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鉄壁のマイペース
しおりを挟む「ねぇねぇねぇねぇ!シルクちゃんとはどんな関係なのっ?」
胸の前で両手の拳を握って前のめりに尋ねてくる姉、イリーネ。
めちゃくちゃ前のめりだった。
どれくらいかって言うと、座席からほぼ腰が浮いているくらいの前のめり。
興奮に頬を染め、空色の瞳をキラキラと輝かせ乙女モード全開ながらも、揺れる馬車に微塵も体勢を崩さないところは流石の騎士の体幹といったところだろう。
「そもそも姉さんと兄さん、なんでこっち乗ってるの?」
こっち、というのは馬車のことだ。
ランドバーグ家が用意してくれた馬車は二台。
家に帰る用と、城へ向かう用だ。そして前を走る馬車は空。
「俺もこのまま父上のとこ向かうことにしたし、折角久しぶりなのに落ち着いて話も出来なかったからな」
そう言ってヘンリーがくしゃくしゃと髪を撫でてくれる。
イリーネも「癒しが足りない!」とぎゅーと抱き着いてきた。
どうやら道が同じ途中まではこっちの馬車に乗って、分かれ道で乗り換えるつもりのようだ。
「で、で?シルクちゃんとは??」
そしてイリーネのテンションが異様に高い……。
「どう、って……お友達??」
照れる様子すらなく首を傾げる弟の姿にイリーネの肩がガックリ下がった。
なんというか、あまりにも普通のクラレンスだった。
もっとこう、甘酸っぱいあれこれを期待してたのにっ!!
「……諦めろ」
失意の妹にヘンリーがそう声をかける。
とはいえ、ヘンリー自身も驚いていた。
ずいぶんと二人に懐かれていたのもあるし、あれだけの美少女に好意も露わに口付けされてこれだけ通常運転でいられるのはいっそ称賛ものだ。
少なくとも自分には無理。同じ年頃の美少女にそんなことをされたらまず舞い上がる自信がある。
「クラレンスはシルク嬢のことどう思ってんの?」
「好きだよ?」
「「……」」
「考え方もしっかりしてて恰好いいなって思うし、優しいし可愛いよね。エルのいいお姉ちゃんだし」
「「…………」」
好意。紡がれるのは間違いない好意だ。
「あー、それは……友人として?」
額を押さえたヘンリーが問う。
「うんっ!」という元気なお答え。
「お、女の子としてはどう?」
「え?だから可愛いなって思うよ?負けず嫌いだったり、意外と子どもっぽいとこも可愛い」
「それ……シルクちゃんにも、言った??」
「うん。それがどうしたの?」
「「………………」」
長い沈黙のあと、兄妹は顔を近づけひそひそと話し合う。
「に、兄さん。これってどっち?いつも通り過ぎてわかんない!」
「俺だってわかんねぇよ!通常運転すぎんだろ」
「と、とりあえず脈なしではないわよね」
「だな。それにしてもよくあんな照れもせずに口にできんな。しかも本人にまでかよ」
「エドワード兄さんとはまた違ったナチュラルさね。根が素直なんだろうけど。ヘンリー兄さんもちょっと見習った方がいいわよ」
「うっせぇ!余計なお世話だ」
なにやら兄妹喧嘩をはじめた二人を「仲良しだなー」とのんびり見守るクラレンス。
「じゃあ気をつけて帰ってね」
気をつけてもなにも馬車に乗ってるだけなのだが、「はーい」といい子のお返事をして「お仕事がんばってくださいー」と二人を見送った。
そしてクラレンスはお泊りが一泊伸びて心配してるみんなが待つお家へと帰るのだった。
涙ながらにメイド長の抱擁を受けるまであと15分。
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