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ランドバーグ家の事情
しおりを挟む静かに復讐を決意したシルクには気づかず、クラレンスは不思議そうに首を傾げた。
「そもそもなんでそのモートン?って貴族と婚姻の話が?」
シルク曰く、婚約をしていたのではなく顔合わせをしただけだと以前言っていたが……そもそもなんでそんなのと顔合わせを?とクラレンス的には不思議だった。
だってみんなの評価が悪すぎる。
実際にシルクに色々やらかした子息の評価は仕方ないとして、家もズタボロに言われてるし。
これで相手の方が格上だというのならまだわかる。
立場を盾に望まぬ縁談を持ってこられたなら、その気がなくても顔合わせだけでもしないといけないという事態もまだ納得できるけど、実際はそうではない。
場に不自然な沈黙が広がった。
隣を見ればシルクはやや俯いて唇を固く閉ざしている。
視線を前に戻せば侯爵夫人は困ったように頬に手を当てていたし、王妃様たちもなにやら微妙な表情だった。
「すみません。聞いちゃいけないことでした?」
事情を知らないながらもクラレンスは素直に謝った。
詳しく知らないからこそ首を突っ込んじゃいけないことも世間には多々ある。
「いいえ、クラレンス様は悪くありませんわ」
ふるふるとシルクが首を振った。
「それに……いずれ知っていただかなくてはならないことでしたもの」
唇を僅かに噛みしめて言いずらそうなその言葉は深刻そうだったのに、その後に続けた「クラレンス様は私の婚約者なのですから」の一言で「きゃっ!言っちゃった!」とばかりにシルクの頬がピンクに染まった。
乙女モードを発動したあとで、コホン、とわざとらしい咳払いをして冷静を取り戻したシルクは「お母様」と発言の許可を求めるように侯爵夫人を見た。
「融資……?」
そうして話しを聞いたクラレンスの頭の中にはまたもハテナマークが浮かんでいた。
もちろん融資という言葉の意味は知っているし、モートン家がパッとせずともお金があることも理解した。
ただ……。
「ランドバーグ家ってお金に困っているんですか?」
「クラレンス」
あまりに直球すぎるクラレンスの質問に、兄のエドワードから教育的指導が入った。
確かにめちゃくちゃ失礼な質問だったのでクラレンスは再び素直に謝った。
だが思わず心の声が漏れてしまったのだ。
だって何度も訪れたことのあるランドバーグ家は建物も身に着けるものもいつだって立派でお金持ち感満載だったから。
「我が家がっていうより、領民たちの財政がね」
「地理的な問題ですわ」
どうやらランドバーク家はお金持ちであってたらしい。
「王都からもほど近く、都市部は流通も盛んですしそれなりに潤っておりますの。問題は農村部ですわ。土壌はよく良質な作物が採れるのですが……」
「立地的に台風の被害を受けることが多いのよねぇ」
困り顔でそう語ってくれたシルクと侯爵夫人。
「ランドバーグ領に限らないが台風や水害、特定の被害を受けやすい土地はあるからな」
「毎年のこととなると大変よね。だからといって作物を作らないわけにもいかなしし」
王子や王妃様たちも深刻な表情でそう続けた。
そこから被害を受けた民の救済へと話題が本格的な政治的な話へと移行しそうだったが、客人の前だというのを思い出したのか「ああ、すまない」と王子が謝る。
「つまり、そのための融資ってことですか?」
ようやく納得した。
「だからって貴女を借金のカタに差し出す気はありません。それは私たちが解決することだわ。貴女は余計なことを考えず幸せになりなさい」
「お母様……っ。必ずや他の形でランドバーグ家へと貢献してみせますわっ!」
領民を想いながらも、真剣な表情で娘を諭し幸せを願う母親と、感激し奮い立つ娘。
「ぼくもいっぱいお勉強するっ!りょーちけーえーがんばるの!」
次期当主であるエリシュオンも拳を握りしめた。領地経営の発音が危ういがその覚悟は立派だ。
実に麗しい家族愛だった。
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