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勇敢で誇り高いお姫様
しおりを挟むまずは大人たちも交えてお茶をした。
さっくりと焼けたスコーンをわってクロテッドクリームをたっぷりとつける。濃厚なミルクの甘みがあるのにあっさりと食べられる。
二口目はそこにブラックカラントのジャムもプラスした。
タルトは小振りなフルーツタルトをチョイス。たっぷりのフルーツが瑞々しい。
ひととおり自己紹介などを含めたティータイムを終え、大人と子どもは別行動となった。
子ども同士のほうが話しやすいかと思われたようだ。
別れ際、夫人から心配そうな縋るような瞳を向けられたのが印象的だった。
「シルク様とエリシュオン様のご趣味はなんですか?」
「私は読書が趣味ですわ。知識を得ることは楽しいですもの」
「ぼ、ぼくもご本好き」
「クラレンス様はいかがですの?」
「僕も読書は好きですよ。あと料理とかなにかを作るのも」
「お料理をなさいますの?」
料理の話をすればずいぶんと驚かれた。
だけど貴族らしくも男性らしくもないその趣味にも蔑みの色はなく、興味深く話を聞いてくれる。
エリシュオンの部屋へと移動しての会話は思いのほか弾んだ。
最初はどう接していいか不安だったクラレンスだが、話をふればシルクが思った以上に気安く返してくれるからだ。
話をしているとその聡明さがよくわかった。
弟のエリシュオンは人見知り気味だったが、姉が大好きなのが見てとれ、大好きな姉が一緒だからか会話もわりとスムーズだ。
そしてシルクはシルクでクラレンスに好印象を持っていた。
元々社交的だったシルクは例の一件で世界が変わった。
自身が気にする以上に周りが気にして距離をおき、または好奇を露わにした。
バケモノを見る瞳でも見られた。
だけどクラレンスは怯えることも、逆にこちらに気をつかいすぎることもなく話をしてくれる。
普通に話してくれる。
それだけのことがシルクにとっては家族や屋敷の者以外でとても久しぶりだった。
シルク付きのメイドたちも仲良く話す子どもたちにほっと息を吐く。
完璧な笑顔といかないまでもシルクが口元をほころばせる様子が嬉しく、まだ距離がありながらもエリシュオンが自分から話を振る姿は珍しい。
そうして仲良く話す子どもたちだが……向き合って話していれば、その視線がときおり顔の隠された半分へ向いてしまうのは仕方のないことだった。
悪意があるわけではない。
だけどそれでも人の視線は自然と隠されたものに向きがちだ。
「気になりますか?」
真っ直ぐに聞いてくるシルクに無意識に視線が向いてしまったクラレンスが「あっ、ごめんなさい」と小さく謝る。
「別に構いませんわ。仕方のないことですし、もっと露骨な視線や言葉を向けてくる方もいらっしゃるもの」
「……姉さま」
不安そうにきゅっとスカートを握ってくるエリシュオンを宥めるように小さな手に自らの手を重ね、弟の手を握ったのとは反対の手がそっと前髪をどける。
「姉さまっ!」
「お嬢様っ!!」
驚く弟やメイドの声をよそに顎を引いたシルクは真っ直ぐにクラレンスを見る。
見据えるような瞳の強さだった。
額から頬まで、右半分が赤黒く爛れていた。
それを隠すようにそのうえに白粉が塗られているが、その白では隠しきれないアザ。
濃すぎる化粧にか、アザのない反対側のこめかみまで微かに肌が荒れている気がした。
その下にあるものを聞かされていたクラレンスも小さく息を呑む。
だけど大袈裟に顔をしかめたり背けたりしない姿に前髪をどけた手を放し、ぎこちなくシルクは微笑んだ。
「お見苦しいものを見せてごめんなさい。だけどこれがいまの私ですの。そして私は自分の行動を少しも後悔しておりませんわ。確かに令嬢として私の価値はなくなりました。だけど姉として、侯爵家の娘として、大切な弟でありランドバーグ家を担う後継であるこの子を守ったのは私の誇りです。なんら恥じるつもりはありませんわ」
真っ直ぐな、言葉だった。
弟を抱きしめたシルクの真っ直ぐな瞳はどこまでも美しかった。
無意識にのばした指先が髪のうえからそっと頬に触れる。
「……痛く、ない?」
それはなによりも気になったことだった。
予想外の反応だったのか、シルクの大きな瞳がいっそう大きく見開かれる。
次いで、くしゃりと表情が歪んだ。
「ええ、痛みはありませんの」
「そっか」
良かった、と小さな安堵が漏れる。
その日、新たな友だちが二人できた。
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