67 / 149
いろいろ手続きが必要だった
しおりを挟む再び場所を変え応接間。
なお、場所を変えたのは盛り上がりに盛り上がった使用人さんたちが、どこから取り出したのかクラッカーを鳴らし花びらを散らし、と盛大に祝福してくれたおかげでテーブルのうえなどがたいへんなことになったからだ。
きっとあっちはお片付け中。
そしていま、目の前の女性陣はきゃっきゃきゃっきゃとリングの発注やデザインについて盛り上がっていた。
音もなくメイドさんが運んでくるいくつものカタログやパンフレット。
「やっぱ最新のカタログを取りよせなきゃ」「お店はどこがいいかしら?」「やっぱりあそこが……」「デザインは……」と語り合うシルクや母らのいきおいにクラレンスとエリシュオンは置いてきぼりだ。
シルクたちが話題にしているリングの存在はクラレンスもしっている。
指輪の交換は結婚式でも印象深いシーンであり、乙女の憧れといっても過言でない。
ようは現世でもおなじみの結婚指輪。
ただしちがう部分もある。
基本的に結婚を約束するさいの婚約指輪はダイヤモンドを中央に取り付けた華やかなタイプが主流で、日ごろから身に着けることを意識した結婚指輪はシンプルな場合が多いが、この世界のリングは婚約指輪のデザインにちかい。
あとそもそも婚約指輪は存在しない。
婚約のさいに贈り合うのは指輪でなくピアスが一般的だ。
リングにはダイヤモンドによく似た希少な魔法石がもちいられ、結婚を誓い指輪を交換するさいにそれぞれ魔力を注ぎ込む。そうすると魔法石は魔力の持ち主の瞳の色に染まり、互いの色を身に着ける……というわけだ。
物語なんかでもよく目にする描写だし、実際にだれかの結婚式にでたことのないクラレンスでもリングの存在はしっている。
しってはいるのだけれど……目の前で盛り上がる女性陣にたいして疑問があった。
「いまリングを作っちゃったらサイズ平気なの?」
なにせ自分たちはまだこども。
だけど素朴なクラレンスの疑問はあっさりと解決された。
「あら、リングは魔力で自由に調整できるもの」
ほら、と侯爵夫人がほっそりとした手からひきぬいてくれたリングはなるほど自由自在だった。
「私は剣を握るからこうしてピアスにしてるわ。腕輪にしてる方とかもいるわよ」
そういって髪を掻き上げた母の耳には父の瞳の石がついたリングが輝く。
「便利!」
思わずクラレンスは呟いた。
サイズや形態は変えれられるものの、基本的なデザインは変えられないのでそこだけ注意が必要らしいがこれならたしかにいまから作っても問題ない。
「じゃあ貴族は婚約と同時にリングを発注するのがふつうなの?」
「ええ。婚約式ではリングの所有者登録をいたしますの」
「婚約式……?」
「正式に両家の当主立ち合いのもと婚約を約束する場よ。貴族の婚約は家同士の契約でもあるもの。特に決まった形式があるわけではないけど、その時にリングの所有者登録をするのが一般的ね」
「お互いの家だけでなく立会人を立てる場合もあるわ。お姉様にお願いしてみようかしら」
おっとりした言葉に思わず夫人をガン見する。
「どうかした?」とでもいうように少女じみた仕草で首を傾げられ言葉を濁す。
侯爵夫人のお姉さんって……たしか王妃様だよね?
あとてっきり婚約は成立したものと思ってたけど実はまだだった。
687
お気に入りに追加
1,752
あなたにおすすめの小説
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
異世界でチート無双! いやいや神の使いのミスによる、僕の相棒もふもふの成長物語
ありぽん
ファンタジー
ある異世界で生きるアーベル。アーベルにはある秘密があった。何故か彼は地球での記憶をそのままに転生していたのだ。
彼の地球での一生は、仕事ばかりで家族を顧みず、そのせいで彼の周りからは人が離れていき。最後は1人きりで寿命を終えるという寂しいもので。
そのため新たな人生は、家族のために生きようと誓い、そしてできるならばまったりと暮らしたいと思っていた。
そんなマーベルは5歳の誕生日を迎え、神からの贈り物を授かるために教会へ。しかし同じ歳の子供達が、さまざまな素晴らしい力を授かる中、何故かアーベルが授かった力はあまりにも弱く。
だがアーベルはまったく気にならなかった。何故なら授かった力は、彼にとっては素晴らしい物だったからだ。
その力を使い、家族にもふもふ魔獣達を迎え、充実した生活を送っていたアーベル。
しかし変化の時は突然訪れた。そしてその変化により、彼ともふもふ魔獣達の理想としている生活から徐々に離れ始め?
これはアーベルの成長物語、いやいや彼のもふもふ達の成長物語である。
この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
――鬼の伝承に準えた、血も凍る連続殺人事件の謎を追え。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
巨大な医療センターの設立を機に人口は増加していき、世間からの注目も集まり始めていた。
更なる発展を目指し、電波塔建設の計画が進められていくが、一部の地元住民からは反対の声も上がる。
曰く、満生台には古くより三匹の鬼が住み、悪事を働いた者は祟られるという。
医療センターの闇、三鬼村の伝承、赤い眼の少女。
月面反射通信、電磁波問題、ゼロ磁場。
ストロベリームーン、バイオタイド理論、ルナティック……。
ささやかな箱庭は、少しずつ、けれど確実に壊れていく。
伝承にある満月の日は、もうすぐそこまで迫っていた――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
悪役令嬢は自分磨きに忙しい!
こゆき
恋愛
「わたくし、美しくないものは嫌いなの」
その一言で教室は凍りついた──
ニ大大国のひとつ、聖ルナティア王国の誉れ高き公爵家の御令嬢は乙女ゲームの悪役令嬢だった!
幼い頃から記憶のあった御令嬢だが、それに気づいたのはつい最近……
だって仕方ない。いまの『わたくし』の姿は好みドンピシャ。かつての最推しに似てるとは思っていたけれど、まさか本物だと思うはずがないじゃない?
そうなればもう、他人なんて関係ない。とにかく自分を磨くしかないじゃない!!!
ヒロイン?わたくし、内面も美しくないものは嫌いなの。
文句があるなら貴族の嗜みを心得てからいらしてちょうだい!
そんなハードラブコメディ。
※なろうに2019年に執筆していたものです。書き直し、連載再開を機にアルファポリス、カクヨムさんにも連載してみることにしました。無断転載ではありません。
幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~
希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。
離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。
反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。
しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で……
傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。
メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。
伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。
新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。
しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて……
【誤字修正のお知らせ】
変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。
ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
「(誤)主席」→「(正)首席」
【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる