上 下
79 / 161

ランドバーグ家の事情

しおりを挟む


静かに復讐を決意したシルクには気づかず、クラレンスは不思議そうに首を傾げた。

「そもそもなんでそのモートン?って貴族と婚姻の話が?」

シルクいわく、婚約をしていたのではなく顔合わせをしただけだと以前言っていたが……そもそもなんでそんなのと顔合わせを?とクラレンス的には不思議だった。

だってみんなの評価が悪すぎる。
実際にシルクに色々やらかした子息の評価は仕方ないとして、家もズタボロに言われてるし。

これで相手の方が格上だというのならまだわかる。
立場を盾に望まぬ縁談を持ってこられたなら、その気がなくても顔合わせだけでもしないといけないという事態もまだ納得できるけど、実際はそうではない。

場に不自然な沈黙が広がった。

隣を見ればシルクはやや俯いて唇を固く閉ざしている。
視線を前に戻せば侯爵夫人は困ったように頬に手を当てていたし、王妃様たちもなにやら微妙な表情だった。

「すみません。聞いちゃいけないことでした?」

事情を知らないながらもクラレンスは素直に謝った。
詳しく知らないからこそ首を突っ込んじゃいけないことも世間には多々ある。

「いいえ、クラレンス様は悪くありませんわ」

ふるふるとシルクが首を振った。

「それに……いずれ知っていただかなくてはならないことでしたもの」

唇を僅かに噛みしめて言いずらそうなその言葉は深刻そうだったのに、その後に続けた「クラレンス様は私の婚約者なのですから」の一言で「きゃっ!言っちゃった!」とばかりにシルクの頬がピンクに染まった。

乙女モードを発動したあとで、コホン、とわざとらしい咳払いをして冷静を取り戻したシルクは「お母様」と発言の許可を求めるように侯爵夫人を見た。

「融資……?」

そうして話しを聞いたクラレンスの頭の中にはまたもハテナマークが浮かんでいた。

もちろん融資という言葉の意味は知っているし、モートン家がパッとせずともお金があることも理解した。
ただ……。

「ランドバーグ家ってお金に困っているんですか?」

「クラレンス」

あまりに直球すぎるクラレンスの質問に、兄のエドワードから教育的指導が入った。

確かにめちゃくちゃ失礼な質問だったのでクラレンスは再び素直に謝った。
だが思わず心の声が漏れてしまったのだ。
だって何度も訪れたことのあるランドバーグ家は建物も身に着けるものもいつだって立派でお金持ち感満載だったから。

「我が家がっていうより、領民たちの財政がね」

「地理的な問題ですわ」

どうやらランドバーク家はお金持ちであってたらしい。

「王都からもほど近く、都市部は流通も盛んですしそれなりに潤っておりますの。問題は農村部ですわ。土壌はよく良質な作物が採れるのですが……」

「立地的に台風の被害を受けることが多いのよねぇ」

困り顔でそう語ってくれたシルクと侯爵夫人。

「ランドバーグ領に限らないが台風や水害、特定の被害を受けやすい土地はあるからな」

「毎年のこととなると大変よね。だからといって作物を作らないわけにもいかなしし」

王子や王妃様たちも深刻な表情でそう続けた。

そこから被害を受けた民の救済へと話題が本格的な政治的な話へと移行しそうだったが、客人の前だというのを思い出したのか「ああ、すまない」と王子が謝る。

「つまり、そのための融資ってことですか?」

ようやく納得した。

「だからって貴女を借金のカタに差し出す気はありません。それは私たちが解決することだわ。貴女は余計なことを考えず幸せになりなさい」

「お母様……っ。必ずや他の形でランドバーグ家へと貢献してみせますわっ!」

領民を想いながらも、真剣な表情で娘を諭し幸せを願う母親と、感激し奮い立つ娘。

「ぼくもいっぱいお勉強するっ!りょーちけーえーがんばるの!」

次期当主であるエリシュオンも拳を握りしめた。領地経営の発音が危ういがその覚悟は立派だ。
実に麗しい家族愛だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

処理中です...