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アップルパイは断然格子派
しおりを挟む「ほんとにこっちでいいの?」
「はい……その、お邪魔ですか?」
眉を八の字にさげて上目づかいで見てくるシルクに首をふってクラレンスは笑う。
「じゃあそこに座って」
そういった次の瞬間には恭しく引かれた椅子。
さらには椅子だけでなく、厨房のすぐそばのダイニングテーブルにぞくぞくとセットされていくクッキングマットや調理用具たち。
するべきことをして、控えめな一礼とともに去っていく彼ら彼女らの動きは流れるように滑らかで、お礼を言いそびれたほどだ。
あとでお礼言おう。
「コンロはこちらをお使いください。ここならそちらからでも見えるでしょうから」
そういって料理長が鍋を用意してくれたのは、シルクの座る席の対角線上。
お礼をいってクラレンスはエプロンを結んだ。
お昼ご飯もたっぷりと食べ、久々の外出もあってエリシュオンはお昼寝中だ。
ランチタイムの終盤ごろから頭がゆらゆらしはじめていたのだが、ついにはすやすや眠ってしまった。天使みたいに可愛い寝顔だった。
一方、ママンsはつきることない楽しいおしゃべりに夢中。
クラレンスはアップルパイの準備があり、シルクはお客さまなので母らと寛いていてもらうつもりだったのだが、当のシルクがアップルパイ作りをみたいとついてきた。
以上、状況説明でした。
シルクが見やすいように火を使わない調理はダイニングテーブルのクッキングマットのうえで行う。
このダイニングテーブルは使用人さんたちが食事をとったりに使うので大人数用で広々です。
まずは中身のアップルフィリング作り。
クルクルクルっとリンゴの皮をつなげて向けば「すごい!すごい!」とシルクが手を叩いて大喜びしてくれた。
リンゴの皮をむき、6等分にカットして芯などを取りのぞいたら薄切りに。
大き目の器に切ったリンゴを入れおわった途端、器がたちまち厨房へ……。
黒子ですか?使用人さんたち。
リンゴを追ってクラレンスも厨房へたたたっと向かった。
お鍋にバターをいれて溶かし、つづいてリンゴ、お砂糖、シナモン少々にレモン汁をいれて弱火で煮ます。
リンゴがしんなりしたら火からおろし、粗熱をとりましょう。
ここで再びダイニングテーブルへ移動。
クッキングマットに打ち粉をして冷蔵庫からとりだしたパイ生地をのせます。うえからも打ち粉をふりかけ綿棒で伸ばします。だいだい2mmぐらいをめどに。
パイ型に一回り大きいぐらいのパイ生地をセットしたらフォークなどで数か所穴をあけましょう。
余分なパイ生地はカットしてください。
「リンゴのフィリング投入~」
パイ生地に煮たリンゴを敷き詰めます。
甘酸っぱくていい香りがふわりと漂う。
「いい匂い。もう美味しそうですわ」
「今日はプラスアルファもあるからね」
「なんですの?」
「まだナイショ」
ふふっと笑えばもはや椅子から立ち上がって身を乗り出して作業を見ていたシルクがぷぅっと頬を膨らませた。
出会ったときに比べてずいぶんとこどもっぽい仕草が多くなった気がする。
仲良くなった証拠かな?と思いつつ、クラレンスは質問を続けるシルクをかわしながらリンゴを並べる。
残りのパイ生地を長方形に伸ばし、細長い棒状にカット。
それを格子状に飾り付け、パイ型のフチの部分にもぐるりと囲む。
フチの部分はフォークで軽くおさえましょう。
パイの形状はお好みですが、個人的には格子にフチは編み込みが断然好みです。
これぞアップルパイ!ってテンションがあがるので。
まぁ、そんな個人的好みはさておき……溶いた卵黄を刷毛でまんべんなく塗り、オーブンで焼けば完成です。
「お茶の時間にちょうど焼きたてをお持ちしますね」
厨房から出てきた料理長がにこにことシルクへ告げた。
そうです。今日はアツアツなのです。
冷めてリンゴがしんなりしてるのも美味しいけれど、熱々サクサクに冷たいバニラアイスのハーモニーは譲れない。
「楽しみにしててね」
「はいっ!!」
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