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普段は王冠はしてないらしい
しおりを挟むふわぁ、王様だぁ~。
そんな心の声を零しつつ目の前の男性を見上げる。
「君がクラレンスか。ロドルフたちから噂はよく聞いているよ」
「お初お目にかかります」
緊張しながらも名前を名乗って挨拶すれば王様は「そう畏まる必要はない」と鷹揚に笑んでくれた。威厳はありつつその表情は柔和でシルクの言ったとおり優しそうで安心した。
当初の予定では執務が忙しい王様には差し入れを行う予定だったのだが、
「可愛い姪っ子と甥っ子に会いたいからな。抜け出してきてしまった」
にっと笑う王様は意外とお茶目な性格らしい。
「挨拶はそれくらいにして、そろそろいただきましょうか。私たちはゆっくりできるけど、そうじゃない人たちもいるようだし」
ころころと笑う王妃様の発言に首をかしげるも、すぐに疑問は解決した。
フェリックも可愛い年下のいとこたちの手料理を食べたくて仕事を抜けてきたらしい。
側近から許可された休憩時間は30分。時間になったら引きずってでも連れ戻すのはエドワードの役目だそうだ。
ちなみに母もこの場にいる。
クラレンスが気を使わないでいいよう王妃様が自分の護衛役に呼んでくれたようだ。
なにはともあれ30分しか時間がないなら急いだ方がよさそうだ。
テーブルにはお皿にトルティーヤの生地にピタパン、具材がそれぞれスタンバイされていた。
喜々としてシルクとエリシュオンが生地を手にとる。
「クラレンス様はなにをお召し上がりになりますか?」
「えっと……時間もないしまずは王子様と王様の分を作ってあげよう?」
なにせ二人は制限時間つきだ。
いや、王様はないかもだけど、抜け出してきたといってるから連れ戻される可能性はある。
シルクは不満そうな表情をしたあとで、気を取り直したようににっこり笑った。
「おじ様、どれがいいですか?」
王様の隣でろこつにショックを受けているフェリックがかわいそうで、クラレンスはエリシュオンにこそこそと「王子様になにが食べたいか聞いてあげて」とアドバイス。
王様は照り焼きを、フェリックはから揚げをチョイスした。
相変わらず具材をてんこ盛りに乗せようとするシルクにお肉は3つぐらいでいいんじゃないかなと口を出し、このタレをかけてと指導すれば見栄えもイイ感じのトルティーヤが出来上がった。
フェリックの方はピタパンにしてみた。
小さな手で具材をつめ、マヨソースをかけられたピタパンを差し出されたフェリックは感極まったようにそれを受け取る。
だけど「はい」と差し出したエリシュオンはあまりフェリックが得意でないようで、すぐにクラレンスにぴとっとくっついてしまう。
「なんで俺よりもクラレンスに懐いてるんだ!」
「だってクラレンス様はエルと仲良しですもの。もちろん私も」
「兄さま、すき」
「ふふ、可愛らしいわね。ねぇシルクちゃんににエルくん。私たちにも作ってちょうだいな」
「この甘辛い味付けはとても美味いな。このタレはなんだ?フェリックが食べたのとそっちの白いのも気になる」
「あ、そのタレはお醤油っていう異国の調味料を使っていて、こっちはから揚げ、白いのはポテトサラダです」
豪華メンツのランチは思いのほか和気あいあいと盛り上がった。
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