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いろいろ手続きが必要だった

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再び場所を変え応接間。

なお、場所を変えたのは盛り上がりに盛り上がった使用人さんたちが、どこから取り出したのかクラッカーを鳴らし花びらを散らし、と盛大に祝福してくれたおかげでテーブルのうえなどがたいへんなことになったからだ。
きっとあっちはお片付け中。

そしていま、目の前の女性陣はきゃっきゃきゃっきゃとリングの発注やデザインについて盛り上がっていた。

音もなくメイドさんが運んでくるいくつものカタログやパンフレット。

「やっぱ最新のカタログを取りよせなきゃ」「お店はどこがいいかしら?」「やっぱりあそこが……」「デザインは……」と語り合うシルクや母らのいきおいにクラレンスとエリシュオンは置いてきぼりだ。

シルクたちが話題にしているリングの存在はクラレンスもしっている。

指輪の交換は結婚式でも印象深いシーンであり、乙女の憧れといっても過言でない。
ようは現世でもおなじみの結婚指輪マリッジリング

ただしちがう部分もある。

基本的に結婚を約束するさいの婚約指輪エンゲージリングはダイヤモンドを中央に取り付けた華やかなタイプが主流で、日ごろから身に着けることを意識した結婚指輪マリッジリングはシンプルな場合が多いが、この世界のリングは婚約指輪エンゲージリングのデザインにちかい。

あとそもそも婚約指輪エンゲージリングは存在しない。
婚約のさいに贈り合うのは指輪でなくピアスが一般的だ。

リングにはダイヤモンドによく似た希少な魔法石がもちいられ、結婚を誓い指輪を交換するさいにそれぞれ魔力を注ぎ込む。そうすると魔法石は魔力の持ち主の瞳の色に染まり、互いの色を身に着ける……というわけだ。

物語なんかでもよく目にする描写だし、実際にだれかの結婚式にでたことのないクラレンスでもリングの存在はしっている。
しってはいるのだけれど……目の前で盛り上がる女性陣にたいして疑問があった。

「いまリングを作っちゃったらサイズ平気なの?」

なにせ自分たちはまだこども。

だけど素朴なクラレンスの疑問はあっさりと解決された。

「あら、リングは魔力で自由に調整できるもの」

ほら、と侯爵夫人がほっそりとした手からひきぬいてくれたリングはなるほど自由自在だった。

「私は剣を握るからこうしてピアスにしてるわ。腕輪にしてる方とかもいるわよ」

そういって髪を掻き上げた母の耳には父の瞳の石がついたリングが輝く。

「便利!」

思わずクラレンスは呟いた。

サイズや形態は変えれられるものの、基本的なデザインは変えられないのでそこだけ注意が必要らしいがこれならたしかにいまから作っても問題ない。

「じゃあ貴族は婚約と同時にリングを発注するのがふつうなの?」

「ええ。婚約式ではリングの所有者登録をいたしますの」

「婚約式……?」

「正式に両家の当主立ち合いのもと婚約を約束する場よ。貴族の婚約は家同士の契約でもあるもの。特に決まった形式があるわけではないけど、その時にリングの所有者登録をするのが一般的ね」

「お互いの家だけでなく立会人を立てる場合もあるわ。お姉様にお願いしてみようかしら」

おっとりした言葉に思わず夫人をガン見する。
「どうかした?」とでもいうように少女じみた仕草で首を傾げられ言葉を濁す。

侯爵夫人のお姉さんって……たしか王妃様だよね?

あとてっきり婚約は成立したものと思ってたけど実はまだだった。
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