかったことが幾つかある。

 その一。
 何故かはわからんが他人の心の声っぽいものが聴こえる。

 その二。
 完璧にではないがある程度コントロールが可能。

 いや、だって皆の心の声がごっちゃに聴こえて最初マジで発狂しそうだったんだわ。
 必死に試行錯誤した結果、ある程度声を読み取らんでいられるようになった。
 日常生活に支障のない程度には。

 その三。
 相手の感情の起伏が激しくなると俺に声が届きやすくなる。

 その四。
 相手に触れていると声が届きやすくなる。

 以上。

 一番肝心の何故急にこんなことになったかとか、解決方法とかは不明のまま。


 自室の執務机で書類を捲りつつ溜息を一つ。
 するとすぐに気づいたリフが書類から顔を上げ「お疲れですか?」と問いかけるのに緩く首を振る。

「体調はもう大丈夫だよ。ただ頭の痛い問題が多くて溜息を吐いただけだ」

 苦い笑いを浮かべて手に持った書類をひらひらと振って見せる。

「だけどそうだな、少し頭を整理したいからお茶を淹れて貰ってもいいかい?」

「勿論です」

 にこやかな笑みで準備の為にリフが部屋を出て行った途端に頭を抱える。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...