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怪しげとか珍妙でないことを祈る 2
しおりを挟むあんなにも小さく、頼りなかったあの子たちが初めて喋った日。
「にぃに」と舌ったらずな声で呼ばれた日は鼻血を吹くかと思った。
俺の粘膜よ、お前はよく頑張った!!
よたよたと歩き出し、自分が何にも捕まってないことに気づききょとんとした後に泣き出したこと。
手を差し出せば、他の誰でもない俺に向かって真っすぐ歩み寄ってくれたこと。
全部鮮明に想い出せる。
ああ、何故この世界にはカメラがない?!
心のシャッターしか押せないことを俺がどれだけ悔やんだことか。
こんなことなら前世でカメラの作り方を学んでおくべきだった!
そんな日々を重ね、再び訪れた人生の転機。
父さんの死。
早すぎる公爵の死に周囲は騒然とし、色めきたった。様々な意味で。
父さんが死んだならば最大の問題となるのは爵位について。
葬儀を終えた後、故人を悼むそぶりもなく陛下の前で跡取り問題を話題に上げた親戚共。
煌びやかな玉座の前、奴らを見つめる俺の瞳は取り繕う素振りもなく冷ややかだったと思う。
『無能』な俺に爵位は相応しくない。
そもそも『無能』な俺には公爵の血が流れているかも怪しいものだ。
ようはそういう話。
公爵であった父が死んで、怖いものがなくなった途端に声高に騒ぎ始めた。それだけの話。
だから何だというのか。
莫迦みたいに騒ぎ立てる奴らこそ、正真正銘の能無し。
言葉に相応しく“無能”だと、そう思えば笑みが浮かんだ。
俺の笑みに何人かが息を呑み、言葉を失う。
この時、俺は15歳。
16歳の成人を前にした俺は自分でいうのも何だが美しかった。
正しく幼いころから謳われた絶世の美男子を体現したかのような美貌。
項の辺りで緩く結んで肩から前へ垂らした胸元をすぎる射干玉の黒髪。
白磁の肌に、完璧な左右対称に整った顔。
薄い唇に、憂いを帯びた長い睫毛。
漆黒の睫毛が縁取る瞳は妖しく輝く黄金。まるで宵闇に浮かぶ満月の如くと評判だ。
残念ながら体格には恵まれず筋骨隆々とはいかなかったが、均整のとれた体躯は俺の中性的な容姿にはよくあってる。
正直攻略対象者じゃないのが不思議なレベルの容色。いやマジで。
別にナルシストじゃないから!
客観的な話で、別に自分大好き人種じゃないからね!
誰に言い訳してんだ俺。
実際、俺のよくいわれる評価は
穏やかで優美な雰囲気なのにミステリアスな色気がヤバい。というもので。
女性は兎も角、偶に野郎にも頬を染められるのはマジ勘弁して欲しい。
あと、ミステリアスって神秘的っていえば聞こえがいいけど、怪しげなとか珍妙なって訳すと一気に表現が微妙になるからな。
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