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社交界デビュー

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ザ・キラキラ。

さすがにちょっぴり緊張しつつ、会場へと足を踏み入れた感想を一言に要約するならばそれだった。

広いホールの床は磨き上げられ、高い天井にはシャンデリアが眩いばかりに輝く。
着飾った人々の装いと、身に着ける宝石の煌めき。
華やかにして煌びやかな非日常空間。

海外の映画なんかでしか見たことのなかった光景が目の前にあった。

ほわぁーと声が漏れそうになったところで小さく「クラレンス様」と名を呼ばれ、慌ててポカン顔をひきしめる。
天上や周囲をきょろきょろと見渡すかわりに前を向き、おすましモード発動だ。

ものすっごく視線を感じる。

へらりとならない程度の笑みを張り付けた顔はいまにも笑みがひきつりそうだ。

入場したときから向けられていた視線はいまでは数えきれないほどになっていた。
ざわざわとした騒めきと向けられる視線を意識しないように、背を伸ばして磨き上げられた床に靴音を響かす。
胸を張って、顎はほんの少しひいて前を見つめて。
姿勢よく、見栄えがする歩き方はさんざん練習したのだから。

…………頭の上に本をのっけて真っすぐ歩くのはむちゃくちゃ難しかった。
鏡に映る自分の姿になんど「僕、なにやってんだろう?」と思いながらもがんばった。

チラッと隣を見れば、シルクは優雅かつ堂々としている。
視線を感じたのか、前を向いていた顔がほんの少しこちらを向いて目があった。

ふわりと目元と口元が綻ぶ。
澄ましたお人形のような微笑みから、花開くような可憐な笑みを浮かべたその姿に周囲のざわめきがいっそう大きくなる。

そんなざわめきには目もくれず、再び前を向くまぎわ、クラレンスの腕を掴む手にきゅっと力がこもった。
場になれない自分をはげますような動作に自然と口元に笑みが浮かぶ。

やっぱりシルクは恰好いいな。

出会って間もないころの毅然とした姿を思い出す。

実際の年齢よりもずっと大人びて、一つの隙も見せまいとするような高位令嬢そのものの姿。

最近ではずいぶんと感情豊かになって、年相応のふるまいや可愛らしい印象が多くなったけれど、それとはまた別に彼女のこの本質は変わらない。

出会っときからクラレンスにとって、シルクはとても恰好いい女の子だ。

周囲の視線に負けまいと挑むように前を向く姿も、怪我を負おうと弟を庇ったことに後悔なんてないと言い切った姿も、本当に恰好いいと心からそう思った。

改めてピシリと背筋を伸ばす。
誰もがシルクの顔のアザのことを知っているのだろう。
再び美しい姿で社交界に姿を現したシルクの姿に向けられるたくさんの視線。

驚きと興味を持って向けられるそれらを跳ね付けるように前を向いて歩くシルクの隣に相応しいように、しっかりと前を向いて胸を張る。

ずらりと並ぶおいしそうな料理の前を通りかかったとき、思わず視線がそちらに釘付けになりそうになったのと「あれ、ほとんど食べられらないんだよね……」とちょっぴり眉が下がったのはノーカンで!
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