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気軽なオシャレのビジューヘアゴム

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当事者が知らぬ間に商談がまとまっていた。

二人からの報告にいつの間に……と驚くクラレンスの口から漏れた言葉は「王都のケーキ、おそるべし」。
あまりにも美味しくてケーキに夢中になりすぎた。

真剣な声でとんちんかんな呟きをするマイペース少年に大人二人が不安を覚えたのは無理もない。
悪い誰かに騙されないか心配になるぽわぽわ具合だった。

ふわふわぽわぽわした様子に不安を覚えると同時に、商人としてエリックはこの少年に並々ならぬ興味を覚えた。

提案された薬草のペーストは画期的だし、薬草としてだけでなく料理に使えるというのも興味深い。

ただ、商品としては調理用には売り出す気はない。
騎士団でも採用されるそうだし、冒険者ギルドにも摂取しやすい薬草の加工食品としてだけでなく、調理用にも卸してしまえば薬草の需要が追い付かなくなると考えたからだ。

なので調理用としてはトマトペーストの案を買い取った。
これは元々商談であげられていたわけでなく、会話の中でエドワードが漏らしただけなのだがエリックがすぐさま食いつき案を買い取ったのだ。

瓶詰の加工なら魔法の鞄マジックバックで保存可能だし、トマトペースト以外にも色々試作が可能だ。
そしてそんなアイデアを次々生み出すクラレンスに商人のカンが告げていた。

この少年を逃がすな、と。

人の好さそうな顔をしているが中身は商人。
好機チャンスと商機は逃がさないのが商人だ。
ガッツリ目をつけられたクラレンスだった。

その後は会長自ら店内を案内してくれ、家族や屋敷のみんなにあれこれとお土産を選んだ。

臨時収入も入ったことだし自分で支払う気だったのだが……気づいたらお会計は済だった。
しかもエドワードはクラレンス自身にもお菓子だのなんだの沢山買ってくれた。
いいお兄ちゃんである。


そしてなぜかクラレンスたちは応接室に逆戻りしていた。

発端は日常使いできそうな女性ものの装飾品コーナーを見ていたクラレンスの一言。

「輪っかにしたゴムに糸をぐるぐる巻くことってできますか?」

リボンやらコームを手に取りつつの唐突な質問だった。

なお、クラレンスにしてみれば脈略みゃくりゃくはあるのだ。
探していたような装飾品がなかったのでならば作って貰えないかなーという単純な発想だった。
ウィステリア商会が貴族からの特注の注文にも対応していることは聞いていたので。

そして興味を持ったエリックに「ちょっとあちらのお部屋に戻りましょうか?」と連れ戻されたのだった。

「ゴムに糸を巻く。それをなにに使われるのです?」

「髪を結ぶヘアゴムです」

「ヘアゴム……」

「ゴムのままだと髪が絡まりやすいし、見栄えもよくないので糸をぐるぐる巻いてゴムが見えないように加工できますか?それに飾りを取り付けたいです。輪っかは手首ぐらいの大きさで」

「どうしてそんなものを作ろうと思ったんだ?母上やイリーネにプレゼントか?」

エドワードの問いにこくりと頷く。



それは数日前のことだった。

騎士服や動きやすい服装の多い姉・イリーネが珍しくおめかししていた。
女性騎士とはいえ貴族令嬢。
友人の茶会にお呼ばれだったらしい。

華やかなドレスを纏い、髪も結い上げた姉はとても綺麗だった。
その時に彼女が言っていたのだ。

「普段はあまりオシャレができないから……」と。

残念そうな姉の言葉から思いついたプレゼントだった。

職務中や訓練中にアクセサリーの類は不向きだろう。
団服に勝手にアレンジを加えるわけにもいかない……。

令嬢たちのような派手な髪飾りは無理でも、ヘアゴムならイケるのでは?と思ったのだ。

姉はポニーテールだし、母は低めの位置で一つに髪を括っている。
ワンポイントの装飾や、半円形のメタルプレートのヘアゴムなら騎士団でも変に浮き過ぎず、適度にオシャレを楽しめる。
なにより紐よりゴムの方が髪を結ぶのも楽だと思う。

そんなことをつらつら語ってみれば、

「商品化をっ!是非、当商会にて商品化させてください!!」

身を乗り出したエリックにガッツリ両手を握りしめられ詰め寄られた。


とりあえず、作ってはもらえるみたいです。

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